SSブログ

慢性腎臓病における血圧コントロールはどうあるべきなのか? [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

明日から診療所は15日(金)まで夏季の休診となります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
CKDと血圧コントロールの予後.jpg
今月のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
慢性腎臓病の血圧コントロールについての論文です。

日本の高血圧のガイドラインにおいては、
高血圧のコントロールの目標値は、
上が140未満で下が90未満ですが、
慢性腎臓病と糖尿病に関しては、
より厳格に血圧をコントロールした方が、
予後が良いとの判断から、
上が130未満で下が80未満を目標値としています。

ただ、アメリカで今年改訂された、
JNC8という高血圧ガイドラインでは、
慢性腎臓病の患者さんにおいても、
目標値は上が140未満、下が90未満で良いということになっています。

つまり、この辺りの基準値の設定には、
まだ流動的な要素があるのです。

慢性の腎臓病における血圧コントロールの目標を、
どのくらいに設定すれば良いのか、
と言う点については、
実際にはそれほど明確な指針となるデータがない、
と上記文献には書かれています。

多くの高血圧の大規模臨床試験においては、
その多くで腎機能低下の患者さんは除外されています。
少数の臨床試験においては、
確かにより血圧が低いほど、
予後の良いことが示されていますが、
データは限られたもので、
対象となる患者さんの背景によるバイアスも否定出来ないので、
それだけで低いほど良いのだ、
と断言することは出来ないのです。

ランダム化比較試験と呼ばれる厳密な臨床試験は、
確かに結果の持つ意義が大きいのですが、
対象を絞り込んでいるので、
高血圧の患者さんのような雑多な集団に、
一般化するのは難しい面があります。

その一方で観察研究と呼ばれるような、
多数の患者さんを、後からまとめて分析したような疫学データは、
厳密性では落ちるのですが、
その一方で患者さんを選択していないので、
より一般の臨床の実態に近く、
例数も多いという利点があります。

ネットなどでは、
ランダム化比較試験だけを重要視されるような、
意見の方もいるのですが、
それは事例にもよりますし、
本来ランダム化比較試験の結果と、
観察研究の結果とが一致した時に、
それは一般の臨床の現場においての、
真実である可能性が高い、
と考えるべきではないかと思います。

以前ご紹介した今年のLancet誌の文献では、
イギリスの125万人の一般人口の解析として、
観察研究のデータではありますが、
上の血圧が115、下の血圧が75を下回らない範囲であれば、
血圧を下げることでのリスクの増加はない、
と言う結論になっていました。

しかし、この結論が慢性腎臓病の患者さんにおいても、
そのまま当て嵌まるとは思えません。

今回の研究では、
アメリカにおいて慢性腎臓病の65万人余のデータベースから、
77000人余を抽出し、
通常の血圧コントロールとより厳格な血圧コントロールとの、
予後の比較を行なっています。

慢性腎臓病の定義は、
推定の糸球体濾過量が60ml/min/1.73㎡未満で、
これは日本の基準と変わりはありません。
通常の血圧コントロールは、
上の血圧120から139のコントロールで、
より厳格なコントロールは上の血圧が120未満と決められています。
これは観察期間中に診察室で測定された血圧の、
半数以上がこの範囲であるかどうかで区分けされています。

患者さんの平均年齢は75歳くらいで、
平均の観察期間は6年間です。

その結果…

観察期間中の総死亡リスクは、
厳格なコントロール群において、
通常のコントロール群の1.70倍有意に高い、
という結果になりました。

つまり、
慢性腎臓病の患者さんにおいても、
上の血圧が120を下回るような血圧コントロールは、
患者さんの生命予後に、
悪影響を与える可能性がある、
という内容になっています。

これは高い血圧の方が良い、というような意味ではなく、
120から130代くらいを目標とするのが、
現状は妥当ではないかと言うもので、
120未満のコントロールは、
過ぎたるは及ばざるがごとし、
という結果になる可能性が高いと言う点に、
一般の臨床医としては注意を払って診療を続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

健康で100歳を迎えるには医療常識を信じるな! ここ10年で変わった長生きの秘訣

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
  • 発売日: 2014/05/14
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)





nice!(20)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 20

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0