ゲオルギュー様とボグダン君のこと [コロラトゥーラ]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
昨日は2枚半くらい書きました。
今日は休みではないのですが、
趣味の話題です。
今日はこちら。
アンジェラ・ゲオルギュー様は、
公称1965年生まれのルーマニア出身のソプラノで、
テノールのロベルト・アラーニャさんとの夫婦コンビで、
一時は世界で最も売れっ子のソプラノ歌手として、
泣く子も黙る存在でした。
これは少し昔の写真だと思いますので、
今はもう少し雰囲気は違います。
何と言うのか、
失礼ですが清楚な感じは今はないのです。
30代前半の頃はともかく美形で、
押し出しに迫力があり、
そのちょっとくぐもったビロードのような声も、
なるほどこういうのが本場のソプラノの声なのね、
と納得させられるものがありました。
歌は、あれ、この曲がこんな感じでいいの?
コロラトゥーラがこんなテンポでいいの?
随分音符飛ばしてるじゃん。
えっ、ここで音を上げないで終わりにしていいの?
という感じで、ちょっと疑問が残るのですが、
女王様なんだからしょうがないのね、
という感じがあったのです。
昨年は久しぶりに来日して、
日本で当たり役の「椿姫」を歌う筈だったのですが、
家庭の事情でドタキャンになり、
アンナ・ネトレプコが1日だけ代役に立ったりもして、
女王様らしい気まぐれさで、
日本の招聘元をかき回しました。
今アメリカでは一番の売れっ子のネトレプコに、
平気で代役をさせるのだから、
さすが女王様は違うのです。
そして、今年の5月に、
テレビ朝日の主催でコンサートの企画があったのですが、
震災の影響で日本には来ず、
その振り替えのコンサートが、
今週に行われました。
会場はサントリーホールの大ホールだったのですが、
入ってみると、
お客さんが本当にまばらにしかいません。
当日は小ホールのコンサートもあったのですが、
間違いなく小ホールの方が、
お客さんの数は多いのです。
前回の2005年のリサイタルは、
まあ満員ではありませんでしたが、
そこそこの入りではあったので、
こんなことで女王様が、
どうされるのだろう。
怒ってお帰りになるのではないかしら、
と非常に心配になったのです。
非常に微妙な感じのオーケストラの演奏があり、
女王様が豹皮みたいな派手なドレスで姿を現わします。
そして、1曲目を歌った途端、
「バラバラに座ってないで、
もっと真ん中に集まりなさいよ。
寂しいじゃないの。
でないと、もう歌わずに帰るわよ」
みたいなことを肉声で言われたのです。
皆非常にびっくりしましたが、
もっともなのでその場で座席を解除して大移動が始まります。
指定席は自由席になったのです。
当日のプログラムがこちらです。
お分かりの方はお分かりになると思いますが、
なかなか渋い選曲なのです。
女王様は自分の歌は大雑把な癖に、
意外に繊細な曲が好きで、
相手役にも繊細な声のテノールを選びます。
今回当初の予定は、
マリウス・ブレンチウというテノールが相手役でしたが、
スケジュールの関係で、
振り替え公演は、
ボグダン・ミハイという若いテノールに代わりました。
彼はフェースブックやツィッターに熱心な若手で、
有望株のレジェーロです。
このボグダン君が絶好調で、
びっくりです。
いきなりロッシーニの「セビリアの理髪師」の、
伯爵の最初のアリアを歌うのですが、
これがうっとりするような流麗なアジリタの技巧で、
惚れ惚れとするような歌なのです。
その次がベッリーニの「清教徒」の第3幕、
ハイDという超高音が2回出て来る二重唱です。
高音はスカッと出る感じではないのですが、
でも楽々に歌い切り、
胸のすくような歌唱です。
それに引き摺られて、
あの手抜き歌唱の女王様も、
音を下げずに顔を真っ赤にして歌い上げたので、
二度びっくりです。
その後も快調な歌唱が続き、
女王様は2回のお色直しをされました。
アンコールは2曲の予定を1曲に縮め、
そのことを隣のオジサンは怒っていましたが、
これだけ寂しい客席で、
1曲歌ってくれただけでも感謝するべきではないでしょうか?
