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妊娠中のカルシウム代謝について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はそんなにご興味のある方が、
多くはないと思うのですが、
妊娠中のカルシウム代謝の変動について、
今月のNew England Journal of Medicine誌に、
比較的詳細な解説があったので、
その話です。

僕の覚書的なものとご理解下さい。
意外とこうしたことは、
普通の本には書いてはいないのです。

ではこちらをご覧下さい。
妊娠中のカルシウム代謝.jpg
これは上記の雑誌に載っていた図表です。
左の列が妊娠していない女性の数値で、
右の列は妊娠後半期の数値を示しています。

妊娠中にはカルシウムは胎児の骨の形成に必須のため、
母体のカルシウムは胎児循環へと流入します。
最もカルシウムの必要量が多くなるのは、
妊娠後期のことですが、
母体はその準備を妊娠の初期から始める、
と考えられています。

カルシウムは小腸から吸収され、
その吸収量を増加させるのは、
活性型のビタミンDです。

甲状腺の裏側にある副甲状腺という組織からは、
副甲状腺ホルモンというホルモンが分泌され、
血液のカルシウムと副甲状腺ホルモン、
そしてビタミンDとのバランスが、
主に血液中のカルシウム濃度を調節しています。

血液のカルシウム濃度が減少すると、
副甲状腺ホルモンが分泌され、
それにより活性型ビタミンDが増加するので、
カルシウムの吸収量が増加し、
おしっこからのカルシウムの排泄も抑えられて、
血液のカルシウム濃度は上昇します。
更に副甲状腺ホルモンは骨からもカルシウムを動員します。

すると、今度は副甲状腺ホルモンが抑えられるので、
カルシウムの吸収が抑えられ、
骨からのカルシウムの動員も減るので、
カルシウムの濃度は正常範囲に保たれるのです。

そこでこのメカニズムが、
妊娠中にはどう変化するのかを見てみましょう。

血液中のカルシウム濃度は、
通常妊娠中にはやや低下するのですが、
実際にはこれは、
血液の蛋白質である、
アルブミンが減少するからで、
カルシウムイオンの濃度には、
変動は殆ど見られない、とされています。

また、カルシウム濃度の重要な調節因子である、
副甲状腺ホルモンの濃度も、
ほぼ正常範囲に保たれています。

それでは、一体どのような点が、
妊娠中には変化するのかと言うと、
それは活性型ビタミンDの濃度です。

活性型ビタミンD濃度は、
妊娠初期より上昇し、
通常の正常範囲の2倍程度に、
妊娠を通して維持されます。
これがカルシウムの腸管からの吸収を亢進させ、
吸収されたカルシウムが、
胎盤を通して胎児に移行する、
という仕組みです。
この活性型ビタミンDの上昇は、
副甲状腺ホルモンとは無関係に生じるとされています。

妊娠時には、
副甲状腺ホルモン関連蛋白質という、
癌の骨転移でカルシウムを上昇させる時に、
分泌される蛋白質と同質のものが、
上昇していて、
その働きにより、
カルシウムの胎盤への移行が促進され、
同時に母体の骨を、
破壊から守る働きもしている、
という推論もあります。

時に副甲状腺機能亢進症が、
妊娠中に悪化する事例があり、
これは母体にも胎児にも大きな影響を与えます。

従って、
ご妊娠をされる前には、
出来れば一度は血液のカルシウム濃度は、
測っておくのが安全だと思います。

今日は妊娠中のカルシウム代謝の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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