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糖尿病性神経障害に対するリリカと抗うつ剤の効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
リリカと抗うつ剤の効果論文.jpg
Diabetes Care誌に今月掲載された、
糖尿病の合併症の足などの痛みに対する、
複数の薬剤の治療効果についての論文です。

糖尿病の合併症には、
失明に繋がる網膜症や、
透析に繋がるような糖尿病性腎症、
動脈硬化の進行などがありますが、
比較的軽視され易く、
患者さんにとっては苦痛が大きいのが、
神経障害の合併症による、
主に足の痺れや痛みです。

しかし、
この足の痛みに関しては、
今のところ画期的な治療はありません。

僕が大学にいた頃に、
アルドース還元酵素阻害剤という薬が開発され、
糖尿病性神経障害の新薬として、
注目を集めましたが、
その長期的な効果はともかくとして、
短期的に痛みを緩和する作用はそれほどはありませんでした。

現状は、
通常の消炎鎮痛剤や止むを得ない場合には麻薬系の痛み止め、
抗不整脈剤の一種や抗痙攣剤の一種や抗うつ剤などが、
単独もしくは組み合わせて使用されますが、
そのうちの特定の薬もしくは治療が、
効果と安全性を総合的に考えた時に、
他より格段に優れている、
という明確な根拠は乏しいようです。

上記の文献の記載によれば、
イギリスにおいては、
第一選択の治療は、
3環系の抗うつ剤であるアミトリプチリン
(商品名トリプタノールなど)と、
SNRIと呼ばれる抗うつ剤のデュロキセチン(商品名サインバルタ)、
そしてガバペンチンもしくはプレガバリン(商品名リリカ)だ、
とされています。

しかし、
その効果や安全性を、
きちんと直接的に比較したデータは、
あまり存在していません。

そこで今回の論文では、
糖尿病性神経障害による疼痛に苦しむ、
1型もしくは2型糖尿病の患者さん83名を対象とし、
患者さんにも主治医にも分からないように、
アミトリプチリン使用群と、
デュロキセチン使用群、
そしてプレガバリン使用群の3群に分け、
その経過を観察しています。

どの群においても、
まず最初の8日間は、
そうと知らせずに偽薬が使用され、
その後の2週間は低用量の薬が使用され、
その後の2週間は増量されます。
トータルの治療期間は、
4週間ということになるのです。

用量は、
アミトトリプチリンが、
最初は1日50mgでスタートし、
2週間後に75mg(夜が50mg)に増量されます。
デュロキセチンは、
最初は1日60mgでスタートし、
1日120mgに増量。
プレガバリンは、
1日300mgでスタートし、
1日600mgに増量されます。

これはアミトリプチリンは、
日本でも使用出来る用量で、
デュロキセチンは日本の用量の2倍になり、
リリカは日本の最大用量になっています。

サインバルタという薬は、
どうもあまり効かないと思ってたら、
用量が海外の半分なのです。

薬の効果の評価は、
痛みの自覚症状の改善度と、
生活の制限の改善の有無で判断され、
眠りの質は睡眠時の脳波の測定により評価されます。
全例に終夜睡眠ポリグラフィー検査という、
睡眠時無呼吸症候群の診断に用いる検査を施行しています。
また、昼間の眠気や副作用についても調査がされています。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

痛みに対する効果は、
どの薬剤の使用においても、
偽薬の時期と比較して、
有意に認められていましたが、
3種類の薬剤で明確な優劣はなく、
生活の質自体の改善は、
どの薬剤の治療においても、
4週間の治療では認められませんでした。

つまり、
どの薬も痛みを緩和する上で、
一定の効果がありましたが、
生活の質を改善するほどの効果は、
少なくとも短期間では認められませんでした。

次に睡眠の質についてみると、
プレガバリンは睡眠に良い影響を与え、
その一方でデュロキセチンは、
睡眠を断続的にし、REM睡眠も減少させました。
しかし、
3種類の薬剤とも、
昼間の活動性には大きな影響を与えていません。

副作用に関してみると、
トータルにはプレガバリンに多い傾向にあり、
めまいやふらつき、眠気がその主なものでした。

今回の結果をどのように考えるべきでしょうか?

プレガバリンは副作用の多いのが欠点ですが、
比較的バランスの取れた効果を、
短期間でも示しています。
デュロキセチンは睡眠の質を明らかに低下させ、
その意味で第一選択としては不適に思えます。
意外にも古い薬のアミトリプチリンは、
プレガバリンと効果は同等で、
眠りの質も悪化はさせないので、
薬剤コストの面から考えると、
第一選択の1つには、
成り得るように思います。

日本においては、
プレガバリンが滅多矢鱈と処方されていますが、
最近のデータは同種の他剤と比較して、
明らかな優越性を、
示せないものが多く、
アミトリプチリンの使用は、
その用量が比較的少なくても効果を示す点からも、
再評価の余地があるように、
今回のデータからは思いました。

今日は糖尿病性神経障害の疼痛に対する、
薬剤選択についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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