どうせ予定の曲目も「私のお父さん」か何かなのです。
リサイタルはもう1回、
明日日曜日に予定があります。
懐具合とお時間に、
若干の余裕のある方は、
どうかご参集頂けないでしょうか?
確かにショボい感じのリサイタルなのです。
しかし、そのショボさの責任は、
ひとえに主催側にあります。
どうして慣れないクラシックの招聘などに手を出すのでしょうか?
オケは他の選択肢はなかったのですか?
価格の設定は強気過ぎやしないでしょうか?
なんでパンフレットは無料とは言え、
ペラペラの紙1枚で歌手の経歴すら書いてないのでしょうか?
チケットが殆ど売れていないことは、
早くから分かっていた筈です。
サクラでも何でもいいですから、
動員を掛けて頂かないと、
ちょっとこれはあまりに酷い惨状です。
内容が悪ければあれなのですが、
僕はこんなに真剣に歌うゲオルギュー様を、
初めて聴きましたし、
ボグダン君の歌唱だけでも、
充分感動的で充実感があるのです。
特にゲオルギュー様の、
中音域から低音域へと滑らかに降りて行くところなど、
意外に心地良く耳に響くのです。
ゲオルギューおばさんは正直、
ソプラノよりメゾソプラノに近い音域です。
少し前に同じサントリーホールで、
グルベローヴァが満員の観客を前に、
見事な歌唱を聴かせましたが、
彼女は高音は得意ですが、
低めの音は今は全部胸に落ちてしまうので、
おばさんの安定した低音域を聴くと、
これはこれで悪くないね、と思うのです。
僕は「ルサルカ」の「月に寄せる歌」や、
「かもめ」の「ドレッタの素晴らしい夢」の辺りは、
ゲオルギューおばさんの歌が一番好きです。
5月の上海のコンサートは、
オールスタンディングの盛況だったそうですから、
ゲオルギューおばさんは余程お金に困らない限り、
日本などには二度と来ることはないでしょう。
せっかく来てくれたのに、
非常に残念です。
もしご興味の湧いた方がいらっしゃいましたら、
明日のサントリーホールに是非。
ただ、舞台は生ものですので、
明日もおばさんが頑張ってくれるかどうかは、
僕に保障の出来ることではありません。
駄目でしたらご容赦下さい。
今日はゲオルギュー様とボグダン君の話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
昨日は2枚半くらい書きました。
今日は休みではないのですが、
趣味の話題です。
今日はこちら。
アンジェラ・ゲオルギュー様は、
公称1965年生まれのルーマニア出身のソプラノで、
テノールのロベルト・アラーニャさんとの夫婦コンビで、
一時は世界で最も売れっ子のソプラノ歌手として、
泣く子も黙る存在でした。
これは少し昔の写真だと思いますので、
今はもう少し雰囲気は違います。
何と言うのか、
失礼ですが清楚な感じは今はないのです。
30代前半の頃はともかく美形で、
押し出しに迫力があり、
そのちょっとくぐもったビロードのような声も、
なるほどこういうのが本場のソプラノの声なのね、
と納得させられるものがありました。
歌は、あれ、この曲がこんな感じでいいの?
コロラトゥーラがこんなテンポでいいの?
随分音符飛ばしてるじゃん。
えっ、ここで音を上げないで終わりにしていいの?
