寺山修司「レミング」(松本雄吉演出版) [演劇]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
寺山修司率いる演劇実験室「天井桟敷」の、
最後の公演となった「レミング」を、
維新派を率いる松本雄吉が演出した、
再演の舞台がパルコ劇場で上演中です。
今年は寺山修司没後30年ということで、
多くの企画が昨年から相次いでいます。
僕は寺山演劇には、
最後にようやく間に合った世代で、
この「レミング」の天井桟敷の紀伊国屋ホールの公演は、
僕が唯一実際に観た、
天井桟敷の舞台です。
その時のチケットがこちら。
もぎられていないのは、
2回の公演のチケットを買ったのですが、
結局1回しか行けなかったためです。
紀伊国屋ホールの「レミング」は再演で、
寺山演劇全体の中では、
それほど評価の高いものではありません。
ただ、その完成度は高く洗練はされていて、
特にオープニングに、
黒尽くめの得体の知れない人物が、
独特のスローモーションで、
客席のそこかしこから集まり、
狂騒的な肉体演技を見せると共に、
全ての明かりが完全に消滅する、
「完全暗転」が実現した時の興奮は、
30年後の今でも、
ありありと覚えています。
あれ以上の観劇体験は、
それ以外には一度もありませんし、
僕が今でも小劇場を観続けているのは、
もう一生あんなことはないだろうな、
とは思いながらも、
30年前のあの興奮を、
忘れがたく思っているからです。
この「レミング」は、
寺山修司の生前の舞台の中で、
唯一プロのカメラにより、
ほぼ全編の映像が残っている作品で、
ビデオやDVDも発売されています。
これは元々はNHKの録画がされたためです。
ただし、
録画されているのは、
紀伊国屋ホールの公演ではなく、
生前に予定はされながら、
結果としては寺山修司の死後に、
横浜で上演された時のものです。
従って、
個人的な感想としては、
生前の舞台と比較すると、
役者さんの緊張感に、
かなりの弛みがあるように思いますし、
オープニングなどの暗い場面は、
本当はそれこそが見せ場なのですが、
映像が潰れてしまって、
その真価を感じることは出来ません。
1例を挙げると、
オープニングでは、
小さな精巧に出来た家の模型を、
スローモーションの人物が、
1つずつ舞台上に並べてゆき、
最終的には舞台がその模型で埋め尽くされて、
そこに仕込まれたライトが光るのですが、
それが残っている映像では、
全く見ることが出来ません。
今回の再演は、
これもスケールの大きな独特の野外劇を、
意欲的に上演し続けている、
「維新派」の松本雄吉さんが台本と演出を兼ね、
独特の演出手法を持つ天野天街さんが、
台本の補助として付いています。
昨年同じ天野さんが関わった「地球空洞説」の舞台は、
寺山修司の原作を、
原型を殆ど留めないほど改変した、
「アングラの思い出を語る」的な舞台でしたが、
今回は極力原作の台詞は活かされ、
7割程度は原作の台詞が使われています。
ただ、
常盤貴子さんの登場部分は、
かなり手が入っていて、
ラストのアジテーションも、
印象はかなり違うものになっています。
以下、ネタバレがあります。
今回の再演は原作の内容は活かしながら、
原作の演劇としての見せ場であった、
美しい集団スローモーションや、
のた打ち回るような痙攣的な舞踏や、
完全暗転や、
その中で高速度で役者が移動し、
一瞬だけライトで役者の肢体を照らすような趣向を、
「維新派」のリズムを刻む集団ダンスに、
全て置き換えたような演出になっています。
天井桟敷の代名詞的なJ・Aシーザーの音楽も、
一切使用はされずに、
音楽的には完全に「維新派」の、
独特なリズムの世界になっています。
ただ、
いつもの「維新派」の野外の舞台では、
もっと大人数の群舞になるのですが、
今回は人数も少なく、
小さな空間で演じられるので、
単調で窮屈な印象になり、
退屈に感じたことも事実です。
役者さんは概ね好演ですが、
主人公の母親役の松重豊さんは、
DVDを観て頂くと分かりますが、
天井桟敷版で好評であった、
牧野公昭さんのコピーのような芝居で、
お忙しいので練習時間もあまり取れなかったのかも知れませんが、
ちょっと役作りの安易さを感じました。
寺山芝居の再演は、
個人的には舞台成果としては、
もう殆ど期待はしていませんが、
原作とはまるで違うアプローチとしては、
蜷川演出の「身毒丸」と並んで、
上演に一定の意義はあったように思いました。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日は日曜日で診療所は休診です。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
寺山修司率いる演劇実験室「天井桟敷」の、
最後の公演となった「レミング」を、
維新派を率いる松本雄吉が演出した、
再演の舞台がパルコ劇場で上演中です。
今年は寺山修司没後30年ということで、
多くの企画が昨年から相次いでいます。
僕は寺山演劇には、
最後にようやく間に合った世代で、
この「レミング」の天井桟敷の紀伊国屋ホールの公演は、
僕が唯一実際に観た、
天井桟敷の舞台です。
その時のチケットがこちら。
