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重症認知症における投薬の継続必要性について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
高度認知症に対する不要な投薬について.jpg
今年9月のJAMA Intern Med誌にウェブ掲載された、
高度の認知症の患者さんに対する、
ケア施設での処方について分析した論文です。

認知症の進行した高齢者の内服薬を、
どう考えるかというのは難しい問題です。

僕は特別養護老人ホームの診療にも、
少し関わっていますが、
現在では入所される方の殆どが、
完全な寝たきりで意思の疎通も困難な方か、
もしくは進行した認知症の方です。

基本的に全ての方が、
入所される前には医療機関に掛かっていて、
多くの方が複数の薬を飲んでいます。

その薬をどうするべきでしょうか?

薬にはそれぞれ、飲む目的が存在しています。

たとえば、高血圧の薬は、
心筋梗塞や脳卒中の予防が、
その飲み続ける主な目的になる訳ですが、
高齢になればなるほど、
予防の意義は少なくなって来るのは必然なので、
何処かでもう飲むのを止めた方が、
ご本人にとってメリットが大きい、
という年齢なり状態は存在している筈です。

しかし、その地点が何処かを、
客観的に見定めるのは、
それほどた易いことではありません。

少しでも健康で不自由のない状態で、
なるべく長生きがしたい、というのが、
多くの方の願いだと思います。

しかし、人間は永遠に生きられるという訳ではありませんから、
治療薬や予防薬のような薬の果たす役割は、
自ずと高齢になればその意味合いを変えることになる訳です。

つまり、高齢者が薬を飲む意味合いは、
将来を見据えたものではなく、
敢くまで現在の生活を維持したり、
より改善したりする目的でなければなりません。

ただ、実際には全ての薬は高齢者ではない年齢層で、
主にその効果が確認され、
高齢者がその薬をいつまで飲み続けるのが妥当で、
どのように止めれば良いのかという答えは、
何処にも書かれてはいないのです。

上記の文献においては、
薬の継続が無意味な可能性が高い、
その最も顕著な例として、
進行した重度の認知症の高齢者のケースを取り上げています。

この場合の重度の認知症というのは、
アルツハイマー型認知症にせよ他の病型にせよ、
認知症の症状が治療の有無には関わらずに進行し、
家族の認知も不可能な状態となり、
身の周りのこと全てに介助が必要となったような状況のことです。

こうした状態の高齢者に対して、
果たして投薬治療が必要でしょうか?

仮にこうした状態が半年以上継続しているとすれば、
回復の可能性は限りなく低いと想定されます。

そうなると、
その高齢者がより苦痛や不自由なく、
今この瞬間の生活を送ることが、
あらゆる治療や介護の、
唯一にして最大の目標である、
ということになります。

しかし、実際にはそうした方にも、
「認知症の患者」として、
投薬治療が行なわれているケースは決して少なくはありません。

上記の文献においては、
アメリカの高齢者施設であるナーシングホームにおいて、
こうした重度の認知症の入所者に対し、
どのような投薬が行なわれているのかを、
処方のデータベースを利用して調査しています。
その結果、
5406名のナーシングホームの重度認知症の入所者のうち、
53.9%に当たる2911名が、
有効性が低いと想定される投薬を受けていました。

その内訳は、
アリセプトなどのコリンネステラーゼ阻害剤が、
最も多く36.4%で、
コリンネステラーゼ阻害剤と同じように、
認知症の進行抑制に使用されるメマンチンが、
次に多く25.2%、
そしてコレステロール降下剤のスタチンも、
22.4%で処方継続されていました。

コリンエステラーゼ阻害剤やメマンチンは、
最近の傾向としては、
より重症の認知症においても、
一定の介護負担軽減などの効果があるのではないか、
という意見があり、
必ずしも完全に無意味とは言い切れないと思いますが、
上記の論文においては、
少し古めの文献を引用して、
重症の認知症への効果は限定的であり、
心臓などへの有害事象のリスクも高いことから、
有害な処方であるとの見解を取っています。

個人的には、
全てのこうした処方を、
一律に進行した認知症であるから有害無益だ、
という大雑把な判断には疑問を感じますが、
それでも進行した認知症の入所者の3分の1以上に、
こうした処方が必要とは思いません。

その人の状況や家族の希望から、
投薬に一定の意義があると考えられる場合には、
まず半年くらい投薬を持続して、
それで投薬により、
介護負担の軽減を含めた、
有用性が確認されなければ、
その時点で中止する、というのが、
個人的には妥当なように思います。

スタチンの処方も、
基本的には将来の疾患の予防のためなので、
筋疾患などの副作用が、
高齢者ではより生じ易い可能性も考慮すると、
多くの場合は適切でないように思います。

日本においても勿論同様の現状はある訳ですが、
より合理的に社会保障をコスト意識で考えていると、
イメージ的には思えるアメリカでも、
これだけの有効性が疑問の処方が、
認知症の高齢者に行なわれているということ事実を見ると、
この問題の根深さを感じます。

高齢者医療に末端で関わる者としては、
高齢者への処方の必要性を、
常に客観的かつ科学的に、
見て判断する目を持ちたいと思いますし、
目の前の処方を、
安全に止めるタイミングを常に考えながら、
診療を続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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コメント 6

ちょんまげ侍金四郎

レビー小体型認知症を患っていた母親を昨年亡くした者として、今日の先生のお話は身にしみました。
最終的には肝臓の疾患が死因でした。
おそらくは長年飲んでいた多くの薬が原因だったんだろうなと思います。
なにせ酒は飲まなかったひとですから。。。
by ちょんまげ侍金四郎 (2014-11-13 08:47) 

Silvermac

高齢者のもの忘れと初期認知症は区別は難しいでしょうね。
by Silvermac (2014-11-14 06:10) 

kishizoe

改めて考えると、高齢で意思疎通もとれなくなってしまった方への漫然な薬の投与は、誰のためかと思いますね…
個人的には延命は望まないので無駄な医療はして欲しくありません。
前もって家族と話しあっておきたいものです。
by kishizoe (2014-11-14 18:15) 

fujiki

ちょんまげ侍金四郎さんへ
コメントありがとうございます。
高齢者の処方には、
より慎重でありたいと思います。
by fujiki (2014-11-15 08:42) 

fujiki

Silvermac さんへ
骨粗鬆症と一緒で、
何処から病気、というよりも、
治療により何を期待するか、
というような観点で、
区別はされているように思います。
by fujiki (2014-11-15 08:44) 

fujiki

kishizoe さんへ
コメントありがとうございます。
漫然とした処方は実際には多く、
見直しを心掛けたいと思います。
by fujiki (2014-11-15 08:45) 

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