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オゾンの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後はレセプトの事務作業に明け暮れる予定です。

それでは今日の話題です。

今日はオゾンの話です。

オゾンとは何でしょうか?

オゾンというのは、
酸素原子が3つくっついた形の、
不安定な分子の気体で、
嫌な臭いのする光化学スモッグの、
主成分の1つとされています。
(ただしこれには異論を唱える方もいます)

自然には雷の放電などで生成されます。

このように悪い毒ガスのように思えるオゾンですが、
一方で成層圏のオゾン帯が、
紫外線の地表への侵入を防いでいる、
という事実は、
「オゾンホール拡大」などの言葉で、
皆さんにも馴染みが深いのではないかと思います。

要するに成層圏のオゾンは必要なものだけれど、
僕達が吸い込む空気に、
一定量以上のオゾンが含まれていると、
それは人体に確実に有害な影響を与えます。

嗅覚の敏感な人は、
0.01ppmという濃度のオゾンでも、
そのクサい臭いを感じます。
通常の人でも0.015ppmくらいで、
何か臭いぞ、と感じます。
このレベルでは基本的には人体に有害な影響はないとされます。

アメリカのFDAの最大許容濃度は、
0.05ppmです。

しかし、日本の産業衛生学会の定めた、
許容濃度は0.1ppmです。

この0.1ppmを超える濃度のオゾンが、
人体に有害であることは、
世界的にもコンセンサスが得られています。

この濃度のオゾンを吸い込むと、
咽喉や鼻に痛みと不快感を感じ、
喘息の患者さんでは発作の回数が増加します。

0.5ppmを超えると明らかな呼吸障害を生じ、
5ppmを超えると呼吸困難や昏睡に至り、
50ppmでは1時間で生命の危険があるとされます。

オゾンは強力な酸化剤です。

従って、高濃度のオゾンに触れた身体の組織は、
酸化により腐食し、
最終的には死に至るのです。

酸化ストレスが身体を老化させ、
多くの生活習慣病の原因となる、
というような話は、
皆さんも耳にタコが出来るほど、
お聞きになったことがあると思います。
それに拮抗するのが、
ビタミンCや赤ワインのポリフェノールのような、
抗酸化剤で、
酸化ストレスを避け、抗酸化剤を取ることが、
若さを保つ秘訣のようにも言われます。

オゾンの吸入は、
間違いなく「酸化ストレス」そのもので、
ネズミなどを用いた酸化ストレスの呼吸器障害の、
実験にも使用されています。

ここまでお読み頂いた皆さんは、
オゾンというのは恐ろしいもので、
そんなものは厳密に制限されるべきだ、
とお考えになると思います。

ところが…

その一方でオゾンは各種の用途に活用され、
非常に産業においても有用性の高い物質として、
評価が確立しています。
そればかりか、家庭用オゾン発生器まで販売され、
健康増進目的に、
オゾンを利用しよう、という考え方もあります。
オゾン療法というものが存在し、
オゾンを血液とを混合して、
血液を綺麗にする、という治療もあれば、
癌の治療にオゾンが使用される、という報告もあります。
マイナスイオンとかプラズマ何たらのような空気清浄器の中には、
その原理上オゾンを発生させているものもあります。

何故危険な酸化剤の筈のオゾンが、
一方ではこのようにむしろ健康を増進するものとして、
捉えられているのでしょうか?

まず、オゾンの効果と称するものを、
2つに分けて考えることが必要です。

その1つはオゾンを直接人体に作用させるのではなく、
オゾンの強い酸化作用による、
殺菌消臭効果を利用するという考え方と、
もう1つはオゾンそのものを身体に作用させることが、
その濃度をしっかり管理すれば、
むしろ健康に良く病気の治療効果もあるのだ、
という考え方です。

この2つの考え方が時に混乱していることが、
オゾンの問題を複雑にしている、
1つの要素であるように僕には思えます。

それではまずオゾンの持つ殺菌消臭効果ですが、
オゾンは強力な酸化剤ですから、
接触した物質から、
強力に電子を奪う作用があります。
この作用は人体に有害ですが、
同様に細菌などの微生物にも有害なため、
オゾンには強力な殺菌作用があるのです。

他の殺菌剤にない特性として、
オゾンは不安定で短時間で酸素に戻ってしまう、
という点があります。

酸素は高濃度でなければ、
人間にとっても勿論無害です。

従って、オゾンは殺菌剤として、
非常に有用性が高いのです。
オゾンを水に溶かして、
それを洗浄などに用いれば、
一時的には強力な効果があり、
その後はただの水に戻るので無駄がありません。

ただ、この用途には、
ある程度の高濃度のオゾンが必要となるため、
それを吸い込むような事態は防がなければなりません。

産業においては、
オゾンは製品の消臭や脱色、有機物除去などに、
広く使用されています。

また家庭内でも冷蔵庫の抗菌や脱臭、
消臭便座の脱臭、
エアコン内のクリーニング、
空気清浄器の一部などに広く使用されています。

先ほど触れましたように、
オゾンは0.015ppmという、
非常な低濃度でも臭いを感じます。
そして、0.05ppmを超えないような濃度では、
その空気清浄化などの作用は生じないとされています。
つまり、効果のある濃度のオゾンは、
刺激があり非常に臭く吸い込めば咳き込むのですから、
それを吸い込まないような環境でのみ、
オゾンの殺菌や消臭作用は生じなければならないのです。

