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季節性インフルエンザワクチンの効果の差について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インフルエンザワクチンの種類と効果の差.jpg
今月のLancet誌に掲載された、
免疫増強剤を含むインフルエンザワクチンと、
含まないワクチンとの効果の差についての論文です。

2009年の所謂「新型インフルエンザ」のシーズンには、
日本でも国産のワクチンが不足する事態が危惧されたため、
急遽グラクソ社とノバルティス社のワクチンが、
輸入インフルエンザワクチンとして初めて認可されました。

ただ、
実際にはその後の需給のバランスから、
殆ど使用はされずに終わりました。

グラクソ社のワクチンにはA03と呼ばれる、
免疫増強剤(アジュバント)が含まれています。
ノバルティス社のワクチンには、
それとはまた別個のアジュバントが含有されています。

インフルエンザのワクチンはそれまで、
基本的にはアジュバントは未使用で製造されていましたが、
新型インフルエンザではその効果が充分ではないのでは、
という考えがあり、
大手のワクチンメーカーは、
より強力な効果の期待出来るワクチンとして、
こうしたアジュバント含有のワクチンを製造したのです。

ただ、
日本やアメリカはアジュバントを含まないワクチンを、
もっぱら採用していて、
それでも新型インフルエンザのシーズンに限っては、
7割を超える有効率が確認されているので、
インフルエンザワクチンに関しては、
そのワクチン株が流行株と一致していれば、
必ずしもアジュバントが必須、
とも言い切れません。

今回の研究は、
A03のアジュバント含有ワクチンを製造している、
グラクソ社が主導となり、
アジュバントを含まないワクチンと比較して、
アジュバントを含むワクチンの優越性を、
検討した試験結果です。

対象者は65歳以上の高齢者で、
世界中の15の国から、
43000人以上がエントリーされ、
くじ引きで2つの群に分けられると、
その一方にはアジュバント入りの季節性インフルエンザワクチンが、
もう一方にはアジュバントなしのワクチンが接種されます。

いずれのワクチンも、
A香港型とAソ連型、そしてB型の3種類の抗原を含む、
3価の季節性インフルエンザワクチンです。
そのシーズンのWHOの推奨ウイルス株を元に製造された、
基本的には日本のワクチンと同一の組み合わせのものです。

試験は2008年に始まり、
まずシーズン前に1回のワクチン接種があり、
その1年後に再び1回同じワクチンが接種され、
その1年後までのインフルエンザの予防効果が、
検討されています。

ご存知のように、
この間に2009年の「新型インフルエンザ」が挟まり、
その際には別個に希望者には、
新型インフレエンザの単独ワクチンが追加されています。

対象者は施設入所者ではなく、
ご病気をお持ちの方は含まれていますが、
在宅の高齢者の方が選択されています。

インフルエンザの診断は、
可能な限り遺伝子診断で行なわれていますが、
高熱と咳などの典型的な症状があれば、
検査はされていなくても、
「インフルエンザ様疾患」としては、
カウントされています。

その結果…

接種後最初のシーズンに、
遺伝子診断でインフルエンザと確定した患者さんの数は、
アジュバント含有ワクチン接種者で274名に対して、
非含有ワクチン接種者で310名で、
比率的には12.11%の有効性の差がありますが、
統計的には優越性がある、
とは判断されませんでした。

インフルエンザのタイプ毎に見ると、
A香港型のインフルエンザに対してが、
最もその有効性が高い、
という結果になりましたが、
全ての解析において、
明確にアジュバントを含有するワクチンが、
より優越であるとは判断されませんでした。

今回の結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

65歳以上の高齢者への、
インフルエンザワクチンの効果については、
色々な意見があります。

施設入所の高齢者で、
発熱の症状や肺炎による入院が、
ワクチン接種により減少した、
というデータはありますが、
インフルエンザの診断が確認されているのではないので、
実際にインフルエンザの感染自体が、
どの程度減少したのか、
というようなことについては分かりません。

その意味で今回のデータは、
ワクチンを打たない場合との比較はないので、
ワクチンの有効性自体は定量的には分かりませんが、
接種後2年目には感染の事例は格段に減っていますから、
間接的にはワクチンの高齢者に対する有効性を、
示したものになっています。

そして、
ウイルス株と流行株とのマッチングが適切であれば、
アジュバントを含有しているかどうかは、
季節性インフルエンザワクチンに関しては、
それほどの違いはないと考えて良さそうです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

なおすけ

こんにちは。時々、ブログを拝見しております。

インフルエンザワクチン接種が始まっている時期ですが、今まで罹ったこともなく、ワクチンも接種してこなかった娘(4歳)、息子(1歳5ヶ月)にインフルエンザワクチンを受けさせるか悩んでおります。今年から娘が幼稚園に通いだしたので考えております。

受けた方が、インフルエンザに罹りにくく、脳症など重症化しないのでは、と思う反面、ワクチンの害というものに敏感で。。
アジュバント、添加物、体に入れてまでの効果があるのでしょうか?

上の子は来月、不活化ポリオの4回目、下の子はポリオ3回目、ヒブと肺炎球菌の追加、DPT追加と予防接種が続きます。
上の娘は日本脳炎は見合わせています(未接種)。

先生の所で診られていて、今まででインフルエンザの予防接種を受けなかったから重症化した例、受けていても重症化した例、受けたから軽く済んだ方が多かった印象など、何でも構いませんので、インフルエンザワクチンについてお答え頂けると幸いです。
また、タミフルについても様々な見解を見て、本当に安全なのか、不安に思っていますので、ご意見を聞かせて頂けると嬉しいです。

早く、シーズン終わって欲しいです。。
by なおすけ (2013-10-23 01:38) 

fujiki

なおすけさんへ
申し訳ないのですが、
ちょっと広範囲のご質問過ぎて、
コメント欄で簡単にはお答え出来ません。
インフルエンザワクチンについては、
これまでに多くの記事を書いていますので、
そちらも目を通して頂ければと思います。

インフルエンザワクチンは無効ではありませんが、
現行日本で使用されているワクチンは、
基本的には安全性は高い一方、
海外で使用されている、
アジュバント添加のワクチンと比較すると、
その効果は落ちると思います。
また、ワクチン株と流行株とが一致した時には、
かなりの有効性がありますが、
外れると有効性は格段に落ちます。
従って、どうしてもそうしたムラはあるワクチンです。

正直、「ワクチンを打っていれば、この子さんは重症化しなかったかも…」という類の臨床医の経験則は、
個人的にはあまり意味はないように思います。

大人では集団予防にはインフルエンザワクチンの有効性はある、
と思います。
ただ、お子さんの場合は、
流行株との一致の有無によって、
かなりその効果にはばらつきがあると思います。

昨年から接種量は大幅に増えましたから、
4歳くらいのお子さんでは、
副反応のリスクは、
これまでよりやや高いと、
お考えになった方が安全かも知れません。

タミフルはリスクもあり闇雲に使用する薬ではないと思いますが、
世界的には使用経験は蓄積されていて、
用途を限定して使用すれば、
一定の意義はあるように考えます。
by fujiki (2013-10-24 22:09) 

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