スタチンによるパーキンソン病の予防効果について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は診療所は通常通りの診療になります。
朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のNeurology誌に掲載された、
スタチンという脂質異常症の治療薬の、
パーキンソン病という神経疾患に対する、
予防効果についての論文です。
パーキンソン病は代表的な神経の変性疾患で、
すくみ足で歩行が困難になり、手が震え、顔は無表情になる、
という特徴的な症状のある病気です。
若年で発症するタイプのものもありますが、
その多くは認知症などと共に、
加齢による脳の機能の低下に伴って生じます。
アルツハイマー病が、
βアミロイドという異常蛋白の神経細胞への蓄積により発症するように、
パーキンソン病はα-シヌクレイン蛋白質の神経細胞への蓄積が、
その原因であるとされています。
しかし、
これもアルツハイマー病と同じように、
低下した伝達物質を一時的に増加させて、
症状を軽減したり進行を遅らせることは出来ても、
異常蛋白の蓄積そのものを、
予防したり改善する有効な方法は、
未だ臨床的に実用化はされていません。
スタチン言われるタイプの薬は、
コレステロールの合成に関わる酵素の阻害剤で、
コレステロールが高い患者さんの、
治療薬として使用されています。
代表的なコレステロール降下剤です。
このスタチンは動物実験において、
パーキンソン病の原因である、
α-シヌクレイン蛋白質の神経細胞への沈着を、
抑制する効果があるという報告があります。
これがもし人間においても成り立つ事実であるとすると、
スタチンの使用により、
コレステロールを降下させるだけではなく、
パーキンソン病を予防するような効果が、
期待出来る、ということになります。
しかし一方でスタチンは抗酸化物質である、
コエンザイムQ10の生成を阻害する作用も持っています。
これはむしろパーキンソン病を誘発する可能性が否定出来ません。
スタチンは果たして、
パーキンソン病を予防するのでしょうか、
それともそうではないのでしょうか。
この点を明らかにする目的で今回の研究では、
台湾において、
43000人を越えるスタチンの使用歴のある患者さんの、
健康保険のデータを解析し、
スタチンの使用とその後のパーキンソン病の発症との関係を、
スタチンの種別毎に解析しています。
台湾においては健康保険の方針として、
スタチンの使用により、
悪玉コレステロールが100mg/dL未満となった患者さんは、
その使用が一旦中止される方針となっているので、
スタチンの使用歴のある患者さんのうち、
その使用が中断された患者さんと、
中段されなかった患者さんを比較することにより、
スタチンの使用とパーキンソン病の発症との関連性が、
より明らかになることが期待されました。
ここでは、
スタチンを水溶性と脂溶性とに分類しています。
脂溶性のスタチンはより脳内へ移行し易いことから、
より効果の高いことが期待されたのです。
論文の区分によれば、
水溶性のスタチンはプラバスタチン(商品名メバロチンなど)と、
ロスバスタチン(商品名クレストール)の2種類で、
シンバスタチン(商品名リポバスなど)、
ロバスタチン(日本未発売)、
フルバスタチンン(商品名ローコールなど)、
アトルバスタチン(商品名リピトールなど)が、
脂溶性のスタチンということになります。
その結果…
観察期間中のパーキンソン病の発症率は、
水溶性のスタチン使用群で人口100万人1日当たり、
3.52人であったのに対して、
脂溶性のスタチンでは1.68人と、
明確な発症率の差がありました。
脂溶性のスタチンを継続することは、
それを中断する場合と比較して、
パーキンソン病の発症リスクを相対リスクで58%低下させました。
こうした発症の抑制は、
水溶性のスタチンでは認められませんでした。
脂溶性のスタチンを薬毎に解析すると、
シンバスタチンが77%、アトルバスタチンが67%と、
この2つのスタチンが予防効果は抜きんでていて、
かつ女性が使用した場合に、
より効果が認められた、
という結果でした。
アトルバスタチンの効果は、
高齢者でより顕著に認められました。
ただ、スタチンの使用期間や使用量と、
予防効果との間には相関関係は認められませんでした。
つまり、
明確に因果関係がある、
というところまでは証明されませんが、
脂溶性のスタチン、
特にシンバスタチンとアトルバスタチンに関しては、
その使用によりパーキンソン病が、
予防される可能性があります。
コエンザイムQ10の生成がスタチンで抑制されるとすれば、
それを補充することが理に適っているような気もします。
つまり、
脳の変性疾患の予防のために、
リポバスかリピトールを継続使用し、
同時にコエンザイムQ10のサプリメントを追加すれば、
現時点で考えられる範囲では、
最もパーキンソン病の予防効果は期待出来そうです。
スタチンは一方で認知症のリスクになる、
というデータもあり、
まだ脳に対するその効果の是非は、
今後の検討を待つ必要がありますが、
非常にユニークな多くの作用を持っている薬剤であることは、
ほぼ間違いがなく、
ステロイドと共に、
その効果的な使用法の追及が、
多くの患者さんの役に立つことは、
これも間違いのないことだと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は診療所は通常通りの診療になります。
朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
先月のNeurology誌に掲載された、
スタチンという脂質異常症の治療薬の、
パーキンソン病という神経疾患に対する、
予防効果についての論文です。
パーキンソン病は代表的な神経の変性疾患で、
すくみ足で歩行が困難になり、手が震え、顔は無表情になる、
という特徴的な症状のある病気です。
若年で発症するタイプのものもありますが、
その多くは認知症などと共に、
加齢による脳の機能の低下に伴って生じます。
アルツハイマー病が、
βアミロイドという異常蛋白の神経細胞への蓄積により発症するように、
パーキンソン病はα-シヌクレイン蛋白質の神経細胞への蓄積が、
その原因であるとされています。
しかし、
これもアルツハイマー病と同じように、
低下した伝達物質を一時的に増加させて、
症状を軽減したり進行を遅らせることは出来ても、
異常蛋白の蓄積そのものを、
予防したり改善する有効な方法は、
未だ臨床的に実用化はされていません。
スタチン言われるタイプの薬は、
コレステロールの合成に関わる酵素の阻害剤で、
コレステロールが高い患者さんの、
治療薬として使用されています。
代表的なコレステロール降下剤です。
このスタチンは動物実験において、
パーキンソン病の原因である、
α-シヌクレイン蛋白質の神経細胞への沈着を、
抑制する効果があるという報告があります。
これがもし人間においても成り立つ事実であるとすると、
スタチンの使用により、
コレステロールを降下させるだけではなく、
パーキンソン病を予防するような効果が、
期待出来る、ということになります。
しかし一方でスタチンは抗酸化物質である、
コエンザイムQ10の生成を阻害する作用も持っています。
これはむしろパーキンソン病を誘発する可能性が否定出来ません。
スタチンは果たして、
パーキンソン病を予防するのでしょうか、
それともそうではないのでしょうか。
この点を明らかにする目的で今回の研究では、
台湾において、
43000人を越えるスタチンの使用歴のある患者さんの、
健康保険のデータを解析し、
スタチンの使用とその後のパーキンソン病の発症との関係を、
スタチンの種別毎に解析しています。
台湾においては健康保険の方針として、
スタチンの使用により、
悪玉コレステロールが100mg/dL未満となった患者さんは、
その使用が一旦中止される方針となっているので、
スタチンの使用歴のある患者さんのうち、
その使用が中断された患者さんと、
中段されなかった患者さんを比較することにより、
スタチンの使用とパーキンソン病の発症との関連性が、
より明らかになることが期待されました。
ここでは、
スタチンを水溶性と脂溶性とに分類しています。
脂溶性のスタチンはより脳内へ移行し易いことから、
より効果の高いことが期待されたのです。
論文の区分によれば、
水溶性のスタチンはプラバスタチン(商品名メバロチンなど)と、
ロスバスタチン(商品名クレストール)の2種類で、
シンバスタチン(商品名リポバスなど)、
ロバスタチン(日本未発売)、
フルバスタチンン(商品名ローコールなど)、
アトルバスタチン(商品名リピトールなど)が、
脂溶性のスタチンということになります。
その結果…
観察期間中のパーキンソン病の発症率は、
水溶性のスタチン使用群で人口100万人1日当たり、
3.52人であったのに対して、
脂溶性のスタチンでは1.68人と、
明確な発症率の差がありました。
脂溶性のスタチンを継続することは、
それを中断する場合と比較して、
パーキンソン病の発症リスクを相対リスクで58%低下させました。
こうした発症の抑制は、
水溶性のスタチンでは認められませんでした。
脂溶性のスタチンを薬毎に解析すると、
シンバスタチンが77%、アトルバスタチンが67%と、
この2つのスタチンが予防効果は抜きんでていて、
かつ女性が使用した場合に、
より効果が認められた、
という結果でした。
アトルバスタチンの効果は、
高齢者でより顕著に認められました。
ただ、スタチンの使用期間や使用量と、
予防効果との間には相関関係は認められませんでした。
つまり、
明確に因果関係がある、
というところまでは証明されませんが、
脂溶性のスタチン、
特にシンバスタチンとアトルバスタチンに関しては、
その使用によりパーキンソン病が、
予防される可能性があります。
コエンザイムQ10の生成がスタチンで抑制されるとすれば、
それを補充することが理に適っているような気もします。
つまり、
脳の変性疾患の予防のために、
リポバスかリピトールを継続使用し、
同時にコエンザイムQ10のサプリメントを追加すれば、
現時点で考えられる範囲では、
最もパーキンソン病の予防効果は期待出来そうです。
スタチンは一方で認知症のリスクになる、
というデータもあり、
まだ脳に対するその効果の是非は、
今後の検討を待つ必要がありますが、
非常にユニークな多くの作用を持っている薬剤であることは、
ほぼ間違いがなく、
ステロイドと共に、
その効果的な使用法の追及が、
多くの患者さんの役に立つことは、
これも間違いのないことだと思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2013-08-16 08:07
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