という感じで、ちょっと疑問が残るのですが、
女王様なんだからしょうがないのね、
という感じがあったのです。
昨年は久しぶりに来日して、
日本で当たり役の「椿姫」を歌う筈だったのですが、
家庭の事情でドタキャンになり、
アンナ・ネトレプコが1日だけ代役に立ったりもして、
女王様らしい気まぐれさで、
日本の招聘元をかき回しました。
今アメリカでは一番の売れっ子のネトレプコに、
平気で代役をさせるのだから、
さすが女王様は違うのです。
そして、今年の5月に、
テレビ朝日の主催でコンサートの企画があったのですが、
震災の影響で日本には来ず、
その振り替えのコンサートが、
今週に行われました。
会場はサントリーホールの大ホールだったのですが、
入ってみると、
お客さんが本当にまばらにしかいません。
当日は小ホールのコンサートもあったのですが、
間違いなく小ホールの方が、
お客さんの数は多いのです。
前回の2005年のリサイタルは、
まあ満員ではありませんでしたが、
そこそこの入りではあったので、
こんなことで女王様が、
どうされるのだろう。
怒ってお帰りになるのではないかしら、
と非常に心配になったのです。
非常に微妙な感じのオーケストラの演奏があり、
女王様が豹皮みたいな派手なドレスで姿を現わします。
そして、1曲目を歌った途端、
「バラバラに座ってないで、
もっと真ん中に集まりなさいよ。
寂しいじゃないの。
でないと、もう歌わずに帰るわよ」
みたいなことを肉声で言われたのです。
皆非常にびっくりしましたが、
もっともなのでその場で座席を解除して大移動が始まります。
指定席は自由席になったのです。
当日のプログラムがこちらです。
お分かりの方はお分かりになると思いますが、
なかなか渋い選曲なのです。
女王様は自分の歌は大雑把な癖に、
意外に繊細な曲が好きで、
相手役にも繊細な声のテノールを選びます。
今回当初の予定は、
マリウス・ブレンチウというテノールが相手役でしたが、
スケジュールの関係で、
振り替え公演は、
ボグダン・ミハイという若いテノールに代わりました。
彼はフェースブックやツィッターに熱心な若手で、
有望株のレジェーロです。
このボグダン君が絶好調で、
びっくりです。
いきなりロッシーニの「セビリアの理髪師」の、
伯爵の最初のアリアを歌うのですが、
これがうっとりするような流麗なアジリタの技巧で、
惚れ惚れとするような歌なのです。
その次がベッリーニの「清教徒」の第3幕、
ハイDという超高音が2回出て来る二重唱です。
高音はスカッと出る感じではないのですが、
でも楽々に歌い切り、
胸のすくような歌唱です。
それに引き摺られて、
あの手抜き歌唱の女王様も、
音を下げずに顔を真っ赤にして歌い上げたので、
二度びっくりです。
その後も快調な歌唱が続き、
女王様は2回のお色直しをされました。
アンコールは2曲の予定を1曲に縮め、
そのことを隣のオジサンは怒っていましたが、
これだけ寂しい客席で、
1曲歌ってくれただけでも感謝するべきではないでしょうか?
どうせ予定の曲目も「私のお父さん」か何かなのです。
リサイタルはもう1回、
明日日曜日に予定があります。
懐具合とお時間に、
若干の余裕のある方は、
どうかご参集頂けないでしょうか?
確かにショボい感じのリサイタルなのです。
しかし、そのショボさの責任は、
ひとえに主催側にあります。
どうして慣れないクラシックの招聘などに手を出すのでしょうか?
オケは他の選択肢はなかったのですか?
価格の設定は強気過ぎやしないでしょうか?
なんでパンフレットは無料とは言え、
ペラペラの紙1枚で歌手の経歴すら書いてないのでしょうか?
