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メトホルミンの安全性を考える [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
メトホルミンの安全性.jpg
今月のBritish Medical Journal誌に掲載された、
糖尿病の治療薬の安全性を検討した論文です。

海外で2型糖尿病の第一選択薬と言えば、
ビグアナイトと呼ばれる薬で、
その代表がメトホルミン(商品名メトグルコなど)です。

この薬は古い薬で、
そのメカニズムも必ずしもクリアには分かっていませんが、
主には肝臓でブドウ糖を作る働きを抑える、
というように考えられています。

糖尿病というのは、
ブドウ糖の利用に不可欠な、
膵臓から分泌されるインスリンというホルモンが、
不足しているか、
その効きが悪いために、
ブドウ糖が細胞で利用されずに、
血液のブドウ糖が上昇する病気です。

この糖尿病には1型と2型とがあり、
1型はインスリン自体が減少するため、
インスリンの注射が治療の中心になりますが、
2型で特に肥満を伴う場合には、
インスリン自体は減っていないのに、
インスリンの効きが悪くなるので、
インスリンの効きを良くするような治療が、
より望ましい、
ということになります。

ビグアナイトは、
肝臓でブドウ糖の産生を抑える薬です。
つまり、
これは肝臓でのインスリンの効きを良くする薬と、
言い換えることが出来ます。

欧米の2型糖尿病の患者さんは、
肥満の比率が多く、
BMIという数値はどの臨床試験を見ても、
平均で30くらいです。

こうした患者さんに、
インスリンの出を良くするような薬を使えば、
高インスリン血症になって、
却って肥満が悪化してしまうので、
欧米ではビグアナイトの中で、
安全性が高いと考えられている、
メトホルミンが第一選択で使われているのです。

ただ、
日本においては少し事情が違います。

勿論ビグアナイトは、
以前より日本でも発売され、
現在主に使用されているのは、
メトホルミンで、
商品名はグリコランやメデット、メルビンで、
既にジェネリックも発売されています。

ただ、日本での数年前までの使用量は、
1日750mgが上限で、
海外の使用量は3000mgですから、
かなりの使用量の開きがあります。
おまけに、
肝障害や腎障害があったり、
年齢が75歳以上では、
原則使用が不可になっていて、
多くの糖尿病の患者さんが、
使用は困難な状態でした。

これは何故かと言うと、
日本ではその発売当初に、
乳酸アシドーシスという副作用の死亡事例が、
海外で報告されたこともあって、
その使用はあまり行われず、
その用量も低く抑えられたのです。

しかし、最近になり日本でもメトホルミンの再評価の機運が高まり、
数年前には、
1日量で2250mgまで使用が可能なメトホルミン製剤が、
新たに「メトグルコ」という商品名で再発売されたのです。

今後は日本でもこのメトホルミン製剤が、
糖尿病治療薬の1つの柱になる方向が示されています。

ただし…

ビグアナイトは肝臓において、
乳酸からブドウ糖が生成される過程を抑制する薬です。
つまり、乳酸はこの薬により増加するのです。
通常はその乳酸は肝臓で代謝されるので、
血液が酸性になることはありませんが、
肝機能が悪いケースや脱水などで他にも乳酸の溜まり易い状態があると、
血液は急速に酸性に傾き、
アシドーシスが生じます。

一方でビグアナイトは腎臓で分解されるため、
腎機能が低下していると、
血液でビグアナイトは過剰となり、
その作用の増強から、
乳酸アシドーシスを起こし易くなるのです。

つまり、
肝機能が悪く、
特にアルコールの多飲があったり、
腎機能の悪い患者さんでは、
この薬には一定のリスクが存在します。

そのリスクをどの程度に考えるべきなのでしょうか?

今回の文献は、
メトホルミンの安全性を、
特に腎機能との関連で検討したもので、
観察研究という手法ではありますが、
スウェーデンにおいて、
社会保障関連のデータを利用して、
5万人を超える2型糖尿病の患者さんの、
治療薬毎の平均3.9年の経過を検証しています。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

患者さんのうち、
メトホルミンを使用している比率は、
全体の63.3%に上っています。
このうちメトホルミン単独で治療されているのは28%で、
それ以外は他の経口糖尿病薬やインスリンが併用されています。

メトホルミン未使用の患者さんで、
最も多いのはインスリン単独の患者さんで、
これが全体の24%です。

ここで各治療群毎にその予後を比較すると、
全ての病気での死亡リスクと心血管疾患の死亡リスク、
そしてアシドーシスや重症感染症の発症リスクは、
いずれもインスリン治療群が、
メトホルミン単独治療群に比較して、
有意に高い、
という結果でした。
他の経口糖尿病薬との比較においても、
インスリンほど顕著ではないものの、
同様の傾向が認められました。

インスリンを使用している患者さんは、
一般的に言ってメトホルミン単独治療の患者さんより、
糖尿病の程度は重く、
血糖値も高い傾向にあります。

そこでこの研究においては、
体重や血糖値、年齢などの要素を、
統計的に同一条件になるように補正した上で、
比較を行なっています。

つまり、
そうした補正をした上でも、
このような結果が出るということは、
メトホルミンの治療の方が、
インスリンの治療よりも、
安全性が高く予後の良い治療であることを、
示唆するものだ、
ということです。

ただし、幾ら統計的に補正をしたと言っても、
全く条件の違う2群を、
正確に比較することは出来る訳ではなく、
この結論を鵜呑みにするのは早計のように思います。

もう1つのポイントは、
メトホルミンを使用している患者さんを、
その腎機能毎に分類し、
その予後を比較していることです。

結論としては、
腎機能の指標であるeGFRという数値が、
30ml/min/1.73㎡以上であれば、
その予後には差がないという結果でした。

これは簡易の計算式ですが、
75歳の女性で血液のクレアチニンが1.3mg/dlですと、
通常の体格の方で30くらいという計算になりますから、
それより悪い方での予後は、
データが乏しい、という言い方が出来ます。

現行日本の糖尿病学会では、
血液のクレアチニンが男性で1.3、女性で1.2以上の場合には、
メトホルミンの使用は推奨しない、
というステートメントを出していて、
これはまあ安全策としては、
妥当な線ではないかと思います。

今回のデータをどのように考えれば良いのでしょうか?

治療群間に大きな条件の差があり、
糖尿病の予後を検証するには、
4年弱という期間は短期間であるように思いますから、
この結果をそのままメトホルミンの安全性の確認のように考えることは、
危険であるように思います。

メトホルミンの使用拡大に伴って、
重症の乳酸アシドーシスの事例も報告は増えており、
そのリスクを軽視してはいけないと思います。
その意味では腎機能別のデータが、
糖尿病学会のステートメントを、
ほぼ裏打ちする結果になっていることは、
臨床的には意味があると思います。

メトホルミンは優れた薬ですが、
リスクもあり、
また欧米と比較すると肥満の糖尿病の率の少ない日本では、
その適応はやや狭まることを認識しつつ、
臨床においての慎重な利用を、
心掛けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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