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動脈硬化の進行についての新しい考え方について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
動脈硬化の新知見.jpg
今年の8月のNature Medicine誌に掲載されたレターですが、
動脈硬化の進展についての、
1つの疑問を解決に導いた知見です。
その内容も興味深いのですが、
検証した方法もちょっとビックリです。

動脈硬化の病変では、
元々の血管の内側の壁である、
内膜という部分が大きく脹れて、
その中にマクロファージと呼ばれる、
単核球という白血球の一種が組織で変化した細胞が、
沢山のコレステロールを貯め込んだ状態で、
集積しているのが確認されます。
これを動脈硬化巣(プラーク)と呼んでいます。

このプラークが心臓や脳の結果を狭くし、
そこで不安定なプラークが破裂すると、
血管が詰まって心筋梗塞や脳梗塞が起こるのです。

プラークの病的な成分の主体は、
泡沫細胞と呼ばれる、
コレステロールを沢山貯め込んだマクロファージです。

マクロファージは貪食細胞とも呼ばれ、
身体にとって不要な成分や細菌などの病原体を、
パクリと食べて消化したり、
そのまま飲み込んで死んでしまったりします。

それでは、何故マクロファージは血管の内皮に入り込むのでしょうか?

これは血管の内皮細胞が、
炎症などの影響で障害されると、
それをきっかけに、
単核球という白血球が血管の内皮細胞に接着して、
内皮の下に入り込み、そこで成熟して、
マクロファージに分化します。
そのマクロファージが酸化したコレステロールを取り込んで、
泡沫細胞に変化するのです。

それでは、プラークはどのようにして成長するのでしょうか?

これまでの考え方では、
プラークが成長するのは、
それだけ多くの単核球が、
内膜に入り込むことによって起こる、
と考えられていました。

ところが…

実はそうではなくて、
内膜に入り込んだマクロファージが、
その場所で増殖することにより、
プラークの成長が起こることを、
今回のネズミの実験が明らかにしています。

その実験方法は、
表面のマーカーの違いで判別可能な、
性質の違う単核球を持つ、
動脈硬化のモデル動物でもある2匹のネズミを、
結合双生児のように結び付けて、
血流を一体化させるというものです。

それぞれのネズミの血管のプラークには、
既にそれぞれのネズミのマクロファージが集積しています。

ここで2匹のネズミを一体化させて血流を一緒にすると、
血液中の単核球も相互に混じり合います。

しかし、
一定の時間が経って成長したプラークを分析すると、
繋ぎ合せたネズミ由来のマクロファージは少数で、
増加していたマクロファージの大部分は、
自前のマクロファージが、
増殖していることが確認されました。

つまり、プラークの成長は、
血管から入り込んだ単核球により起こるのではなく、
一旦内膜に入り込んだ単核球がマクロファージになり、
泡沫細胞化すると、
その細胞自体がそこで増殖することにより、
起こることが明らかになったのです。

この実験の内容を図示したものがこちらになります。
動脈硬化のネズミの実験解説の図.jpg
これは元論文ではなく、
その解説記事から取ったものです。

これは勿論ネズミの実験に過ぎませんが、
これまでのこうしたネズミの知見の積み重ねから考えて、
かなりの蓋然性を持って、
人間でも同様のことが起こっている可能性が高い、
と考えられます。

この知見が重要なのは、
仮に何らかの刺激なり信号なりが、
病的なマクロファージの増殖を制御しているとすれば、
それをコントロールすることにより、
動脈硬化の進展を、
物理的に抑え込む可能性が生まれる、
と言う点にあります。

血管の内皮細胞が障害され、
部分的に単核球が接着して組織に入り込んだとしても、
それが増殖しない限り、
動脈硬化は生体全体としては、
大きな問題にはならないからです。

今後この知見が有効な治療に結び付くことを、
期待して待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

モカ

石原先生こんにちは。

今回もとても興味深く拝見しました。
アテローム内部でマクロファージが増えるのは、単球(monocyte)の流入ではなくて、局所でマクロファージが増殖するからなのですね。

サイトカインのアンタゴニストなどでその増殖が抑えられたらいいなと思いました。
by モカ (2013-12-20 13:19) 

fujiki

モカさんへ
コメントありがとうございます。
その通りで非常に興味深い内容だと思います。
by fujiki (2013-12-20 22:37) 

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