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ヨード摂取量と甲状腺機能異常について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
中国のヨード摂取と甲状腺異常.jpg
2006年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
中国におけるヨード摂取量と、
甲状腺機能異常との関連についての、
疫学データの論文です。

昨日日本で海藻の接種量と、
甲状腺乳頭癌との関連を論じた文献をご紹介しましたが、
それは単にアンケートで、
週に何回くらい海藻を食べているのかの回数のみを、
元にしたデータなので、
ヨードの摂取量を実際に反映しているのかどうかさえ、
確実とは言えません。

その点この中国の疫学研究は、
ヨードの摂取量の異なる、
3つの地域の住民、
総数3761人を対象として、
その食事内容や甲状腺疾患の既往の有無などを調査すると共に、
血液と尿のサンプルを全例で採取して、
甲状腺に関わる検査と、
尿のヨードの濃度を測定し、
それによりヨードの摂取量を推測しています。
更に甲状腺の超音波検査も全例に行なって、
異常の有無を確認し、
その5年後に追跡調査を行なっています。
追跡調査の完遂率は80.2%です。

かなりの労力が費やされた研究であることが、
お分かり頂けるかと思います。

ヨードは腸からの吸収が良く、
ほぼ100%が尿から排泄されるので、
尿中に24時間に排泄されたヨードが、
24時間のヨードの摂取量に、
ほぼ等しいと考えて、
大きな間違いはありません。

甲状腺を全摘した患者さんでも、
200μgのT4があれば、
多く見積もっても充分で、
この中には100μgのヨードが含まれているので、
少し余分を見て、
1日200μgのヨードがあれば、
ヨード不足になることはありません。

つまり、
尿中のヨードが、
1日で200μg以上あれば、
ヨード欠乏の可能性は、
否定出来る、ということになります。

この中国の研究データでは、
ややヨード欠乏とされる地域の、
尿中ヨードの平均値は、
84μg/l 程度となっています。
1.5リットルの尿が1日に出るとすれば、
ヨードの排泄量は120μg程度となり、
確かにやや欠乏の可能性が示唆されます。

一方で、ヨードの過剰とされる地域では、
尿中ヨードの平均値は615μg/l で、
1000μgすなわち1mg近いヨードが、
摂取されていることになります。

日本人のヨードの摂取量は、
このヨード過剰地域と同等か、
それより場合によっては、
倍くらいになる可能性があります。

つまり、この中国のデータの、
ヨード過剰地域は、
日本の状況に近いものと、
考えられるのです。

ヨード過剰地域では、
そうでない地域との比較において、
橋本病に関わる自己抗体の陽性率は高く、
顕性の甲状腺機能低下症も、
潜在性の機能低下症も、
いずれの比率も高いものになっています。

注目すべき点は、
初回の検査で橋本病に関わる、
甲状腺の自己抗体が陽性の場合、
5年後に潜在性を含む甲状腺機能低下症になる確率は、
ヨード過剰地域で有意に高いものになっている、
という事実です。

動物実験においては、
ヨードが甲状腺の炎症を惹起する、
というデータがあり、
この結果は、
甲状腺の自己抗体の陽性者は、
ヨードの過剰摂取により、
甲状腺機能低下症を来たすリスクが増加することを、
示唆しているように思われます。

一方でバセドウ病を含む、
甲状腺機能亢進症に関しては、
ヨード摂取の違いにより、
その発症率に明確な差は見られていません。

甲状腺癌に関しても検討が行なわれていますが、
経過観察期間を通して、
甲状腺乳頭癌は13例が診断されており、
その全例がヨード過剰地域の発症です。

これは例数が少ないため、
統計的に意味のあるデータではありません。

ただ、昨日のデータも含めて考えると、
矢張り何らかの素因のある方にとっては、
過剰のヨード摂取が続くことは、
一定レベルの発癌リスクにはなる可能性が、
示唆されるようには思えます。

ヨード摂取と甲状腺癌発症との関連性を、
統計的に検証するには、
少なくとも数万人規模、
場合によっては数十万人規模の、
対象者が必要とされるのではないかと思います。

日本人は定常的に、
ヨードの過剰摂取の状態にあり、
そのこと自体は通常大きな問題にはなりませんが、
甲状腺にしこりが見付かった場合や、
甲状腺の自己抗体が陽性の場合には、
決してヨード欠乏にはならないように留意しつつ、
1日200μgから300μgくらいを目安に、
若干のヨード制限を行なうのが、
安全ではないかと、
昨日と本日のデータを読む限りはそう思います。

今日はヨード摂取量と甲状腺機能異常についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 13

HWK

2年前、甲状腺機能亢進症というのに
苦しみ、バセドウと誤診され、
橋本病だという結論に達し、今に至ります。
体力が随分落ちた感じです。
数値が安定していても。
by HWK (2012-04-19 22:21) 

fujiki

HWK さんへ
コメントありがとうございます。
無痛性甲状腺炎による、
一時的な機能亢進症ですね。
僕は個人的には、
機能亢進の場合には必ず超音波で、
甲状腺の血流が、
全体に増加していることを、
確認してから抗甲状腺剤は使用するようにしています。
by fujiki (2012-04-20 08:17) 

ぷくりん

先生、こんばんは。
いつも興味深いお話をありがとうございます。

前から少し気になっていたのですが、今、中学生と高校生の子どもたちが小さい頃、冬場によくイソジンでうがいをしていました。
小さかったので、少しは飲み込んでいたかもしれません。
うがい薬で飲み込む量は、食べ物からの摂取量に比べると多いのでしょうか?

