SSブログ

膠原線維性大腸炎の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は膠原線維性大腸炎という、
ちょっと耳慣れない病気の話です。

まず、1つの事例をご紹介します。
患者さんはBさん。60代の女性です。

胸焼けがするとの症状で、
近くの病院を受診し、胃カメラの検査を受けたところ、
胃酸が食道に逆流して食道の炎症を起こす、
胃食道逆流症が見付かります。
それですぐに、
タケプロンという薬を処方されました。
これは1日1回でも、強力に胃酸を抑える、
というタイプの胃薬です。

薬を飲むようになって数日で、
Bさんの胸焼けの症状は目に見えて改善しました。
主治医は処方を継続するように勧め、
Bさんも納得して治療を続けました。

Bさんの体調が悪くなったのは、
それから2ヶ月ほどしてからのことです。

急な腹痛と共に、水のような下痢が起こります。
最初はお腹の風邪か食あたりと思い、
食事を控えて様子を見ましたが、
あまり改善の傾向はありません。

数日後に主治医を受診して話をしましたが、
矢張りお腹の風邪ではないか、という見立てです。
それで5日分の下痢止めと整腸剤が処方されました。

Bさんはそれを飲んで様子を見ましたが、
一向に下痢は治まる気配がありません。
また病院へ行くと、また5日分の薬が出ましたが、
それでも症状は治まりません。

それでもう一度病院へ行くと、
主治医もいよいよおかしいと思ったのか、
血液とレントゲンとエコーの検査が予定されました。
検査結果は特に異常はありませんでした。
血液の炎症反応も正常ですし、
胆嚢や膵臓に異常もありません。
それではと、便の細菌の検査もしましたが、
特に異常はなく、
便に微量の出血の徴候もありません。

それでもBさんの下痢は続き、
体重もじわじわと減ってゆきます。
それを主治医に告げると、
今度は大腸の内視鏡検査が予定されました。
大腸のカメラですね。
しかし、大腸のカメラをしても、
特に異常は認められません。

すると主治医は、
「何かストレスはありませんか?」
とBさんに訊きます。
要するにストレスが原因となって、
自律神経が過敏になり、
下痢になっているのではないか、と考えたのです。
しかし、Bさんには特に心当たりはありません。
「ない」と答えると、主治医は、
「いやでも、知らずにストレスが溜まることはありますからね」
と何となくBさんを疑うような気配です。
納得のいかなくなったBさんは、
他の病院を受診し、
4箇所の病院を廻った上で、
ようやく診断が確定しました。

その診断が「膠原線維性大腸炎」です。

「膠原線維性大腸炎」とは、
一体どのような病気でしょうか?

「膠原線維性大腸炎(collagenous colitis )」とは、
はっきりとした大腸の炎症であるにも関わらず、
大腸カメラでも肉眼的には異常が見付からず、
組織を取って調べて初めて診断が付く、
というちょっと特殊な腸炎のことです。

この病気は中年以降の女性に多く、
従来は日本には非常に少ないとされて来ました。

おそらくは一種の自己免疫疾患では、
と考えられていますが、
その詳細は不明です。

大腸の粘膜の表面ではなく、
そのちょっと下の部分に、
膠原線維が増殖し、炎症が起こっているのがその特徴で、
要するにその線維が水分の吸収を邪魔するので、
慢性の下痢になるのです。

ただ、この病気のもう1つの特徴は、
特定の薬剤と明らかな関係が見られることです。
その1つはロキソニンのような痛み止めで、
もう1つはプロトンポンプ阻害剤の1つ、
ランソプラゾール(商品名タケプロンなど)です。

上のBさんは胃食道逆流症に対して、
タケプロンが処方され、
それが原因となって、
この特殊な腸炎を起こしたのです。

薬剤性の膠原線維性大腸炎は、
その薬剤を中止すると、
1週間から1ヶ月以内には改善します。
原因の薬剤の使用後、
数ヶ月たって発症することが多いのです。

薬剤性で無い場合には、
現時点で確実な治療はなく、
炎症性の腸炎に準じて、
ステロイドが使用されることが多く、
著効例も報告されています。

この病気はまだ知識のない医者も多く、
診断が付かないで、
「過敏性腸症候群」と安易に診断されるケースが多いので、
注意が必要です。

特にロキソニンなどの痛み止めや、
タケプロンなどの胃薬を、
数ヶ月使用してからの急な下痢の持続は、
この病気の可能性をまず疑う必要があるのです。
その場合にするべきことは、
まず薬を変更するか止めることであって、
下痢止めや整腸剤を飲むことではありません。

皆さんもご注意下さい。

今日は誤診され易い特殊な腸炎の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(12)  コメント(1)  トラックバック(0) 

nice! 12

コメント 1

シロ

お返事ありがとうございました
わかりました。
気にせず体調に合わせて飲みたいと思います

新型ワクチンは季節性ワクチンより優しい感じがします
患部がちょっと赤くなるぐらいで、今の所微熱やだるさは全くないです
by シロ (2010-01-26 09:23) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0