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有川浩集成(その2) [小説]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日まで診療所は夏季の休診です。
明日金曜日は診療時間の変更はありません。

いつものように駒沢公園まで走りに行って、
それから今PCに向かっています。

休みの日は趣味の話題です。

今日は先日から始めた、
有川浩集成のその2です。

まずこちらから。
④「図書館戦争シリーズ」
図書館戦争.jpg
言わずと知れた有川浩さんの出世作で、
アニメ化と映画化もされました。

彼女得意の連作短編の形式で、
4冊の正編と2冊の番外編の、
トータル6冊が刊行されています。

彼女のこれまでの作品としては、
SF的な設定の残る最後の作品になります。

初期の3部作はSFで、
特に2作目までがその色が濃く、
3作目の「海の底」は、巨大なザリガニのような怪獣が襲って来る、
という設定自体は架空のものですが、
日本に危機が訪れた時に、
警察や自衛隊がどのように戦うか、
という一種のシュミレーションなので、
ファンタジックな感じはあまりありません。
つまり、かなり現実を描くことに傾斜しています。

有川さんとしては、
もっと本格的な自衛隊ものを、
連作短編の形式で書きたかったと思うのですが、
自衛隊が誰かと闘うような話は、
色々な意味で実現は困難です。

それでひねり出した設定が、
本が検閲された世界で、
本を守るための軍事的な組織が、
活躍する話、というものでした。
図書館が本を守るために自衛のための軍隊を持つ、
という、かなりぶっ飛んだ発想です。

それを月9のドラマみたいなキャラものとして描く、
という破れかぶれ的な発想が、
結果として多くの本好きの皆さんに、
受け入れられたのです。

主人公の男っぽいさばさばしたキャラが魅力的で、
初期3部作より軽いタッチで、
気楽に読み進めることが出来ます。

ただ…

個人的には設定が無理過ぎて、
僕はあまり乗れませんでした。

本を守るための軍隊というのは、
どうなのかなあ…

話題となる検閲などの話は結構リアルで現実的なものなので、
非現実的な設定とのギャップが大きくなります。
それが上手くこなれているようには、
僕にはどうしても思えませんでした。

⑤「レインツリーの国」
レインツリーの国.jpg
これは「図書館戦争」の一種のスピンオフで、
シリーズ2作目の「図書館内乱」に出て来る架空の本を、
実際に1つの作品にしてしまった、
という趣向の作品です。

有川さんの初めての純粋な長編恋愛小説で、
また初めてのSF的な設定とは無縁の作品です。

本当に純粋な作品で、
これまでにもこうした趣向の作品は、
勿論沢山あったとは思いますが、
これだけ純度の高い作品はあまり例がなく、
非常に感銘を受けました。

1人の男と1人の女の出逢いから、
その精神的な交流とそれによる成長の過程を描いているのですが、
作者が本当に真剣に、
人間同士のシンプルな交流に、
向き合っていることが分かり、
読者は作者や登場人物と共に、
非常に上っ面の交流に過ぎない世界から、
一歩ずつ深い精神の交流の世界へと、
本当に一歩ずつ降りて行くのです。

唯一の問題は「図書館内乱」を先に読んでしまうと、
この作品の趣向が分かってしまい、
新鮮な感動を感じられないことで、
この作品は是非単独で、
「図書館戦争シリーズ」より先に、
読んで頂きたいと思います。

小さな名品です。

⑥「クジラの彼」
クジラの彼.jpg
自衛隊員の恋愛ばかりを扱った、
連作ではない短編集です。

正直有川さんほど自衛隊の内部に興味がないので、
やや単調な感じがして、
読むのには苦労しました。

ただ最初の「クジラの彼」は、
後の「植物図鑑」の元ネタですし、
「国防恋愛」や「ロールアウト」は、
後の「空飛ぶ広報室」のキャラとほぼ同じだったりと、
彼女の作品の源流のように楽しめます。

⑦「阪急電車」
阪急電車.jpg
これは連作短編形式の長編で、
有川さんの普通小説作家としての力量を、
印象付けた名品です。

ベストセラーとなり映画化もされました。

阪急今津線というローカル線を舞台に、
何組かのカップルと、
そこにちょっとだけ絡む数人の登場人物を、
路線の1つの駅毎に掌編のエピソードとして描き、
一旦終点になると折り返して、
元の駅に戻って幕を閉じます。

電車の往復が1つの人生のようにもなっていて、
そこに幾つもの挿話があり、
しかし電車は人間の意思とは関わりなく、
人間を乗せてある方向に向かいます。

二重三重に練り上げられた趣向で、
工芸品のような味わいがあります。

途中で折り返す、という発想が、
抜群です。

キャラが全部立っているということはなく、
弱いパートもあるのですが、
最後に何組かのカップルが落ち着くべきところに落ち着くと、
読者の心もほっこりとして、
ちょっとした買い物にでも出てみようかな、
という気分にさせます。

正直こういうのをもっと書いて欲しいな、
と思いますが、
その後はあまり作例がなく、
連作短編は連作短編のまま、
ということが多いのがちょっと残念です。

⑧「三匹のおっさん」
三匹のおっさん.jpg
これは有川さん得意の連作短編の形式で、
昔の時代劇の「三匹の侍」をモチーフに、
定年後の3人のおじさんが、
それぞれの特殊技能を発揮して、
現代の悪を仕置人のように裁く、
という物語です。

「図書館戦争」は所謂本好きの皆さんに、
ちょっと媚びているような感じがあるのです。
「本を守るために戦うって、いいでしょ」
という反論のあまり出来ないところを狙っているのです。
今回の作品は中高年をヒーローにしていて、
今度は中高年に媚びているような感じが、
何となくするのです。
児玉清さんに褒められたので、
今度は児玉さんみたいなおじ様を、
ヒーローにして差し上げますね、
と言っているような感じがするのです。

それで悪い、ということはないのですが、
ちょっと嫌らしさは感じないでもありません。

ただ、この作品は意外に歯ごたえはあって、
有川さんが今の社会の身近な問題に、
初めて真剣に向かい合い、
その対策を真摯に考えている、
という印象があります。

作品に出て来るどの事件も、
決して絵空事ではありませんし、
それを機に家族が少しずつ成長する姿も、
非常に説得力を持って描かれています。

俗っぽい題と発想の割に、
しっかりとした作品だと思います。

続編の「三匹のおっさんふたたび」も書かれ、
そちらもより深い世界を期待しましたが、
正直「偽三匹のおっさん」が登場するなど、
ベタな続編になっていて、
かなり失望を感じました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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