ところが…

一部にオゾンを発生させるような空気清浄器があり、
それが普通に室内で使用されるようなケースがあります。
インフルエンザの予防に効果があるとか、
花粉症の花粉をブロックする、
などの効能をうたったものもあります。

平成19年に行なわれた消費者センターの調査によると、
そうしたオゾン使用の空気清浄器や健康器具の一部には、
室内で使用した場合、
そのオゾン濃度が0.1ppmを超えるものがあり、
販売元に注意喚起が行われました。

しかし、現実にはオゾンが身体に良いと信じて、
そうした器具を室内に置き、
使用している方もまだいらっしゃるのではないかと思います。

そもそもオゾンを吸い込んでも不快感がないとすれば、
それは殺菌にも消臭にも実際には効果がないのですから、
室内において快適で、
空気を清浄化するようなオゾン発生器というのは、
それ自体矛盾した存在なのです。

もう1つの問題はオゾン療法と言われるような、
医療用の特殊なオゾンの使用です。

これは1923年に世界で初めての、
医療用のオゾン発生器が、
日本人の手により発明され、
その後九州地方の大学病院の教授が、
血液にオゾンを溶かして皮下注射で使用する、
という方法を開発して、
広まったとされています。

つまり、日本で開発された、
当時では最先端の特殊な医療技術です。

それが戦後ヨーロッパに広まり、
オゾン療法を推進される医師の記載によれば、
現在でも代替医療として、
ヨーロッパでは広く使用されている、
とのことです。
その真偽は僕は確認していません。

一方アメリカはオゾンの規制が厳しく、
オゾン療法なるものは明確に禁止されています。

オゾン療法というのは、
要するに身体に明確な害を与えない程度のオゾンを、
直接血液中や酸素と混合にして腸内に注入し、
その治療的な効果を期待するものです。

この治療を推進される方の意見によれば、
オゾンは赤血球代謝を活発にし、
創傷の治癒を促進し、
免疫を調整し、酵素の働きを活性化させる等の働きにより、
癌や椎間板ヘルニア、関節炎や腸の炎症性疾患などに、
治療効果があるのだとされています。

本当にオゾンはそんな万能治療法なのでしょうか?

現時点では肯定も否定も出来るだけの情報がありません。

一般には抗酸化剤が、
若返りの薬のように言われますが、
身体の働きは酸化と還元とのバランスで成り立っていて、
酸化も身体の重要な働きであり、
酸化酵素を適切に誘導することが、
身体のバランスの維持に、
繋がる可能性のあることも事実です。

ただ、オゾンは酸化剤としての役割しか、
果たすことはないのですから、
その効果には個人差が大きく、
酸化の働きが低下している個体には、
大きな効果があるけれども、
むしろ酸化ストレスが亢進した状態にあるのに、
オゾンなどを使用すれば、
逆効果となるのは火を見るより明らかです。

その判断が科学的に困難である以上、
僕は不用意にオゾン療法を行なうことは、
かなりのリスクがあると思います。

あるクリニックのサイトで、
オゾン療法をが紹介されていて、
そこには採取した血液が黒っぽい色をしているのに、
そこにオゾンを混入すると、
その血液が鮮やかな赤色に変化する画像を見せて、
「このように血液が浄化されます」
のような記載がありました。

賢明な皆さんはお分かりのように、
これは一種のトリックなのです。
静脈血は酸素が少ないのですから、
当然青黒いような色をしています。
オゾンは酸素より強力な酸素のようなものですから、
当然混合すれば赤血球を酸素化するので、
色は鮮やかな赤に変わるのです。
これは単純な化学実験のようなもので、
それが健康に良いとか悪いとかと言うのとは、
全く次元の違う問題なのです。
それを「血液の浄化」のように表現する辺りに、
何となくいかがわしいものを、
正直感じざるを得ません。

オゾンが低濃度だと健康に良く、
高濃度だと健康を損ねるというのは、
低線量と高線量の放射線の話に似ています。

また、戦前の九州で始まった特殊な治療が、
一種の商売となって普及し、
アメリカでは明確にその効果が否定されているにもかかわらず、
多くの医療者が実際には使用していて、
普段はエビデンスがエビデンスが、と騒ぐような皆さんが、
そのブラックボックスのような治療と通常の医療行為とに、
何らの矛盾も感じていないように思える点などは、
プラセンタ治療に似ています。

戦前戦中の九州の大学病院というのは、
皆さんもご存知のように、
幾つもの曰くのある「魔窟」のようなアンタッチャブルな場所です。

1900年代の前半には、
放射線もプラセンタもオゾン発生装置も、
全て最先端の医療行為で、
そこには何らリスクの影などなかったのですが、
それが今も生き残っているという事実に、
医療の歴史を紐解く上で、
ある種の闇の領域を、
見るような思いがします。

