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施設における長期の抗生物質使用の弊害について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から何となくぼんやりして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
施設での抗生物質不適切処方.jpg
今月のJAMA INTERN MED誌に掲載された、
長期ケアの施設における、
抗生物質の使用リスクについての文献です。

老人ホームのような施設において、
どのように薬を使うべきか、
というのは非常に難しい問題です。

現在僕が直接に関わっているのは、
特別養護老人ホームですが、
入所されている方の殆どは、
寝たきりの方か高度の認知症の方です。

概ね週に3~4回の診察を行ない、
それ以外に必要があれば往診をし、
ケアスタッフから連絡があればそれに対応します。

ホームの開設時から、
15年近く関わっているのですが、
開設当初は施設内で亡くなられる方より、
病院で亡くなられる方が多かったのですが、
今では8割以上の方が施設内で人生を終えられます。

容態についての連絡の多くは、
発熱や咳などの感染症症状、
腹痛や食事が摂れない、
元気がない、などの症状です。

入所者の方の多くは、
自分の症状を正確に表現したり、
自分の意思を伝えることが困難なので、
まず数日様子を見ても問題のないものか、
それとも緊急性があるものかを、
まずは判断し、
それに合わせた対応を取ることになるのです。

咳を伴って発熱や呼吸状態の悪化があれば、
確率的にはむせ込みによる、
誤嚥性の肺炎や気管支炎が多く、
血尿があったり、
ガタガタと震えが来て高熱があると、
おむつの方ではこれも確率的には、
おしっこの感染が多いのです。

周囲に同じような症状の入所者がおらず、
職員に感染症がひろまっていたり、
インフルエンザなどが流行している、
というような状況がなければ、
取り敢えず数日間は抗生物質を使用して、
改善傾向がないかを観察します。

軽症で口から薬で問題がなければ、
内服の抗生物質を使用し、
むせ込みがあったり、
口からの使用が難しいケースでは、
注射で薬を使います。

取り敢えずの使用期間は3日と決めています。

老人ホームで可能な検査や治療は限られていますし、
それで改善傾向がなければ、
より高次の医療機関にご紹介とするか、
腹を括って最後まで施設内で、
出来る範囲のことをするかの二択になるのです。
その選択は勿論、
入所者の方のご家族のご意向を、
優先して決める形になります。

上記の文献はカナダの長期ケア施設における、
処方状況を検証したものです。

急性の細菌感染症の多くにおいて、
抗生物質の使用は7日内に留めるのが望ましい、
という見解が表明されていますが、
実際にはそれを越える抗生物質の使用が、
しばしば行なわれていて、
特に電話などで診察をせずに処方のされることの多い
(これはあくまでカナダの話です)
長期ケア施設においては、
よりそうした問題が多いと想定されます。

こうした不適切な処方が、
施設の特性によるものか、
入所者の特性によるものか、
それとも処方する医療者の特性によるものかを、
処方の記録を解析することにより、
検証しています。
5万例を越える処方の解析ですから、
かなり大規模なものです。

その結果…

特定の病気や症状に対して、
7日を越える長期間の抗生物質の処方は、
施設の特性や入所者の方の特性より、
処方する医療者に、
より依存する現象である、
という結果が得られました。

要するに、
同じ患者さんの同じ症状に対しても、
抗生物質を5日間処方する医者もいれば、
10日間処方する医者もいて、
長期間の処方をよく行なっている医者は、
どのような状況においても、
矢張り長期の処方を選択する可能性が高い、
というある意味当たり前とも言える結論です。

つまり、
こうした不適切な処方を減少させるには、
医者に指導を行なうか、
これこれの病態では抗生物質の使用を何日間に制限する、
というような規則を設けるしか、
ないのではないか、
ということになります。

末端の医者としては辛い話です。

ただ、病状によっては、
長期の抗生物質の処方が、
当然必要なケースもあり、
単純に病名と処方の解析のみから、
医者だけを断罪するような趣旨の論調は、
やや短絡的なようにも思います。

また、
日本においては抗生物質が乱用されていて、
ニューキノロンや第3世代のセフェムなど、
海外では慎重に使用されている薬剤が、
安易に使用されている、
というような見解を、
やや自虐史観のように、
目を吊り上げて言われる先生がいて、
そのまま真に受けると、
世界ではそんな処方はないように思いますが、
上記の文献などを読むと、
そうした抗生物質の使用比率は矢張り高く、
決して日本の処方環境が、
そう特殊なものではないのではないか、
という印象を持ちます。

しかし、
勿論それで日本の状況を正当化するのは、
適切なことではなく、
他山の石として真剣に受け止めるべきです。

日本においても過剰な処方や不適切な処方が多い、
というような指摘はしばしばあり、
医者の勉強不足がやり玉に上がることがあります。

実際薬剤師さんには、
非常に勉強熱心な方が多く、
それと比較すると、
もっと医者は薬について、
知識を深め、
安易に「癖」のような処方をするべきではない、
というようにも思います。

日本においても、
医者による不適切な処方が取り締まられるべきだ、
というような批判が起こらないように、
日々勉強を重ね、
より適切な処方を目指して、
努力だけは続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

midori

先生こんにちは.ご無沙汰しています.
先週,会社を辞めました.
円満退社ですので御心配なく,
先生にはこれまでどおり,双方とも
変わらぬお付き合いをさせて頂きたいと思っておりますので,
よろしくお願いいたします.
そのうち伺います.
by midori (2013-03-24 17:50) 

fujiki

midori さんへ
そうですか。
また差し支えのない範囲で、
お話しを聞かせて下さい。
by fujiki (2013-03-25 08:30) 

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