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COPDの吸入ステロイドを中止するタイミングについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
COPDにおけるステロイド吸入の中止.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
慢性の呼吸器疾患の患者さんで、
薬を減量中止する、
タイミングと方法についての論文です。

一般の臨床に直結する、
意義のある研究だと思います。

COPDは慢性閉塞性肺疾患のことで、
主には喫煙の継続によってもたらされる、
肺の慢性の変化を総称した用語です。
その中には肺気腫や慢性気管支炎などが含まれ、
炎症などによる悪化を繰り返しながら、
徐々に呼吸機能が低下して行くのが特徴です。

このCOPDと良く似ているのが気管支喘息で、
こちらはアレルギー性の炎症が気道に起こり、
治療により呼吸機能自体は、
正常な状態に改善することが特徴です。

しかし、実際には気道の感染を繰り返して、
呼吸機能も低下することはありますし、
COPDが喘息と似通った病態を、
同時に呈することも稀ではありません。

ほんの10年くらい前には、
気管支拡張剤も吸入のステロイド剤も、
どちらも気管支喘息の薬で、
COPDへの使用は推奨されてはいませんでした。

しかし、近年になりCOPDにも、
まず抗コリン剤と呼ばれる吸入剤が有用だ、
という話になり、
それから長時間作用型のβ2刺激剤という薬が、
有用だという話になりました。

そして、まだ議論はありますが、
吸入のステロイド剤も、
COPDに使用されるようになりました。

つまり、喘息治療薬の多くが、
COPDにもその有用性を認められるようになったのです。

この抗コリン剤とβ2刺激剤はいずれも気管支拡張剤で、
吸入ステロイドは気道の炎症を抑える薬です。

いずれの薬剤もその使用により、
COPDの患者さんの息切れなどの症状を改善し、
急性増悪と呼ばれる一時的な状態の悪化を、
抑制する作用があるとされています。

しかし、患者さんの生命予後を改善したり、
呼吸機能の悪化を抑制したりする効果があるのかについては、
まだ明確な結論が得られていません。

シンプルに言えば、
COPDというのは進行性の病気なのですが、
その進行を明確に止めるような薬は、
未だ存在していないのです。
現状の薬の効果は、
あくまで症状の緩和と、
急性増悪の予防とに限られています。

COPDの患者さんが息切れなどの症状を訴えれば、
医者はまず3種類の吸入薬のうちどれかを開始します。

そして単剤の治療で不充分であれば、
もう1種類、更にもう1種類と薬が上乗せされることになります。

実際に製薬会社はこの3種類のうちの2種類を、
組み合わせた合剤を発売していて、
それが臨床で広く使用されているのです。

COPDによる症状が重度であれば、
3種類の薬全てが使用されることもあります。

この場合ガイドラインによれば、
最後に上乗せされるのは吸入ステロイドです。

しかし、実際にはこの3種類全ての吸入剤を併用した場合の効果と、
そこからステロイドを減量、中止するタイミングについては、
これまでに明確なデータが存在していませんでした。

今回の研究では、
重症のCOPDの患者さんに、
一定期間3種類の吸入剤の併用療法を行ない、
その後吸入ステロイドを減量、中止した場合と、
そのまま継続的に使用した場合とで、
患者さんの経過に違いが見られるかどうかを検証しています。

対象は23カ国の200の専門施設において、
診療を受けているトータル2485名のCOPDの患者さんで、
40歳以上で喫煙歴があり、
1年以内に急性増悪を来していて、
呼吸機能も1秒量が予測値の50%未満、
肺活量が予測値の70%未満という、
中等症から重症の事例に限定されています。

こうした重症の患者さんに対して、
抗コリン剤のチオトロピウム(スピリーバ)を1日18μg、
β2刺激剤のサルメテロール(セレベント)を1日100μg、
吸入ステロイドのフルチカゾン(フルタイド)を1日1000μg、
という3剤の併用療法を12週間継続し、
その後その半数ではそのままの治療を続け、
残りの半数ではまず6週間はフルチカゾンを1日500μgに、
その後の6週間は1日200μgに減量した上で中止します。

これは日本でも使用されているアドエアの、
高用量から中用量、低用量と減量することを示しています。

その結果…

12ヵ月の経過観察において、
ステロイドを中止しても継続しても、
健康状態にも急性増悪の発症までの期間にも、
呼吸機能の変化にも、
明瞭な差は認められませんでした。
(非劣性の基準を満たしました)

ただ、ステロイド離脱の時点での呼吸機能は、
継続群より軽度の低下を示し、
その差は観察期間のお終了時にも持続していました。

正直非常に微妙な結果です。

比較的高用量の吸入ステロイドを継続することは、
重症のCOPDにおいては、
むしろ感染のリスクの増加に繋がり易いように思いますし、
そうしたデータも存在していますが、
少なくとも1年程度の期間においては、
それほどの弊害はなさそうにも思える結果です。

ただ、その一方で一定期間の使用の後に、
慎重に減量し中止しても、
継続した場合と比較して、
明確な予後の違いは認められていません。

従って、より長期間の使用においては、
また別個の結果になる可能性もあるのですが、
吸入ステロイドの継続も1つの選択肢ではあり、
その減量も1つの選択肢としてはあり、
個々の患者さんの状態や経過に応じて、
そのどちらかを適切に選択することが、
臨床医に現時点で求められているのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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