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強制水泳試験とネズミの王国の話 [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

ある薬を開発し、発売するには、
多くの段取りと巨額の費用が必要です。

薬の効果を試験管レベルで確認すれば、
次に行なうのは動物でその効果を検証する、
「動物実験」ということになります。

この間、新規の抗うつ剤のレクチャーを受けましたが、
そこで説明されたのが、
ネズミを利用した抗うつ剤の効果の実験でした。
その画期的な抗うつ剤を使用することにより、
ネズミの「抑うつ様行動」が改善した、
と言うのです。

ぼんやりと聞いていればそれまでの話ですが、
僕はちょっと不思議に思いました。

そもそもネズミにうつ病があるのでしょうか?

仮に存在するとしても、
それを立証することは非常に難しそうです。
「気分の落ち込みはありませんか?」
とネズミさんに訊いたところで、
指でも噛まれて痛い思いをするのが関の山です。

ここで文献を読み直してみると、
「うつ病」の改善効果ではなく、
「抑うつ様行動」の改善効果と書いてあることに気付きます。

「抑うつ様行動」とは何でしょうか?

内面の症状は行動に現われる、という考え方があります。

それがたとえ動物であっても、
強いストレスが掛かる状態が続けば、
その行動には一定の変化が現われます。
その行動の変化が、人間のうつ病のものと、
ある程度の類似性があれば、
それをうつ病の症状と同一と見做し、
「抑うつ様行動」と名付けよう、という訳です。

では、この理論の下に、
実際にどんな実験が行なわれるのでしょうか?

その代表的な1つが「強制水泳試験」です。

「強制水泳試験」とは何でしょうか?

これは1977年に開発され、
現在最も広く使われている、
「抑うつ様行動」の評価法です。

ネズミを逃げ場のない水槽の中に放り込みます。
水槽には勿論ネズミの溺れるのに充分な量の水が溜められています。

ネズミは必死で犬掻きに似た泳ぎ方をし、
泳ぎながら逃げ場所を探し、
足掻き続けます。
しかし、逃げ場所は何処にもありません。
そのままネズミを観察していると、
しばらくしてネズミはあまり動かなくなり、
顔を僅かに水の上に出して、
そのまま何もせず浮いているようになります。

一旦そのネズミを水の外に出し、
24時間以上経ってから、
もう一度同じ水槽に投げ込みます。

すると、ネズミは最初の時よりも、
早く動かなくなります。
要するに足掻いている時間が短くなるのです。

この現象を観察した研究者は、
水槽で逃げ場のない、というストレスを与えられたネズミが、
無力感に陥り、そのために動かなくなったのだ、
と考えます。
そして、一定時間の観察で、
動かない状態の時間が長いほど、
ネズミはうつ状態にある、と判断するのです。

ここで抗うつ剤をネズミに飲ませると、
ネズミはより長い時間水槽の中で足掻き、
容易にあきらめることをしません。
要するにストレスに対する無力感が、
抗うつ剤により短縮されたと考える訳です。

これが、多くの抗うつ剤が、
動物実験で抗うつ作用を示した、
と表現されている結果の中味です。

皆さんはこれをどうお考えになりますか?

一言で言えば、残酷極まりない実験ですね。

確かに動物実験というものが、
必要なことは分かります。
しかしそれは人間では検証困難で、
絶対に必要な研究であり、
動物の犠牲は最小限のものであるべきです。

僕も以前は糖尿病の研究で、
かなりの数のネズミを殺しました。
ネズミの膵臓の細胞を利用するためです。
ただ、それは人間では検証不可能な実験でしたし、
麻酔をして眠らせた上で手術に及ぶ、
苦痛は最小限に考えたものでした。

でも勿論ネズミの視点から見れば、
そんなことは何の違いもないのかも知れません。

ネズミの王国で裁判に掛けられれば、
僕も大量殺鼠罪で重く裁かれることでしょう。

しかし、それにしても、この強制水泳試験は酷過ぎます。

まず、ネズミでわざわざやる意味が希薄です。
やっていることはストレスを掛けた状態で、
抗うつ剤の効果を見ているだけです。
毒性の試験ではない訳です。
それならば、最初から人間で実験すればいい筈です。
人間をいじめるのは良くないから、
ネズミをいじめて実験するというのは、
何か歪んだ論理です。

それから推論の立て方も、はなはだ強引です。
ネズミにうつ病があるという想定自体が強引なのに、
溺れたネズミが動かなくなったから、
それは精神的無力感の現われなのだ、
というのはあまりに人間の身勝手な理屈ではないでしょうか。

要するに、何故こんな実験が成立したかと言うと、
色々にネズミをいじめて実験をして、
抗うつ剤を飲ませてみると、
一番この実験が抗うつ剤で変化が現われたのです。
たまたま都合の良いデータが取れたので、
後から理由をくっつけて、
ネズミのうつ病をでっち上げたのです。
僕にはどうも、そう思えてなりません。

動物実験というものが、
基本的には必要性があるというのは分かりますが、
ネズミに迷路を潜らせるようなものならともかく、
無理矢理うつ病のネズミを創造し、
残酷な責め苦を与えるような実験は、
あまり行なう正当性に乏しいと思うのですが、
皆さんはどうお考えになりますか?

今日はネズミのうつ病の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 3

ヒト

残酷ですかね?
ネズミは泳ぎは得意ですし、「無力感に陥り、そのために動かなくなったのだ」のではなく、単に「無駄な努力をあきらめてのほほんと浮いているだけ」いうのが実態ですが。抗打つ鬱薬もこの行動に効くものと効かないものがあるから、この行動は鬱状態ではないとされています。
by ヒト (2011-08-30 16:44) 

fujiki

ヒトさんへ
貴重なご意見ありがとうございます。
「残酷ですかね?」
というご質問があるとは、
正直想定していませんでしたので、
非常に驚きましたし、
勉強になりました。
by fujiki (2011-08-30 20:13) 

s k

ネズミを溺れさせるうつ病の薬の実験の事は何となく聞いた事はありましたが、とても分かりやすく説明していただきありがとうございます。
おっしゃる通り、動物実験は出来るだけ無駄な実験をやめ、麻酔をするなど苦痛は最小限にするべきです。
そもそも、動物を食料以外の目的で殺す事は反対です。(人間も食物連鎖の中にいるので、食べるために殺す事は仕方無いと思います。出来るだけ必要以上は殺さず、動物の苦痛や恐怖は最小限にというのはもちろんですが)
人間のためになら動物が犠牲になるのは仕方無いというのはおごった考えだと思います。
この記事はだいぶ前に書かれたようですが、Twitterで取り上げさせていただきました。
by s k (2019-09-27 17:13) 

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