小児甲状腺乳頭癌の予後について [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
日本内分泌学会誌の電子版に、
今月掲載された、
神戸の隈病院(くまびょういん)における、
20歳以下の年齢の、
甲状腺乳頭癌の患者さん、
110名の初期治療後の経過を、
まとめた論文です。
英文ですが日本の雑誌です。
ただ、原題で検索しても、
Medlineにはあるものの、
グーグルなどでは引っ掛かりません。
インドの雑誌などもそんな感じです。
隈病院は関西の方にお聞きすると、
東京の伊藤病院と同じく、
甲状腺に何か異常があると、
「ともかくあそこで見てもらいなさい」
と言われる病院です。
しかし、何処かの病院とは違い、
特に甲状腺癌の分野では、
お手本となるような、
非常にしっかりとしたデータを、
多く出しています。
小児甲状腺癌については、
色々なことを言われる方がいますが、
僕はこの病院のデータを、
最も信頼するのが妥当だ、
という意見です。
今回の論文では、
そこで1987年から2008年までの間に、
手術治療が行なわれた、
診断当時20歳以下の甲状腺乳頭癌の患者さんの、
最長20年に渡る経過をまとめています。
甲状腺乳頭癌の誘発因子として、
唯一明確なものは小児期の放射線の被ばくです。
放射線誘発癌とそうではない癌との間に、
予後を含めて性質の違いがあるかどうかについては、
まだ議論のあるところです。
そこで今回の研究では、
放射線の治療歴など、
放射線誘発癌の可能性のある患者さんは除外されています。
年齢は甲状腺乳頭癌の予後を考える上で、
重要な因子の1つです。
一般的な傾向として、
高齢者の予後は悪い、
というのが教科書的な記載です。
隈病院のデータでも、
55歳以上は予後が悪い、
という結果が出ています。
しかし、
それでは20歳以下とそれ以上ではどうか、
10歳以下とそれ以上ではどうか、
というように考えると、
事例の数も少なくなるという点もあり、
見解は分かれるところです。
低年齢層の甲状腺乳頭癌では、
リンパ節や遠隔転移の頻度は多い、
というデータは存在します。
また、20歳未満では20歳以上と比較して、
再発は多い、というデータもあります。
しかし、全般としては生命予後は、
若年層でも良好である、
という傾向は変わりません。
今回の事例の総数は110例です。
年齢は7歳から19歳に分布しています。
それではこちらをご覧下さい。
これはそのうち101例の患者さんの、
手術後20年間における、
リンパ節の再発の率を見たものです。
20年間で2割の患者さんは、
リンパ節に再発の所見を認めています。
それではこちらをご覧下さい。
これは矢張り101名の患者さんで、
今度は遠隔転移による再発の率を見たものです。
20年間で1割強の患者さんが、
遠隔転移を認めています。
ただ、それでも生命予後自体は非常に良く、
今回の対象患者さんのうち、
経過の中で亡くなられた方は、
2名のみです。
症例全体では9割が女性ですが、
偶然かも知れませんが、
死亡者はいずれも男性です。
1名の方は手術時に15歳。
腫瘍の大きさは6センチですが、
手術の時点では遠隔転移は見付からず、
手術後に肺と骨の転移が見付かり、
15年目に亡くなっています。
もう1例の方は手術時に16歳。
手術時点で肺の転移があり、
腫瘍は甲状腺の外まで広がっていて、
術後2年余で亡くなっています。
手術後の生命予後と、
再発の有無とを解析すると、
年齢は16歳以下、腫瘍の大きさは3センチ以上で、
有意に再発や死亡のリスクは増加する、
という結果になっています。
甲状腺乳頭癌は、
癌の中では非常に予後の良い癌ですが、
診断が遅れれば命に関わることもあり、
術後の再発も、
決して稀ではありません。
慎重な経過の観察が必要であることは、
間違いのないことなのです。
今日は小児甲状腺乳頭癌の予後についての話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
日本内分泌学会誌の電子版に、
今月掲載された、
神戸の隈病院(くまびょういん)における、
20歳以下の年齢の、
甲状腺乳頭癌の患者さん、
110名の初期治療後の経過を、
まとめた論文です。
