胃酸抑制剤の使用とビタミンB12欠乏との関連性について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のJAMA誌に掲載された、
胃酸を抑える胃薬の長期使用と、
ビタミンB12の欠乏症との関連についての文献です。
ビタミンB12は、中にコバルトという金属原子を含む、
巨大で複雑な構造の化合物です。
これを作れるのは、一部の微生物だけです。
微生物が合成したビタミンB12は、
動物の組織に取り込まれます。
従ってビタミンB12は、
原則として動物性食品(肉、魚、貝と乳製品)、
にしか含まれていません。
普通ビタミンというと、
何となく野菜に入っているようなイメージがありますね。
でも、このB12に関しては、
野菜や果物には一切入ってはいないのです。
菜食主義者がビタミンB12の不足で、
貧血や神経障害になることがあるのは、
このためです。
ビタミンB12は高齢者で不足し易い、
と言われています。
それは、ビタミンB12が腸から吸収される仕組みに、
その原因があります。
ビタミンB12は、主に肉に含まれています。
肉の中にがっちり結び付いたビタミンは、
胃酸の働きによって、分離されます。
そして、胃から出る「内因子」と言われる蛋白質に、
代わりにくっついて、
腸から吸収されるのです。
高齢者では、胃酸の出る量は一般に少なくなっています。
胃の粘膜も萎縮して薄くなっています。
すると、肉がうまく分解されなくて、
B12が出てこなかったり、
出てきても、内因子が少なくてうまく吸収されないことが、
起こり易いのです。
「内因子」が足りなくて、
ビタミンが吸収されないタイプの貧血を、
特別に「悪性貧血」と呼んでいます。
このように、ビタミンB12がしっかり吸収されるためには、
胃酸がしっかりと出ていることが必要です。
高齢者では胃酸の分泌は抑制されていますが、
沢山のお薬を飲まれているようなケースでは、
副作用予防という、本来はあまり望ましくはない使用法により、
胃酸を抑えるような胃薬が使用されます。
また、背骨が骨粗鬆症により変形すると、
胃酸の出自体は少なくても、
その逆流が起こり易くなるため、
逆流性食道炎になって、
その治療のために、
矢張り胃酸の抑制剤が使用されます。
特に最近ではH2ブロッカーや、
より強力な胃酸抑制剤である、
プロトンポンプ阻害剤が使用されるようになったので、
胃酸は薬により、
以前より強力に抑えられるようになりました。
高齢者はビタミンB12を含む肉などの食品は、
消化の問題もあって摂取量が減りますし、
胃酸の出は悪くなるのですから、
ビタミンB12の足りなくなる要件は整っています。
そこで更に胃酸を抑えるような薬が長期間継続的に使用されれば、
よりビタミンB12欠乏が生じ易くなる、
という想定が成り立ちます。
長期間継続的に、と言うのは、
ビタミンB12の体内の備蓄量は非常に多くて、
短期間の摂取不足で欠乏することは考え難いからです。
ただ、実際にどの程度の胃酸抑制剤の使用で、
どの程度ビタミンB12の欠乏が生じるのか、
というような点については、
あまり明確なデータが存在していませんでした。
今回の研究では、
アメリカの住民データと処方記録や病名登録などのデータを活用して、
25000件余のビタミンB12欠乏症の患者さんを、
18万人余の対照群と比較して、
2年以上に渡る長期の胃酸抑制剤の使用との関連性を検証するという、
非常に大規模な検討を行なっています。
ただし、ビタミンB12 の欠乏は、
悪性貧血などの病名からの検索や、
ビタミンB12のサプリメントの継続使用歴などから推測したもので、
個々の患者さんを確認している訳ではなく、
また血液のビタミンB12の濃度などで、
診断がされているものでもありません。
その結果…
ビタミンB12の欠乏が疑われる病名や処方がされている患者さんのうち、
12%に当たる3120名では2年かそれ以上、
プロトンポンプ阻害剤の使用が行なわれていて、
4.2%に当たる1087名では、
2年かそれ以上のH2ブロッカーの使用が行なわれていました。
プロトンポンプ阻害剤を2年かそれ以上使用することにより、
ビタミンB12欠乏により病気になるリスクは1.65倍に、
H2ブロッカーを2年かそれ以上使用することによる同様のリスクは、
1.25倍に、それぞれ有意に増加していました。
トータルに見るとそれほどのリスクとは言えませんが、
これは敢くまで病気となった比率ですから、
実際にはそこまでではなくても、
軽度の欠乏に至っている方は、
もっと多いという可能性があります。
もう少し詰めた検証を行なわないと、
この問題は明確にはならないという気がしますが、
特に高齢者ではビタミンB12の欠乏は生じ易いので、
高齢者に胃酸の抑制剤を使用する場合には、
その必要性をしっかり吟味すると共に、
その長期の使用によりビタミンの欠乏が起こる可能性を考えて、
ビタミン濃度をチェックするなど、
きめ細かい対応が必要となるように思います。
個人的には診療所において、
高齢の患者さんでは、
過剰検査にならない範囲において、
ビタミンB12の血液濃度は測定するようにしていますが、
それほど強い関連性が、
胃酸抑制剤にあるような印象は持っていません。
ただ、意外にその頻度の多いことは事実で、
そうした可能性は常に念頭に置きつつ、
日々の診療に当たりたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今月のJAMA誌に掲載された、
胃酸を抑える胃薬の長期使用と、
ビタミンB12の欠乏症との関連についての文献です。
ビタミンB12は、中にコバルトという金属原子を含む、
巨大で複雑な構造の化合物です。
これを作れるのは、一部の微生物だけです。
微生物が合成したビタミンB12は、