チケットが殆ど売れていないことは、
早くから分かっていた筈です。
サクラでも何でもいいですから、
動員を掛けて頂かないと、
ちょっとこれはあまりに酷い惨状です。
内容が悪ければあれなのですが、
僕はこんなに真剣に歌うゲオルギュー様を、
初めて聴きましたし、
ボグダン君の歌唱だけでも、
充分感動的で充実感があるのです。
特にゲオルギュー様の、
中音域から低音域へと滑らかに降りて行くところなど、
意外に心地良く耳に響くのです。
ゲオルギューおばさんは正直、
ソプラノよりメゾソプラノに近い音域です。
少し前に同じサントリーホールで、
グルベローヴァが満員の観客を前に、
見事な歌唱を聴かせましたが、
彼女は高音は得意ですが、
低めの音は今は全部胸に落ちてしまうので、
おばさんの安定した低音域を聴くと、
これはこれで悪くないね、と思うのです。
僕は「ルサルカ」の「月に寄せる歌」や、
「かもめ」の「ドレッタの素晴らしい夢」の辺りは、
ゲオルギューおばさんの歌が一番好きです。
5月の上海のコンサートは、
オールスタンディングの盛況だったそうですから、
ゲオルギューおばさんは余程お金に困らない限り、
日本などには二度と来ることはないでしょう。
せっかく来てくれたのに、
非常に残念です。
もしご興味の湧いた方がいらっしゃいましたら、
明日のサントリーホールに是非。
ただ、舞台は生ものですので、
明日もおばさんが頑張ってくれるかどうかは、
僕に保障の出来ることではありません。
駄目でしたらご容赦下さい。
今日はゲオルギュー様とボグダン君の話でした。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2011-10-15 07:57
nice!(35)
コメント(8)
トラックバック(0)
おはようございます。
95年にロンドンへ初めて行ったときにコヴェントガーデンで「椿姫」を、ショルティ指揮、売出し中のゲオルギューでやっていてチケットもゲット。ラッキーと思って会場へ行くと理由を忘れましたがどちらもキャンセル、代わりになってしまいました。未だにもったいないというか残念だったというか、こういうお話を聞くと思い出してしまいます。
まあ、熱心なオペラ・声楽ファンではないですのでそれはそれで充分楽しめたのですけどね。
by katz (2011-10-15 08:43)
私と年が近い女王様ということで親近感が湧きました。
私も一部では女王様と呼ばれていますので・・・
オペラは全くわからないのですが
「ある晴れた日に」は中学生の頃好きで
声帯を痛めるほど歌っていました。
by こはく (2011-10-15 21:12)
美形ソプラノの運命なんですかね、
確かに相変わらず美しい女性ですが、歌う時の顔、特に額のシワは…
でも、今の声なら、本来メゾソプラノのナンバーですが、「あなたの声に心は開く」なんか、ちょっと聴いてみたい気もします。
アンナは確かに今泣く子も黙る勢いですが、健康的な美しさゆえか、波が目立ちますね、乱暴。かつてのミレッラみたいな古風なふくよかさみたいなものが無いので、年齢の重ね方に興味はあります。
しかし、何年か前に清教徒が上演されるなんてと、日本には来るのかとか、フローレンスが現れた時には楽しみでしたが、あらあらあらこんな結果とは。
今回の待遇で素晴らしい公演を披露してくれたなら、手が赤くなるほど拍手をおくりたいですが…
聴衆側で、なぜ、このデキでこの盛大な拍手?
と違和感を感じ、音のしない拍手をしたことも、オペラに限らずしばしばあります。私にみるめが無い、人それぞれ感じ方が違う、もしくは、ネームバリューに反応?
でもネームバリューに反応でも、スターオーラでてちゃってたらそれだけで、イチコロの時もありますけど、最近そういった方はいるのでしょうか?
良くチェックしていた頃と今の第一線はまるで違ってしまっているので。
by アミナカ (2011-10-16 02:27)
途中から、敬称が「様」から「おばさん」扱いというのは一体…(^^;)?
今週のコンサートでおばさんを彷彿とさせてらっしゃったんでしょうか?
どーでもいい事を突っ込んですみません。
舞台裏の状況の酷さは今後の日本を暗示している様な気がしないでもないです。
by ごぶりん (2011-10-16 19:56)
katz さんへ
コヴェントガーデン羨ましいですね。
僕は海外は昔ウィーンフォルクスオパーを聴いただけです。
by fujiki (2011-10-16 22:29)
こはくさんへ
コメントありがとうございます。
by fujiki (2011-10-16 22:31)
アミナカさんへ
コメントありがとうございます。
ネトレプコは去年の来日では、
かなりぽっちゃりしていて、
登場はオヤオヤという感じはありましたが、
華のある場面はさすがです。
ただ、代役の「椿姫」はヘロヘロで、
逆に結構しっかり準備して、
舞台に臨む人なのだな、と思いました。
勿論今が抜群、という人はいるのだと思いますが、
僕も正直分かりません。
by fujiki (2011-10-16 22:36)
ごぶりんさんへ
それはちょっと構成上の遊びです。
来年以降はもう、
かなり寂しい状況になると思います。
by fujiki (2011-10-16 22:38)