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リツキシマブによるANCA関連血管炎の寛解維持療法の効果 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ANCA関連血管炎へのリツマキシブの効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
全身の血管の炎症を伴う難病の、
新しい治療法についての論文です。

原因不明の発熱や体重減少の原因の1つとして、
ANCA関連血管炎という一連の病気があります。

ANCAというのは、
抗好中球細胞質抗体の略で、
これは白血球に対する一種の自己抗体ですが、
この抗体の陽性率が高く、
全身の血管の炎症など、
特徴的な所見を示す多発性の血管炎を、
ANCA関連血管炎と総称しています。

この中には、
全身の小さな血管に炎症が起こって、
肺の出血や進行性の腎炎を来す、
顕微鏡的多発血管炎(MPA)と、
その腎臓限局型の、
腎限局型ANCA関連血管炎、
同じような病態ですが肉芽腫というしこりを伴う、
多発血管炎性肉芽腫症(GPA/WG)、
そしてアレルギー症状を伴い喘息などを合併する、
アレルギー性肉芽腫性血管炎(CSS/AGA)があります。

医療記事などを読むと、
大病院などに行って検査をすれば、
たちどころに病名が判明し、
僕のような馬鹿な末端の医療者が、
誤診をするだけのように思われるかもしれませんが、
意外にそうでもありません。

以前ブログにも書いたことがありますが、
僕が以前経験した事例では、
喘息症状と鼻炎、結膜炎から、
発熱の持続と食欲不振、体重減少、
炎症反応の上昇と鼻炎の悪化、
そして肺の炎症の出現と、
後から思えばかなり典型的な、
アレルギー性肉芽腫性血管炎の経過でありながら、
大学病院の耳鼻科、呼吸器内科、眼科とたらいまわしにされ、
その何処でも「ただの風邪」、
「ただの鼻炎」、「ストレス」などと言われ、
心療内科の受診が望ましいとされましたが、
その後肺症状が悪化したため、
さすがにこれは…ということで、
MPO-ANCAが陽性で、
診断に至ったという事例がありました。
勿論僕も分からなかったので大きなことは言えませんが、
「これは心気症だ」というような先入観があると、
意外に誤診が起こるものだと実感しました。

ANCAには、
その標的となる抗原の種類によって、
MPO-ANCAとPR3-ANCAという2種類があり、
他にも種別のあることが知られています。
そして、多発血管炎性肉芽腫症では、
その9割以上でPR3-ANCAが陽性なのに対して、
顕微鏡的多発血管炎では7から8割がMPO-ANCA陽性となり、
アレルギー性肉芽腫性血管炎では5割でMMPO-ANCAが陽性になるなど、
病型により陽性となる抗体に違いのあることも分かっています。

このANCA関連血管炎には地域差があり、
日本では顕微鏡的多発血管炎の患者さんが多く、
その発症率も増加しているのですが、
高米では多発血管性肉芽腫症がずっと多い、
というような違いが存在しています。

従って、この病気の場合、
必ずしも欧米のガイドライン通りの治療が、
日本でも適切であるかどうかは分かりません。

このANCA関連血管炎の治療は、
一旦病状の活動性を消失させるための、
「寛解導入療法」と、
その状態を維持させるための、
「維持療法」、
そして活動性が復活してしまった再燃に対する、
再燃時治療とに分かれます。

多くの自己免疫疾患や膠原病と同じように、
この病気も再燃の多いことが大きな問題です。

寛解導入療法については、
シクロフォスファミドという免疫抑制剤とステロイドを併用する治療が、
最も有用であることが、
日本の臨床試験においても、
欧米の臨床試験においても、
ほぼ確立されています。

