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シロスタゾール(プレタール)の脳卒中再発予防効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は脳卒中の再発予防の話です。

脳卒中は再発し易い病気です。
そのために一度脳卒中の発作を起こした場合には、
それが軽症のものであっても、
再発の危険性が高いと判断して、
再発予防の治療が行なわれるのが通例で、
実際にその予防効果が確認されています。

使用される薬は抗血小板剤です。

血小板は血を固める重要な働きを持っているのですが、
特に動脈硬化に伴う脳卒中では、
動脈硬化巣に生じる小さな血栓が、
その発作の引き金を引き、
その血栓は血小板の働きを弱めると、
作られ難くなることが分かっています。

従って、血小板の働きを抑える薬剤が、
脳卒中の発作予防に使われます。

その代表は皆さんご存知のアスピリンです。

アスピリンには脳卒中の再発予防に、
多くのデータがあります。

ただ、問題は副作用としての出血です。

胃潰瘍や皮膚を軽くぶつけた時の出血、
そして一番問題になるのは、
脳出血です。

日本人は欧米人と比べて、
脳出血の発症が多いことが知られています。

これは塩分の摂取量が多く血圧が高いことが、
以前の主な原因とされていますが、
アスピリン使用時の副作用としての脳出血の発症も、
欧米人より多いという印象があり、
体質的な血管の脆弱性も、
その要因の1つの可能性があります。

1つには日本人にはラクナ梗塞というタイプの脳梗塞が多く、
これは血管の壊死を伴っていて、
極めて出血を起こし易いことが知られています。

ある日本の統計によると、
脳梗塞の発作を起こした患者さんの、
再発の1割以上は脳出血です。
そして、この中には抗血小板剤の副作用としての出血が、
かなり含まれていると考えられます。

日本で開発された新しいメカニズムの抗血小板剤に、
シロスタゾール(商品名プレタール)という薬があります。
この薬はそのメカニズム上、
出血の副作用を起こし難いと考えられるのですが、
その一方で脈拍を上昇させ、
心臓に少し負担を掛ける、
という欠点があります。
患者さんによっては血圧も上がります。
また、血管を拡張させることによる頭痛も、
比較的多い副作用です。
アスピリンには基本的にこうした血管拡張作用はありません。

日本人の脳卒中の再発予防には、
アスピリンとシロスタゾールのどちらが適しているのか、
というのは、
こうした薬を使用する医療者が、
いつも悩むところです。
海外のガイドラインは概ねラクナ梗塞を無視していて、
他の動脈硬化性の梗塞とひとまとめにしているのですが、
同じ理屈で日本人に抗血小板剤を使用すると、
出血などの合併症がより多くなる可能性があるのです。

その疑問に対して、
今年日本人を対象とした、
比較的大規模な臨床試験の結果が発表され、
9月には論文が英国の医学誌「The Lancet Neurology 」
に掲載されました。

これは心臓から血栓が飛ぶタイプの脳卒中を除いた、
脳梗塞を起こした患者さんを対象として、
その再発予防の目的で、
アスピリンとシロスタゾールを使用し、
それぞれの群の再発予防効果と、
副作用の発現の違いを検証したものです。

全体で2700人余の患者さんを、
1300人余の2群に分け、
無作為にアスピリン群とシロスタゾール群に、
割り付けて1~5年間観察したのですから、
日本国内だけの研究としては、
かなり大規模なものです。

勿論高血圧の患者さんは血圧の薬を別個に飲んでいます。
心不全の患者さんは対象外になっています。

その結果は、
患者さん1人が1年間に発作を起こす確率から換算して、
アスピリン群で3.71%、
シロスタゾール群で2.76%の患者さんが、
観察期間中に再発作を起こしています。
(同時スタートではなく、
患者さんの観察期間も違うので、
その統計処理は結構ややこしいのです)
つまり、シロスタゾールの方が、
やや再発が少なかったのです。
シロスタゾールは少なくともアスピリンと同等か、
それにやや勝る脳卒中の再発予防効果がある、
ということが分かります。
これは2つの薬剤の直接比較のみの試験なので、
抗血小板剤を一切使用しなかったら、
どのくらいの再発作が起こるのかは分かりません。
ただ、多くの研究でアスピリンに関しての再発予防効果は確認されていて、
概ね20%から30%の再発予防効果があるとされています。

