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高齢者施設における年1回の骨粗鬆症治療の予防効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
高齢者施設における年1回の骨粗鬆症治療.jpg
今月のJAMA Intern Med.誌にウェブ掲載された、
1年に1回の注射をするだけの骨粗鬆症治療薬の、
高齢者施設の入所者での有効性を検証した論文です。

骨粗鬆症とそれに伴う骨折は、
高齢者の健康を考える上で、
予後を左右する非常に大きな問題です。

高齢者が寝たきりになる原因は、
脳卒中の後遺症と共に、
躓いて転んだ時に起こる、
大腿骨頸部骨折の関与が大きいからです。

また、高齢者の背骨の骨折は、
腰の曲がりの原因となり、
その痛みの辛さも勿論ですが、
逆流性食道炎や肺炎などのリスクになり、
また歩行などの動作も不安定になるので、
それ自体がまた別箇の骨折のリスクになります。

僕は近隣の特別養護老人ホームの入所者の、
健康管理に関わっていますが、
転倒とそれに伴う骨折が、
誤嚥による肺炎や風邪などの感染症と並んで、
入所者の予後を、
最も決定する因子であることは間違いがありません。

骨粗鬆症の治療薬として、
最もその骨折予防効果が実証されているのは、
ビスフォスフォネートと呼ばれる薬剤です。
この薬は骨の表面に沈着することにより、
骨吸収を強力に抑制する効果を持つ薬です。

アレンドロン酸(商品名ボナロン、フォサマックなど)や、
リセドロン酸(商品名ベネット、アクトネルなど)はその代表で、
今では週1回の飲み薬がその主力で、
それ以外に4週間に1回の飲み薬や、
1か月に1回の注射薬などがあります。

このビスフォスフォネートはただ、
健康な骨を作る薬、という訳ではなく、
明瞭な骨折予防効果と骨塩量増加効果を持つ一方、
抜歯の際に問題となる顎骨壊死や、
特殊な骨の部位の病的な骨折など、
特有の有害事象も報告されています。
高価な薬でもあります。

従って、
骨粗鬆症の診断された全ての高齢の患者さんに、
こうした薬剤の使用が望ましい、
ということにはなりません。

1つの問題は、
老人ホームのような、高齢者の施設において、
骨折予防の持つ意義は非常に大きな反面、
薬剤の大規模な臨床試験においては、
高齢者施設の入所者は除外されている、
と言う点にあります。

つまり、
老人ホームにおいても、
ビスフォスフォネートの使用が骨折予防に有効で、
患者さんの予後の改善に繋がる、
という精度の高いデータは、
あまり存在していないのです。

そこで今回の文献においては、
アメリカのナーシングホームなどの施設に入所している、
65歳以上の高齢女性で、
これまでにビスフォスフォネートの治療歴がなく、
背骨や大腿骨頸部の骨折の既往はないけれど、
登録時の骨塩定量検査で、
骨粗鬆症と診断された181名を対象とし、
くじ引きで2つのグループに分けて、
患者さんにも主治医にも分からないように、
一方はビスフォスフォネートの注射薬を使用し、
もう一方は偽の注射を使用して、
その後2年間の経過観察を行なっています。

ビスフォスフォネートは、
ゾレドロン酸の5ミリグラムの静脈注射が、
1回のみ施行されています。

この薬は元々悪性腫瘍の骨病変などの治療薬で、
それがその骨吸収抑制効果の持続の長さから、
骨粗鬆症治療薬にスイッチされて、
日本でも旭化成ファーマの手で、
第3相の臨床試験が進められています。

たった1回の使用により、
3年間に渡りその効果が持続し、
背骨の骨折を70%、
大腿骨頚部骨折を41%低下させる、
という骨折予防効果が、
2007年のNew England…誌に報告されています。
ただ、有害事象として心房細動という不整脈は、
偽薬と比較して2.5倍も増加していて、
その長期の安全性にはまだ疑義を残しています。

そして、この結果は施設入所者のものではありません。

それでは、今回の結果はどうだったのでしょうか?

背骨及び大腿骨頚部の骨塩量は、
偽注射群と比較して、
注射後1年、2年のどちらの時点でも、
有意に増加していました。

一方でその間の骨折の頻度については、
ゾレドロン酸群で20%であったのに対して、
偽注射群が16%と、
有意差はないものの治療群の方が骨折が多い傾向があり、
2年間の死亡リスクについても、
ゾレドロン酸群が16%であったのに対して、
偽注射群が13%と、
これも有意ではありませんが、
治療群の方が生命予後も悪い傾向にありました。

観察期間中の転倒の頻度も、
特に複数回の転倒については、
ゾレドロン酸群の方が多い傾向が認められました。

つまり、
ゾレドロン酸の治療を行なうと、
骨塩量の低下は明らかに予防されるのにも関わらず、
転倒のリスクは増し、
結果として骨折も増え、
生命予後も悪い傾向が、
有意ではないものの認められました。

2007年のデータでは明確に骨折リスクは低下していますから、
それとは完全に相反する結果です。

何故このような違いが生じたのでしょうか?

現時点で断定的なことは言えませんが、
骨塩量が増えても、
転倒し易い環境であれば、
転倒のリスクが増加すれば、
当然骨折リスクも増加することが想定されます。

ゾレドロン酸の使用により、
不整脈のリスクの増加など、
転倒のリスクを高める要因が増したとすれば、
骨量自体は増えていても、
骨折リスクも生命予後も悪化したとしても、
不思議ではないように思います。

1回のみの注射で、
その後3年間の骨折予防になるとすれば、
老人ホームなどの高齢者に対しての医療としては、
ワクチンと同様の感覚で導入が可能であり、
非常に有用性が高いと思いますが、
実際にはそう単純なものではなく、
安全性を含めたトータルな検証が、
今後必要であるように思います。

特に今回のデータは、
糖尿病の頻度や抗痙攣剤の使用頻度などの点で、
ゾレドロン酸群が有意に多くなっていて、
そうした点でも、
今回の結果のみで断定的なことが言えるものではなく、
今後のデータの蓄積を期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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