ただ、重症度によって、
薬の配分が変わったり、
日本ではステロイドのパルス療法が施行されたりなど、
細部の違いは色々とあります。

日本の臨床試験における、
この治療の寛解導入の成功率は、
46例中42例の91.3%です。

しかし、このうちの19%の8例は、
寛解導入後28週間くらいの間に再燃しています。

日本の臨床試験では、
維持療法としてステロイドを使用し、
アザチオプリンという免疫抑制剤が、
必要に応じて併用されました。

海外においてもこの再燃の問題は大きく、
長期的には寛解に至った患者さんの半数以上は再燃する、
と上記文献の解説記事には書かれています。

再燃を予防するための維持療法としては、
シクロフォスファミドの持続は発癌性などの問題が大きいので、
アザチオプリンもしくはメトトレキセートという、
より有害性の少ない薬に変更して、
使用を継続することが欧米では一般的です。

ただ、これでも矢張り再燃が多いということで、
今回試みられているのは、
リツキシマブという分子標的薬を、
維持療法として使用する、という方法です。

リツキシマブはリツキサンという商品名で、
日本でも使用されている注射剤で、
その適応はB細胞リンパ腫とANCA関連血管炎などの血管炎症候群です。

この薬は抗CD20モノクローナル抗体と呼ばれ、
身体のB細胞というリンパ球にくっついて、
B細胞を一時的に身体から排除する、
という作用を持つ薬剤です。

B細胞は抗体を産生する細胞で、
ANCA関連血管炎においては、
その炎症の主体であると考えられています。

従って、大雑把に言えばこの薬は、
シクロフォスファミドと同等の作用を持ち、
シクロフォスファミドよりは毒性が少ない薬剤として、
ANCA関連血管炎の治療薬として注目されました。

当初は寛解導入にシクロフォスファミドの代わりに使用されました。
しかし、シクロフォスファミドと比較した臨床試験においては、
寛解率は同等で有害事象の発生にも差がなく、
非常に高価な薬であることを考えると、
とても第一選択の薬剤とは言えませんでした。

今回の使用法はこれまでとは別個の発想で、
まずシクロフォスファミドとステロイドの併用による、
通常の寛解導入治療を行ない、
完全寛解の得られた患者さんに対して、
これまでのアザチオプリンによる維持療法と、
その代わりにリツキシマブを、
最初だけ2週間毎に、
その後は半年毎に使用して、
28ヵ月までの再燃率を比較しています。

対象はフランスにおいて、
完全寛解に至ったANCA関連血管炎の患者さん、
トータル115名で、
その内訳は多発血管炎性肉芽腫症が87名、
顕微鏡的多発血管炎が23名、
そして腎限局型ANCA関連血管炎が5名です。
アレルギー性肉芽腫性血管炎の事例は含まれていません。
また、患者さんの多くがPR3-ANCA陽性です。

患者さんをくじ引きで2つの分け
(どちらに振り分けられたのかは隠していません)、
一方はアザチオプリンを22ヶ月間継続して使用し、
もう一方はリツキシマブ500ミリグラムを、
開始時、2週間後、半年後、1年後、1年半後に、
それぞれ1回ずつ点滴で使用します。

その結果…

28ヵ月の観察期間中、
アザチオプリン使用群では、
58例中29%に当たる17例に再燃が認められたのに対して、
リツキシマブ群では再燃は57例中2%の3例に留まりました。
アザチオプリンの方が6.61倍も再燃が多いという、
明確な差が認められたのです。
両群で感染症や発癌などの有害事象には、
明確な差はありませんでした。

お分かりのように、
この結果はかなり画期的なもので、
これだけ再燃率を減らした維持療法は、
これまでに例がなく、
勿論追試や再検証は是非必要ですが、
現行もう使用されている薬の、
使い方を工夫しただけですから、
今後治療の大きなオプションとなる可能性が、
高いように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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chibita

はじめまして。chibitaと申します。
身内が顕微鏡的多発血管炎になり入院中1週間経過でクレアチニン1.6の状態で、リツキサンを週に1回4週、そのほかはプレドニンを60mg治療予定です。こちらのサイトを読み、リツキサンは再燃が少ないようで期待しています。
こちらの治療は86%くらい有効なようなのですが、リツキサン投与でクレアチニンが下がることはあるのでしょうか。または今の状態(1・6)を維持で寛解という意味なのでしょうか。今は治療の経過を見守っています。
by chibita (2016-08-18 22:32) 

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