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マクロライド系抗生物質の心臓病発症リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
クラリスロマイシンと心血管リスク.jpg
先月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
クラリスロマイシンという抗生物質の使用による、
心筋梗塞などの発症リスクの増加についての論文です。

マクロライド系と呼ばれる抗生物質には、
エリスロマイシンやクラリスロマイシン(商品名クラリスなど)、
アジスロマイシン(商品名ジスロマック)などがあり、
主に呼吸器の感染症の治療薬として、
広く使用されています。
通常の細菌ばかりではなく、
マイコプラズマやクラミジアといった、
特殊な病原体に抗菌作用を持ち、
かつ最近ではピロリ菌の除菌薬の1つとしても使用されていますし、
「少量持続使用」という特殊な使用において、
慢性の感染症などのコントロールや重症化予防にも、
日本を中心にして使用されています。

このように幅広く使用されている、
マクロライド系の抗生物質ですが、
重症の不整脈による突然死を増やすのではないか、
というような危惧があり、
1990年代の後半にはまとまった報告が幾つか出ています。

こちらをご覧下さい。
エリスロマイシンの突然死.jpg
これは2004年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
エリスロマイシンを使用して間もない時期に、
心臓病による突然死を来した事例を、
医療保険のデータから解析したものです。

1476例の心臓病による突然死の事例を解析すると、
エリスロマイシンを使用していると、
そうでない場合と比較して、
心臓病による突然死のリスクはほぼ2倍となり、
更にエリスロマイシンの血中濃度を高める可能性のある、
肝臓の代謝酵素CYP3A4を阻害する作用のある薬との併用では、
そのリスクは5倍に高まりました。

つまり、
エリスロマイシンの血液濃度が高まると、
QT延長症候群などに伴う、
重篤な不整脈の発症するリスクが高まり、
それによる突然死の発症も増えるのではないか、
という内容です。

エリスロマイシン以外のマクロライドである、
クラリスロマイシンやアジスロマイシンにも、
矢張りこうした心臓病のリスクを増加させる、
というデータがその後続々と報告され、
その重み付けはともかくとして、
そうしたリスクが存在すること自体は、
ほぼ間違いのないものと考えて良いように思います。

今回の論文はその流れの中にあるものですが、
マクロライドの中で、
世界的に最も多く使用されている、
クラリスロマイシンを対象薬として、
その使用が推奨されている、
慢性閉塞性肺疾患(COPD)の急性増悪の治療と、
肺炎の治療においての疫学データを元に、
その処方とその後の心筋梗塞や重症不整脈などの、
心臓病の発症との関連性を検討しています。

対象となっているのは、
COPDの急性増悪で病院を受診した、
1343名の患者さんと、
肺炎で病院を受診した、
1631名の患者さんです。

その結果…

その後1年間の経過観察において、
COPDの急性増悪の患者さんのうち、
268名が心臓病を罹患し、
肺炎の患者さんのうち、
171名の患者さんが心臓病を罹患しました。

この場合の心臓病というのは、
急性冠症候群と呼ばれる、
心筋梗塞や不安定な狭心症と、
重症心不全、重症の不整脈、
心臓病による死亡を含んでいます。

COPD急性増悪の解析においては、
クラリスロマイシンを1回以上使用した患者さんは、
そうではない患者さんと比較して、
心臓病全体のその後1年の発症リスクが、
1.5倍に有意に増加し、
急性冠症候群のみの解析でも、
1.67倍に増加していました。

肺炎の患者さんの解析においては、
クラリスロマイシンを1回以上使用した患者さんは、
使用していない患者さんと比較して、
心臓病全体のその後1年の発症リスクが、
1.68倍に有意に増加しましたが、
急性冠症候群のみの解析では、
そうした差は有意ではありませんでした。

死亡リスクに関しては、
心臓病による死亡リスクが、
COPD急性増悪の患者さんでは、
クラリスロマイシンの使用で、
1.52倍有意に増加しましたが、
総死亡のリスクについては有意差はなく、
肺炎の患者さんに関しては、
そうした死亡リスクの上昇は認めませんでした。

COPD急性増悪、肺炎のいずれのデータにおいても、
クラリスロマイシンの使用期間が長いほど、
その心臓病発症のリスクの上昇はより大きくなり、
概ねそのリスクは7日間以上の使用で明瞭となっています。
7日を超える使用における、
肺炎の患者さんのリスクの上昇は、
未使用の患者さんの2倍を超えています。

他の抗生剤で同様の解析をしても、
そうしたリスクの上昇はない点と、
薬の使用期間とリスクとの間に明瞭な相関がある点などから考えて、
このデータの信頼性は高いように、
僕には思われます。

今回のデータ及び、
これまでの多くの知見から、
マクロライド系の抗生物質の使用により、
重症の心臓病の発症リスクが、
概ね相対リスクで1.5~2倍程度上昇することは、
ほぼ間違いのない知見と考えられます。