もぎられていないのは、
2回の公演のチケットを買ったのですが、
結局1回しか行けなかったためです。
紀伊国屋ホールの「レミング」は再演で、
寺山演劇全体の中では、
それほど評価の高いものではありません。
ただ、その完成度は高く洗練はされていて、
特にオープニングに、
黒尽くめの得体の知れない人物が、
独特のスローモーションで、
客席のそこかしこから集まり、
狂騒的な肉体演技を見せると共に、
全ての明かりが完全に消滅する、
「完全暗転」が実現した時の興奮は、
30年後の今でも、
ありありと覚えています。
あれ以上の観劇体験は、
それ以外には一度もありませんし、
僕が今でも小劇場を観続けているのは、
もう一生あんなことはないだろうな、
とは思いながらも、
30年前のあの興奮を、
忘れがたく思っているからです。
この「レミング」は、
寺山修司の生前の舞台の中で、
唯一プロのカメラにより、
ほぼ全編の映像が残っている作品で、
ビデオやDVDも発売されています。
これは元々はNHKの録画がされたためです。
ただし、
録画されているのは、
紀伊国屋ホールの公演ではなく、
生前に予定はされながら、
結果としては寺山修司の死後に、
横浜で上演された時のものです。
従って、
個人的な感想としては、
生前の舞台と比較すると、
役者さんの緊張感に、
かなりの弛みがあるように思いますし、
オープニングなどの暗い場面は、
本当はそれこそが見せ場なのですが、
映像が潰れてしまって、
その真価を感じることは出来ません。
1例を挙げると、
オープニングでは、
小さな精巧に出来た家の模型を、
スローモーションの人物が、
1つずつ舞台上に並べてゆき、
最終的には舞台がその模型で埋め尽くされて、
そこに仕込まれたライトが光るのですが、
それが残っている映像では、
全く見ることが出来ません。
今回の再演は、
これもスケールの大きな独特の野外劇を、
意欲的に上演し続けている、
「維新派」の松本雄吉さんが台本と演出を兼ね、
独特の演出手法を持つ天野天街さんが、
台本の補助として付いています。
昨年同じ天野さんが関わった「地球空洞説」の舞台は、
寺山修司の原作を、
原型を殆ど留めないほど改変した、
「アングラの思い出を語る」的な舞台でしたが、
今回は極力原作の台詞は活かされ、
7割程度は原作の台詞が使われています。
ただ、
常盤貴子さんの登場部分は、
かなり手が入っていて、
ラストのアジテーションも、
印象はかなり違うものになっています。
以下、ネタバレがあります。
今回の再演は原作の内容は活かしながら、
原作の演劇としての見せ場であった、
美しい集団スローモーションや、
のた打ち回るような痙攣的な舞踏や、
完全暗転や、
その中で高速度で役者が移動し、
一瞬だけライトで役者の肢体を照らすような趣向を、
「維新派」のリズムを刻む集団ダンスに、
全て置き換えたような演出になっています。
天井桟敷の代名詞的なJ・Aシーザーの音楽も、
一切使用はされずに、
音楽的には完全に「維新派」の、
独特なリズムの世界になっています。
ただ、
いつもの「維新派」の野外の舞台では、
もっと大人数の群舞になるのですが、
今回は人数も少なく、
小さな空間で演じられるので、
単調で窮屈な印象になり、
退屈に感じたことも事実です。
役者さんは概ね好演ですが、
主人公の母親役の松重豊さんは、
DVDを観て頂くと分かりますが、
天井桟敷版で好評であった、
牧野公昭さんのコピーのような芝居で、
お忙しいので練習時間もあまり取れなかったのかも知れませんが、
ちょっと役作りの安易さを感じました。
寺山芝居の再演は、
個人的には舞台成果としては、
もう殆ど期待はしていませんが、
原作とはまるで違うアプローチとしては、
蜷川演出の「身毒丸」と並んで、
上演に一定の意義はあったように思いました。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2013-04-28 12:02
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片桐仁さんは、昔よく観ていました。(ラーメンズが大好きで)
当時、彼はまだ若く、台詞も動きも滑舌もぎこちなかったので、
演技をダメ出しされてたらどうしようと
ドキドキしながらこの記事拝見しました。
胸を撫で下ろしています(笑)。
by midori (2013-04-28 13:51)
midori さんへ
僕もラーメンズは何度か観に行きました。
by fujiki (2013-04-29 18:31)
はじめまして。
わたくしもレミングを観てきました。
また、天井桟敷に間に合った最後の世代で紀伊国屋のレミングにも行きました。同世代かと。
今回観てやっぱりわたくしもいろいろ思うところありました。
3年前まで幡ヶ谷に住んでいて現在は初台です。
よろしくです。
by 紅遊人 (2013-04-29 23:07)
紅遊人さんへ
コメントありがとうございます。
芝居は矢張りあの頃の方が面白かったですね。
何かお勧めの芝居があったら教えて下さい。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2013-04-30 08:31)