動物の組織に取り込まれます。
従ってビタミンB12は、
原則として動物性食品(肉、魚、貝と乳製品)、
にしか含まれていません。
普通ビタミンというと、
何となく野菜に入っているようなイメージがありますね。
でも、このB12に関しては、
野菜や果物には一切入ってはいないのです。
菜食主義者がビタミンB12の不足で、
貧血や神経障害になることがあるのは、
このためです。
ビタミンB12は高齢者で不足し易い、
と言われています。
それは、ビタミンB12が腸から吸収される仕組みに、
その原因があります。
ビタミンB12は、主に肉に含まれています。
肉の中にがっちり結び付いたビタミンは、
胃酸の働きによって、分離されます。
そして、胃から出る「内因子」と言われる蛋白質に、
代わりにくっついて、
腸から吸収されるのです。
高齢者では、胃酸の出る量は一般に少なくなっています。
胃の粘膜も萎縮して薄くなっています。
すると、肉がうまく分解されなくて、
B12が出てこなかったり、
出てきても、内因子が少なくてうまく吸収されないことが、
起こり易いのです。
「内因子」が足りなくて、
ビタミンが吸収されないタイプの貧血を、
特別に「悪性貧血」と呼んでいます。
このように、ビタミンB12がしっかり吸収されるためには、
胃酸がしっかりと出ていることが必要です。
高齢者では胃酸の分泌は抑制されていますが、
沢山のお薬を飲まれているようなケースでは、
副作用予防という、本来はあまり望ましくはない使用法により、
胃酸を抑えるような胃薬が使用されます。
また、背骨が骨粗鬆症により変形すると、
胃酸の出自体は少なくても、
その逆流が起こり易くなるため、
逆流性食道炎になって、
その治療のために、
矢張り胃酸の抑制剤が使用されます。
特に最近ではH2ブロッカーや、
より強力な胃酸抑制剤である、
プロトンポンプ阻害剤が使用されるようになったので、
胃酸は薬により、
以前より強力に抑えられるようになりました。
高齢者はビタミンB12を含む肉などの食品は、
消化の問題もあって摂取量が減りますし、
胃酸の出は悪くなるのですから、
ビタミンB12の足りなくなる要件は整っています。
そこで更に胃酸を抑えるような薬が長期間継続的に使用されれば、
よりビタミンB12欠乏が生じ易くなる、
という想定が成り立ちます。
長期間継続的に、と言うのは、
ビタミンB12の体内の備蓄量は非常に多くて、
短期間の摂取不足で欠乏することは考え難いからです。
ただ、実際にどの程度の胃酸抑制剤の使用で、
どの程度ビタミンB12の欠乏が生じるのか、
というような点については、
あまり明確なデータが存在していませんでした。
今回の研究では、
アメリカの住民データと処方記録や病名登録などのデータを活用して、
25000件余のビタミンB12欠乏症の患者さんを、
18万人余の対照群と比較して、
2年以上に渡る長期の胃酸抑制剤の使用との関連性を検証するという、
非常に大規模な検討を行なっています。
ただし、ビタミンB12 の欠乏は、
悪性貧血などの病名からの検索や、
ビタミンB12のサプリメントの継続使用歴などから推測したもので、
個々の患者さんを確認している訳ではなく、
また血液のビタミンB12の濃度などで、
診断がされているものでもありません。
その結果…
ビタミンB12の欠乏が疑われる病名や処方がされている患者さんのうち、
12%に当たる3120名では2年かそれ以上、
プロトンポンプ阻害剤の使用が行なわれていて、
4.2%に当たる1087名では、
2年かそれ以上のH2ブロッカーの使用が行なわれていました。
プロトンポンプ阻害剤を2年かそれ以上使用することにより、
ビタミンB12欠乏により病気になるリスクは1.65倍に、
H2ブロッカーを2年かそれ以上使用することによる同様のリスクは、
1.25倍に、それぞれ有意に増加していました。
トータルに見るとそれほどのリスクとは言えませんが、
これは敢くまで病気となった比率ですから、
実際にはそこまでではなくても、
軽度の欠乏に至っている方は、
もっと多いという可能性があります。
もう少し詰めた検証を行なわないと、
この問題は明確にはならないという気がしますが、
特に高齢者ではビタミンB12の欠乏は生じ易いので、
高齢者に胃酸の抑制剤を使用する場合には、
その必要性をしっかり吟味すると共に、
その長期の使用によりビタミンの欠乏が起こる可能性を考えて、
ビタミン濃度をチェックするなど、
きめ細かい対応が必要となるように思います。
個人的には診療所において、
高齢の患者さんでは、
過剰検査にならない範囲において、
ビタミンB12の血液濃度は測定するようにしていますが、
それほど強い関連性が、
胃酸抑制剤にあるような印象は持っていません。
ただ、意外にその頻度の多いことは事実で、
そうした可能性は常に念頭に置きつつ、
日々の診療に当たりたいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-12-21 08:08
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コメント(1)
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Dr.Ishihara爺は、以前かなり長い間H2ブロッカーのファモチジン
を飲み続けていました。現在も飲み続けなければいけない、双極性
障害の治療薬、リチウムとNaバルプレイトのために、胃痛がしたからです。然し精神科のDr.が約1年前にファモチジンを切りました。最近、左手第一関節痛(ヘバーデン結節)と腰痛の治療にビタミンB12製剤を処方されています。H2ブロッカーを切った事は、良かったのだと思うます。
by bpd1teikichi_satoh (2013-12-22 21:42)