エリスロマイシンでもクラリスロマイシンでも、
アジスロマイシンにおいても、
ほぼ同様の傾向が確認されることから考えて、
これはマクロライド共通の何らかの要因に、
よるものと考えてこれも良さそうです。

当初QT延長と呼ばれる変化が、
重症不整脈を来して、
こうした現象を起こすのではないか、
と想定されましたが、
使用の数か月後にもリスクの増加が認められるので、
この所見でマクロライドの心臓への影響の全てを、
説明するのは無理があります。

今回のデータにおいては、
7日以上の使用にほぼ限定して、
リスクは上昇しており、
エリスロマイシンのデータでは、
その濃度を増加させる薬との併用によって、
これもリスクが上昇していることから、
何らかの容量依存的なメカニズムが、
存在することは間違いがなさそうです。

従って、
アジスロマイシンの3日間の使用、
及びエリスロマイシンやクラリスロマイシンの、
7日間を超える使用については、
その適応を充分に慎重に検討すると共に、
心臓病の既往があったり、
心機能が低下している患者さんや、
その可能性のある患者さんでは、
原則使用を控えるなどの配慮が必要で、
問題のありそうな患者さんでは、
事前に心電図でQT時間などの所見の有無は、
チェックを行なうのが妥当ではないかと考えられます。

問題はマクロライドの長期使用が、
実際には慢性気管支炎や蓄膿などで、
多く行われている事実がある点で、
そうした治療を推奨する意見もあり、
推奨する立場の臨床研究においては、
半年~1年程度の使用においても、
明確に心疾患が増加した、
というようなデータはないのですが、
この点については、
再度厳密な検証が、
必要なのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ide

抜歯後血糊がはがれてしまい、露出した骨への感染再発に怯えながら粘膜再生を待っているのですが、消毒しすぎたせいか表面が白く硬くなってしまいました。まだ割けたままなのに、、どうしよう。

そこで抗生剤について調べていたらこんなサイトがありまして改めて溶連菌の怖さと早期抗生剤治療の重要さをヒシと感じております。
http://strep.umin.jp/beta_hemolytic_streptococcus/streptococcus_5.html

いつのまにか妊婦へのB群溶連菌ペニシリン予防投与が一般化され、容量依存で最も効果のある抗生剤もすぐに耐性菌が出現しそうな予感
http://tkamogashira.users.sourceforge.net/sodan/story/m/ifm03.html

このM蛋白とはあの多発性骨髄腫のM蛋白ですよね、恐い恐い。
先生の所ではわけのわからないIge高値をもつ中年男性の思い込みの激しい健康妄想で統合性失調を回避するために年一二回ペニシリンG点滴とかやっていただけるのでしょうか?
TPPで薬剤個人輸入公認になり常備するか、ペニシリンは特定保険食品に認定してもらう運動を起こすべきか、、歯科からもらった8日分のパセトシン飲みながら悩んでます。ちなみに歯科ではマクロライドばっかりみたいです。これも自分で希望して出してもらいました。鼻の治療で一年間飲み続けたので、なるべく避けてるんですよね。この後何の抗生物質にしたらいいんだろうか、、、
by ide (2013-04-11 20:51) 

ide

その後いろいろ検索して、結節性紅班から梅毒そして「タスキギー梅毒人体実験」というのを引き当てて胃が痛くなってきました。
http://cellbank.nibio.go.jp/legacy/information/ethics/refhoshino/hoshino0052.htm
人種差別が職業差別、世代差別、男女区別で同じ様なことが行われている気がしてきまして。
http://www.asyura2.com/12/genpatu25/msg/525.html
こんな意見まで流用されています。
日本の場合国民皆保険制度がありますから容易に大規模に行えますよね、人体実験。耐性菌が恐いからcrp陽性でない限り菌が特定できるまで様子見で抗生物質やらないって今人体実験進行中なのではないかと、リュウマチ熱は廃止で膠原病ではなく完治基準も溶連菌の人体に対する長期的作用の研究のために今の治療ガイドラインは作られているのではと、、
前記の抗生物質に関するサイトなぜか閉鎖されてしまいましたが、これも巨大な陰謀の犠牲なのではと疑ってしまいます。
はんとに胃が痛い、飲み込むと胸につかえたようになってから痛みとともに胃に収まりしみるような感じの痛みが出ますが神経性なんでしょうか?それとも溶連菌関連のリンパ節異常なんでしょうか?
by ide (2013-05-13 01:17) 

HM

こんにちは。
興味深い記事を読ませていただきました。

実は先日、タイでアジシン(azuycin)というジスロマックのジェネリック品を購入し、薬剤師の言う通りに最初に4錠、翌日に2錠服用
致しました。 1錠は250mgです。

先週の24日が服用初日だったのですが、この二、三日胸部に痛みがあり憂鬱なのです。

やはり、心臓でしょうか? 元々心臓が弱いという事はありませんが早期に病院にいくべきでしょうか?

お返事いただけると幸いです。
by HM (2016-03-29 18:56) 

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