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バセドウ病の治療と商品としての医療について [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後はレセプトの残りをやって、
それから妻の入院先に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

先日診療所を風邪で受診された方は、
バセドウ病で10年前から治療中ですが、
メルカゾールという抗甲状腺剤を、
1週間に2日間だけ飲み続けるように指示され、
外来受診の間隔は3か月に一度でした。
患者さんのお話だと、
その状態がもう2年以上続いている、
とのことでした。

それで薬を飲むことを忘れませんか、
とお聞きすると、
忘れるのはしょっちゅうで、
受診の間隔も半年になることもしばしばある、
というお話でした。

皆さんはこの話をどうお思いになりますか?

バセドウ病の治療には、
確かに時間の掛かることがあります。

メルカゾール単独で治療する場合には、
1日1錠でも効き過ぎて機能低下に傾く場合があり、
それでも自己抗体が高値であるなど、
まだ治療を終了するには時期尚早と判断される時には、
数日に1回の内服、という選択がされることもあります。

ただ、医療者側の理屈ではそうでも、
処方される患者さんの側ではどうでしょうか?

特に不快な症状もなく、
1錠の薬を、
週に2日だけ飲み続けて、
3ヶ月に一度通院する、という作業は、
それがまた通院に1日掛かりの病院であるとすれば、
通院日や薬の内服日を、
忘れない方が特殊なことだ、
というようにも思えます。

つまり、こうした方法は、
あまり患者さんの生理を、
考えて行われているとは思えません。

従って、多くの場合患者さんは、
真面目に薬を飲まなかったり、
面倒で受診を遅らせたりするようになります。

すると、医療者の側としては、
しばらく週2回のペースでメルカゾールを内服してもらい、
それから治療を終了の方向で考えようと思っているのに、
実際には受診された患者さんは、
最近はあまり薬を飲んでいない、と言われるので、
じゃ仕切り直しだ、と思って再び3ヶ月分の処方をし、
それがまた守られないので…
という無限ループに突入してしまうのです。

それで結果として2年以上が経過してしまうのは、
医療者にとっても患者さんにとっても不幸なことです。

欧米では多分、こうした患者さんは、
もっと早い時期に割り切って、
手術か放射性ヨードの治療に、
切り替えるのではないかと思います。

あと、一旦薬は終了として、
その後の経過を慎重に観察した方が良いかも知れません。

確かにバセドウ病は慎重に治療を続けないと、
再発し易い病気です。

しかし、実際には上の事例の患者さんでは、
現実には治療を中止したのと、
さして変わらない事態になっているのです。

それなら、中途半端に治療を継続するよりも、
一旦はっきり中止した方が、
却って医療者と患者さんの双方にとって、
負担が少ないことになるのではないかと思います。

抗甲状腺剤と甲状腺ホルモン剤との、
併用療法というやり方があって、
最近旗色はあまりよくないのですが、
僕自身は以前師事していた先生のやり方だったこともあり、
基本的にはその方法で治療を行なっています。

この方法には欠点もありますが、
1つのメリットは上に挙げたような患者さんの場合、
週2回の内服などという変則的な方法は取らず、
連日の内服で様子を見られる、
という点があります。
連日の使用でも機能低下になる心配がないからです。

ただ、それでも先日受診されたバセドウ病の患者さんは、
途中で面倒になって薬を中断されて受診されました。

不思議なことにそうしたケースでは、
意外とバセドウ病は再発しません。

実際専門病院の治療が中途半端な状態で推移し、
ご相談に見えた方が数人いらっしゃいますが、
治療を終了として様子を見ても、
再発した方はいませんでした。

バセドウ病の治療に限らず、
こうした慢性期の、
患者さんの生理に合わない治療というのは、
日本ではよく見掛けられます。
理屈は間違っていないし、
素晴らしい薬が使用されているのですが、
それでいて、治療の成功率は、
概ね患者さんが受診間隔を守らない、などの理由で、
あまり芳しいものにはなりません。

何が間違っているのでしょうか?