次に脳出血の合併症の頻度を見ると、
観察全期間中で、
アプピリン群で57例あったのに対して、
シロスタゾール群では23例に留まっていて、
これは明らかにアスピリン群の方が多く見られました。
つまり、日本人への使用においては、
脳出血の合併症は、
アスピリンよりシロスタゾールの方が確実に少なく、
シロスタゾールの方がその点では安全性の高いことが、
ほぼ明らかになったのです。

一方でシロスタゾールでは脈拍の異常な上昇は、
全体の7%に認められ、
血圧も9%で上昇しています。
ただ、観察の期間においては、
そのために狭心症や心不全、
心筋梗塞を発症した方はいませんでした。

今回の結果をどう考えるべきでしょうか?

心疾患のない患者さんで、
高血圧が治療により安定している場合には、
アスピリンよりシロスタゾールの方が、
心臓由来以外の脳卒中の再発予防には、
安全性の高い治療である、
という可能性が高くなった、
とは言えると思います。

ただ、日本人だけのデータである、
と言う点は、
より日本人に適応し易い、
というメリットがある反面、
こうした臨床試験の厳密な実施には、
日本の医療者は概ね不得手なところがあるので、
278箇所という多施設の研究であることも考えると、
そのデータの精度を僕は鵜呑みには出来ない、
とも思えます。
(これは以前臨床試験をしていた、
僕の個人的な見解であることを、
ご承知下さい)

シロスタゾールでも少ないながら、
出血の合併症は起こっているのですから、
抗血小板療法と言うもの自体が、
100%安全な性質のものではない訳です。

より重要なことは血圧の安定で、
血圧が不安定であるのに抗血小板剤を使用することは、
血管の脆弱性が疑われる日本人においては、
海外のガイドライン以上に、
慎重に適応を考える必要があるのではないかと思います。

今日は最近の脳卒中再発予防の知見を、
ご紹介しました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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シロスタゾール

学位論文においても疑惑画像が使用されていることが判明しました(Dokkyo journal of medical sciences 35(1), T1-T8, 2008)。当学位論文のFigure 1 の画像は、論文#3,#4,#5,#9で流用されています。また、Figure 1 では、シロスタゾール(分子量:369.46)という薬物を100μmol/Lという非常に高濃度で使用しています。しかしながら、シロスタゾールを単回服用した健常成人男子におけるシロスタゾール未変化体の血中薬物濃度は添付文書にも記載されているように最高血中濃度でさえ、わずか、763.9 ng/mL (= 約 2μM)です。つまり、当学位論文では、実際の50倍もの薬物濃度で実験していることになり、医学的・薬理学的に何の意味もありません。
これらのことから、一部の医者や製薬会社の間で喧伝されている「シロスタゾールが内皮機能を改善する」という学説が全くの嘘である可能性が出てきました。

実際に、シロスタゾールの内皮機能改善作用に関して報告した韓国人学者の論文においても捏造(画像流用)を発見しました(Figure3の最下段のα-Actinの画像が左右"AとB"で同一です)。

また、シロスタゾールを販売している大塚製薬の論文や、東京大学医学部附属病院老年病科の論文でも、30μMから100μMという薬理学的に意味の無い高濃度のシロスタゾールで実験し、「内皮細胞の機能を改善した」と結論づけており、同様の問題を指摘できます。

また、血管内皮細胞に発現し主要な働きをしているphosphodiesteraseのサブタイプは、PDEIV です。
一方、シロスタゾールは、PDEIII の選択的阻害剤です。このことからも、シロスタゾールの血管内皮機能改善作用については疑問がもたれます。

どのような物質でも高濃度で細胞・生体に与えれば機能が変化するのは当然であり、そのような無意味な実験で論文を出し業績を作り上げるという研究態度は正さなければなりません。税金の無駄であり、科学に何の進歩ももたらしません。
by シロスタゾール (2011-02-04 13:00) 

fujiki

シロスタゾールさんへ
非常に興味深い情報を、
ありがとうございます。
by fujiki (2011-02-04 20:21) 

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