将来の発癌リスクが高くなってしまうということはありませんか?
by ぷくりん (2012-04-20 21:06) 

fujiki

ぷくりんさんへ
これは意外にヨードの含有量は多いのですが、
うがいの際に多少飲み込むことに関しては、
気にされないで良いと思います。
ただ、1日に何度もイソジンでうがいを続けることを、
習慣化するのは止めた方が良いと思います。
by fujiki (2012-04-21 12:57) 

ぷくりん

先生、お返事ありがとうございました。

これまでのことは気にしないようにします。
今後は慎重に使用したいと思います。
by ぷくりん (2012-04-21 15:38) 

まりおん

機能低下症と診断されて5年、チラージンS100/日で落ち着いていたところに関節リウマチ発症でリウマトレックス12/週とプレドニゾロン5/日、アザルフィジン1g/日が追加、HRTも継続中です。
しかし海藻類が好きなのです、昆布・わかめはもちろんひじき、もずくなども。
自己免疫疾患にいちばんよくないのはストレスだとリウマチ医にはいわれます。そこで思うのは、好きなものをガマンするストレスとやっぱり病気によくないといわれるものを制限なしに摂取するのとどちらがよろしくないのか。先生のお考えはいかがでしょうか?
by まりおん (2012-05-11 14:54) 

fujiki

まりおんさんへ
難しい問題ですが、
甲状腺を定期的にチェックしている状態であれば、
海藻を食べていただくこと自体は、
気にされる必要はないと思います。
ただ、毎日ではない方が良いと思います。
うまく調節し、
それほどの過剰にならないレベルで、
食べて頂くのが良いのではないでしょうか。
by fujiki (2012-05-13 10:35) 

まりおん

ありがとうございます
半年に1度、チラージンSをまとめてもらうときに甲状腺関連の血液検査してもらっています。
(リウマチ関連は6週間に1回です)
糖尿病なんかもきっと同じですね、食べたいのをガマンするストレスとの兼ね合いというのは・・・(実母が糖尿病を発症しているのでそちらの心配もしないといけないですね、同じ内分泌系ですし)
by まりおん (2012-05-14 15:09) 

あたやん

こんばんは。初カキコします。質問したいのですが、橋本病を悪化させない生活習慣があれば教えて頂きたいのですが。現在、チラ-ヂン錠50を毎朝、一錠服用しています。食べ物としては、海藻類、卵類、ひじき、寒天、などを極力、口にしない様に心がけています。血液検査の結果は適正数値内で治まっています。他に、日常で心がける様な条件があれば教えて下さい。宜しくお願いします。
by あたやん (2013-05-31 23:41) 

fujiki

あたやんさんへ
甲状腺機能が正常範囲にあるようでしたら、
あまり気にされる必要はないと思います。
ヨードも極端に過剰であったり、
不足であれば問題ですが、
そうでなければ気にされる必要はないように思います。
後は本当に一般的なことですが、
規則的な生活や睡眠をしっかりとること、
などでしょうか。
むしろ、体調の変化があれば、
早めに血液のチェックをされることが、
重要なように思います。

ご参考になれば幸いです。
by fujiki (2013-06-04 08:29) 

あたやん

先生の温かいお返事有難う御座いました。ところで最近、気になる症状が出て来ました。以前体重が60kg程あったのですが、ここ二~三ヶ月で53kgに体重減少してしまっています。現在もチラ-ヂンS50錠を毎朝食後に一錠、必ず服用する様にしていますが・・・。特に手の震えは目立ちませんが、体が少しだるいです。微熱も夏風邪を引いていたのか、現在は治まっています。少し下痢気味です。不整脈やドキドキ感も感じる時があります。 このまま様子を見ていれば良いのでしょうか?? 少し気になっています。宜しくお願い致します。byあたやん
by あたやん (2013-08-13 05:56) 

fujiki

あやたんさんへ
おそらく症状は甲状腺ホルモンとは、
あまり関連のない可能性が高いと思います。
少しご様子を見て、
症状が続くようなら、
念のため心電図などチェックしてみるのが、
良いのではないかと思います。
by fujiki (2013-08-16 21:33) 

あたやん

先生、有難う御座いました。 暫く様子を見ることにします。
by あたやん (2013-08-27 13:33) 

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