英文ですが日本の雑誌です。
ただ、原題で検索しても、
Medlineにはあるものの、
グーグルなどでは引っ掛かりません。
インドの雑誌などもそんな感じです。
隈病院は関西の方にお聞きすると、
東京の伊藤病院と同じく、
甲状腺に何か異常があると、
「ともかくあそこで見てもらいなさい」
と言われる病院です。
しかし、何処かの病院とは違い、
特に甲状腺癌の分野では、
お手本となるような、
非常にしっかりとしたデータを、
多く出しています。
小児甲状腺癌については、
色々なことを言われる方がいますが、
僕はこの病院のデータを、
最も信頼するのが妥当だ、
という意見です。
今回の論文では、
そこで1987年から2008年までの間に、
手術治療が行なわれた、
診断当時20歳以下の甲状腺乳頭癌の患者さんの、
最長20年に渡る経過をまとめています。
甲状腺乳頭癌の誘発因子として、
唯一明確なものは小児期の放射線の被ばくです。
放射線誘発癌とそうではない癌との間に、
予後を含めて性質の違いがあるかどうかについては、
まだ議論のあるところです。
そこで今回の研究では、
放射線の治療歴など、
放射線誘発癌の可能性のある患者さんは除外されています。
年齢は甲状腺乳頭癌の予後を考える上で、
重要な因子の1つです。
一般的な傾向として、
高齢者の予後は悪い、
というのが教科書的な記載です。
隈病院のデータでも、
55歳以上は予後が悪い、
という結果が出ています。
しかし、
それでは20歳以下とそれ以上ではどうか、
10歳以下とそれ以上ではどうか、
というように考えると、
事例の数も少なくなるという点もあり、
見解は分かれるところです。
低年齢層の甲状腺乳頭癌では、
リンパ節や遠隔転移の頻度は多い、
というデータは存在します。
また、20歳未満では20歳以上と比較して、
再発は多い、というデータもあります。
しかし、全般としては生命予後は、
若年層でも良好である、
という傾向は変わりません。
今回の事例の総数は110例です。
年齢は7歳から19歳に分布しています。
それではこちらをご覧下さい。
これはそのうち101例の患者さんの、
手術後20年間における、
リンパ節の再発の率を見たものです。
20年間で2割の患者さんは、
リンパ節に再発の所見を認めています。
それではこちらをご覧下さい。
これは矢張り101名の患者さんで、
今度は遠隔転移による再発の率を見たものです。
20年間で1割強の患者さんが、
遠隔転移を認めています。
ただ、それでも生命予後自体は非常に良く、
今回の対象患者さんのうち、
経過の中で亡くなられた方は、
2名のみです。
症例全体では9割が女性ですが、
偶然かも知れませんが、
死亡者はいずれも男性です。
1名の方は手術時に15歳。
腫瘍の大きさは6センチですが、
手術の時点では遠隔転移は見付からず、
手術後に肺と骨の転移が見付かり、
15年目に亡くなっています。
もう1例の方は手術時に16歳。
手術時点で肺の転移があり、
腫瘍は甲状腺の外まで広がっていて、
術後2年余で亡くなっています。
手術後の生命予後と、
再発の有無とを解析すると、
年齢は16歳以下、腫瘍の大きさは3センチ以上で、
有意に再発や死亡のリスクは増加する、
という結果になっています。
甲状腺乳頭癌は、
癌の中では非常に予後の良い癌ですが、
診断が遅れれば命に関わることもあり、
術後の再発も、
決して稀ではありません。
慎重な経過の観察が必要であることは、
間違いのないことなのです。
今日は小児甲状腺乳頭癌の予後についての話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2012-04-20 08:14
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コメント(2)
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大変勉強になりました。
ありがとうございます。
by kondou (2012-04-20 18:40)
kondou さんへ
コメントありがとうございます。
少しでもご参考になる点があれば幸いです。
by fujiki (2012-04-21 12:50)