僕の考えはこうです。

医療者はパッケージとしての医療を行なっているのです。
たとえば、「バセドウ病の治療」というパッケージです。

医療もサービス業の一種であり、
おぞましいキャピタリズムの世の中では、
医療も1つの商品でなければならないのです。
その証拠に全ての医療行為には、
きちんと値札が付いています。

それはある意味仕方のないことです。

しかし、問題なのはそれが医療者にとっての、
薬や検査を売るためのパッケージになりがちで、
患者さんにとっては、
非常に扱い辛い商品になっている、
という事実です。

パッケージ通りの治療をすれば、
ある程度の治療効果は期待出来るでしょう。
しかし、それが患者さんにとって、
実行し辛い内容であれば、
そもそもその商品な値札通りの意味を持たないのです。

治療効果をより高めるためには、
患者さんの利便性にもっと配慮が必要なのではないでしょうか?

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 10

rtfk

お早うございます。
いつも拝見しております。
今は病院にかかっていないのですが患者としての心構えと言うか
治療を受ける側の責任や義務もあるのではと感じております。
自分の病気を治したいと言う意思表現といいますか。

「患者様」という言葉を使っているCMを見ました。
実際に私がかかった病院でもその呼称を用いておられました。
個人的には「患者さん」で十分だと思いますが。

医師ではない者の戯言でした。すいません。
by rtfk (2010-12-08 09:10) 

midori

先生こんにちわ。奥様ご心配ですね。

11/25健康診断で
・胃全体に顆粒状変化
・胃前庭部に粘膜委縮
ということで「萎縮性胃炎の疑いあり」と出ました。
(経過観察だそうです。あと蛋白尿が出て、こちらは12/12再検査になりました)
ピロリ菌の検査とか、菌があれば除去したほうがよろしいんでしょうか?

年末のご挨拶ついでに、診ていただこうかな。
by midori (2010-12-08 13:52) 

つっちゃん

先生、こんばんは。

私の知人のお姉さんも、バセドウ病で専門病院に10年通いメルカゾールを2日に1錠づつで処方してもらっているそうです。
診察に電車で2時間かけ長い待ち時間の末、診察は5分ですよね。
お医者さんも、地元の病院を紹介してあげればいいのにと思ってしまいました。
患者としては、自分の病気は特別な病気と思っているので
専門病院が1番だと信じているはず。
患者の負担が減る方法も教えてあげればいいのに、そこまではしてくれないですよね。

ただ、自分の病気はお医者さんまかせにしないで、治療に自分の考えや希望をお医者さんに伝えて治療していく事が
患者として大事なことですよね。


by つっちゃん (2010-12-08 21:59) 

まみしゃん

同級生が2年前にバセドー病と診断されて、私の主治医とは別ですが専門医を紹介してと言われて通院していますが・・・今日の先生の記事と同じ処方をされています。

たしか2カ月くらい前からチラージンが増えたと言っていましたが・・・メルカゾールが1日起きだとかで、忘れることのほうが多いと言っていました。

不思議な飲み方をするんだなぁ~と思っていたのですが、とくあるケースなのですね^^;

奥さま、くれぐれもお大事になさってくださいませ。
by まみしゃん (2010-12-08 23:57) 

fujiki

rtfk さんへ
コメントありがとうございます。
確かにそうした面もあると思います。
患者さんと医療者の双方にとって、
もう少し治療のスケジュールを、
検証するべきなのではないかと思います。
by fujiki (2010-12-09 08:34) 

fujiki

midori さんへ
了解しました。
よろしければおいで下さい。
by fujiki (2010-12-09 08:34) 

fujiki

つっちゃんさんへ
コメントありがとうございます。
バセドウ病の薬物治療が10年以上掛かる、
などと言うことは、
何処の教科書にも書いていないのです。
けれど、実際にはそうした方が結構多く、
現実にはドロップアウトして、
患者さんの側から治療を中断し、
それで再発もないケースがあるのですから、
非常に疑問に感じます。
by fujiki (2010-12-09 08:44) 

fujiki

まみしゃんさんへ
コメントありがとうございます。
併用療法で最後に甲状腺ホルモン剤だけを残すのは、
理屈は納得のいかない部分もあるのですが、
実際にその方が再発が少ないという印象はあります。
by fujiki (2010-12-09 08:47) 

midori

整形外科の医者から、「栄養失調だ、肉を食え」と言われているのですが、
ガッツリした食事はなかなか気乗りがしなくて困ったなぁと思っていました。
やっぱり胃が良くなかったんですね。

近々伺わせていただきます。
年末年始のお休みは、お決まりでしょうか?
by midori (2010-12-09 09:07) 

fujiki

midori さんへ
12月29日から1月4日までが休診になる予定です。
by fujiki (2010-12-10 08:43) 

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