今日はオゾンの不思議についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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ごぶりん

オゾンといえば、大阪の水は琵琶湖から引いていて塩素消毒なので、
すごく不味かったのですが、
結婚して大阪を離れた後、オゾン殺菌になったら水道水が美味しくなり
ちょっと悔しい思いをした覚えがあります
オゾンが医療に使われてるのを知りませんでした。
オゾン=殺菌というイメージなので、あんまり自身の治療に使われたくないですね~。
九州大医学部というと、「海と毒薬」を思い出しますが、その件の療法も
その頃になされていたんでしょうか?
by ごぶりん (2011-09-07 08:40) 

midori

素朴なギモン。
オゾンって、どんな臭いなのですか?
田舎育ちなもんで
「光化学スモッグ」ではピンとこないのです。
東京の雨って臭いですよね、あんな感じ?
by midori (2011-09-07 09:50) 

デュラ

お話にでてきたプラセンタは効果があるのでしょうか?医薬品としても使われ保険適用もありますが幅広い用途に疑問を感じます。
by デュラ (2011-09-08 07:36) 

fujiki

ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
オゾンは代替医療的に使用されている側面があるのですが、
ある意味放射線に近いリスクのあるものなので、
そうした用途の使用は、
僕は危険性が高いのでは、
と思います。
by fujiki (2011-09-08 07:49) 

fujiki

midori さんへ
冷凍庫のツンと来る感じではないかと思います。
by fujiki (2011-09-08 07:49) 

fujiki

デュラさんへ
コメントありがとうございます。
僕は基本的にプラセンタの使用には反対の立場で、
保険適応自体は数十年前になされ、
検証のされていな点が問題と思います。
国会や厚生労働省の委員会でも、
過去にその使用が問題となったケースがあり、
いずれもウヤムヤに終わっています。
過去にそれについては記事を書いていますので、
詳細はそちらをご覧下さい。
by fujiki (2011-09-08 07:53) 

はっちぽっち

つい最近、通年性のアレルギー性鼻炎の息子のために、プラズマ何たらを期待に胸ふくらませ購入したばかりです…。
無人状態にして稼動後、換気をしばらくしてから室内に入ればオゾンの影響を受けずにすむのでしょうか?とほほ…。
by はっちぽっち (2011-09-08 19:55) 

fujiki

はっちぽっちさんへ
空気清浄器が全てオゾンを発生させる訳ではなく、
有害なオゾン濃度になるという訳ではありません。
当該の器具がオゾンを発生させるかどうか、
発生させるとすれば、
その濃度に問題がないかどうかは、
メーカーにお問い合わせ頂くのが良いと思います。
by fujiki (2011-09-09 08:37) 

たいぞう

我が意を得たりのHPを見つけて大変嬉しく思いました。
代替医療というのに疑問を感じている者です。
ホメオパシーと言われる類は、効果うんぬん以前に、ただの水だろうから、水の汚染だけ気を付ければご自由にどうぞってところですが、オゾン療法やらプラセンタやらになってくると、実際に害がありそうで怖いです。プラセンタはプリオンが問題になりましたよね。

病は気から、なんでしょうね。
尿を飲むって療法もありましたよね。
その療法を受ける気力体力があるだけで、既に健康だろうと思います。

狂信に近い人々相手にまっとうな考え方で意見するのは、とても気苦労が多い事と思いますが、どうかこれからも頑張ってください!!


by たいぞう (2014-05-17 00:51) 

fujiki

たいぞうさんへ
コメントありがとうございます。
そう言って頂くと励みになります。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2014-05-17 06:36) 

ともこ

しくしく。これを読むのが遅すぎました。オゾン療法を受けました。
身体は暖かくなりましたが、耳鳴りも活性化してしまいました。
安易に絶対に受けないでくださいね!」
by ともこ (2014-05-30 20:34) 

juno

海外在住です。
本日、たまたま、近所に住むアメリカ人の知人から、
オゾン療法を、エボラ出血熱の治療に応用しようとしている
団体の話を聞きました。
団体というのは、正確には、
スペインで開業しているクリニックだそうです。
今まで、私は、オゾン療法という言葉すら一度も聞いたことがなく、
半信半疑で、知人の説明を聞くうちに、
非常に疑いの気持ちが強くなり、
その後、インターネットを検索するうちに、
ここにたどり着きました。
大変、勉強になりました。
癌にしてもエボラ出血熱にしても、
現時点では、医療に明らかな限界がある病が存在する場所に、
跳梁跋扈する、このような「療法」は、個人的には許せません。
藁をもつかみたい人の心の隙につけいる行為だと感じています。

by juno (2014-10-30 07:08) 

fujiki

junoさんへ
コメントありがとうございます。
少しでもご参考になる点があれば幸いです。
by fujiki (2014-10-30 08:30) 

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