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男性ホルモンを抑える薬の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今年の9月に、
前立腺肥大症の新薬が発売になる予定です。
今日はその薬の話をします。

新薬の名前はデュタステリド(dutasteride )。
商品名は「アボルブ」です。

この薬は男性ホルモンの作用を、
部分的にブロックする薬です。

乳癌が女性ホルモンの作用で増殖するように、
前立腺癌は男性ホルモンの作用で増殖します。
そのために、男性ホルモンを抑える薬が治療に使われます。
これを総称して「抗アンドロゲン剤」と呼んでいます。

「抗アンドロゲン剤」には確実な効果がありますが、
男性ホルモンを全く出ないようにしてしまう訳ですから、
女性の更年期障害と同じような、
不快な副作用が存在します。
元気がなくなり、発汗があったり、
筋肉の力が落ちたりします。
この副作用には個人差があり、
あまり気にならない方もいれば、
非常に苦痛に感じる方もいます。

それで、このような男性ホルモンの出なくなる副作用が存在せず、
前立腺を縮小し、
癌の増殖を抑える薬の開発が期待されたのです。

それが「5α還元酵素阻害剤」です。

男性ホルモンの代表と言えば、
精巣から分泌されるテストステロンです。

このテストステロンは、
細胞の中にある「5α還元酵素」という酵素により、
より活性のあるDHTに変換されます。
このDHTが、受容体と結合し、
前立腺の細胞を増殖させるのです。

この「5α還元酵素」には1型と2型の2種類があります。
このうち1型は癌に多く、
2型は通常の前立腺と前立腺肥大症に多いとされています。
このうち、まず2型だけを阻害する薬が開発されます。
これがフィナステリド(finasteride )という薬です。

実はこの薬はもう既に日本で発売されています。
商品名は「プロペシア」。
そう。これは男性の脱毛の薬ですね。
毛根の細胞にも「5α還元酵素」があり、
それが男性の脱毛の原因になっているのでは、
という考えで、その目的に使われているのです。
しかし、当然前立腺肥大症にも効果が期待出来ます。

幾つかの臨床試験が行なわれ、
この薬が前立腺を小さくする作用があり、
その効果はそれ以前の「抗アンドロゲン剤」に比較すると、
やや弱いけれど、男性ホルモン低下による、
特有の副作用は格段に少ないことが確認されました。

そこで次に考えられたのが、
この薬を使うことで、前立腺癌の予防になるのではないか、
という考え方です。

そして、1993年から2003年に掛けて、
このフィナステリドに前立腺癌の予防効果があるかどうかの、
大規模な臨床試験が行なわれました。
勿論海外での話です。
通常脱毛でのこの薬の使用量は1日2mg ですが、
前立腺癌の予防目的では、
1日5mg という高用量が使用されました。

その結果、前立腺癌は飲まなかった人に比べて、
確かに少なかったのですが、
より悪性度の高い癌が、
飲んだ人に多かった、という予期せぬ結果が示されました。

この結果の解釈は様々で、
確証のある説明のある訳ではありませんが、
細胞の増殖を抑える薬は、
結局細胞の分化を抑える作用もあり、
全体としては癌は減るけれども、
却って癌細胞の分化も抑えられるので、
出来た癌はより悪性度の高い、
低分化のものになるという考え方に、
僕は説得力を感じました。
癌の予防というのは、決して一筋縄ではいかないのだな、
ということを今更ながらに考えさせられますね。

結局このことがネックになって、
「フィナステリド」は脱毛の薬としてのみ、
日本では使われることになったのです。

さて、今回日本で発売間近の「デュタステリド」は、
1型と2型の両方の「5α還元酵素」を抑える薬です。
より強力な効果が期待出来る理屈です。
問題の癌予防については、「フィナステリド」と同様の試験が、
現在進行中で、その結果によっては、
癌予防の目的での使用が始まるかも知れません。

この薬はその成り立ちから明らかなように、
前立腺の薬ですが、脱毛の改善効果もあるのです。
その作用はむしろプロペシアより強力かも知れません。
ただ、男性機能に関しては、
ある程度の抑制効果は当然考えられ、
その点が使う人によっては問題になるかも知れません。

前立腺癌に関しては、
幾つかの問題点があります。
まず、先刻も触れましたように、
癌そのものの発生は抑えても、
却って癌の悪性度は高める危険性は否定されていません。
また、この薬は(プロペシアも含めて)、
前立腺癌のマーカーである、
PSA という数値を低下させます。
従って、現在最も前立腺癌のスクリーニングとして多用されている、
PSA の測定が役に立たなくなる可能性があるのです。

以上のリスクをよく考慮した上で、
この薬は使用される必要があると思います。

今日はアンドロゲンの働きを低下させる新薬の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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プロペシア

フィナが日本で前立腺肥大の適応を取れなかったのは、前立腺がんの問題ではなく、臨床試験で対象薬と差が出なかったためと聞いたことがあるのですが・・・。
by プロペシア (2009-09-05 18:08) 

fujiki

プロペシアさんへ
コメントありがとうございます。
参考にした文献のニュアンスは記事にある通りですが、
実際に前立腺肥大の治験が行なわれたのかどうかは、
即答出来る資料が手元にありません。
今度製薬会社の学術の方に聞いてみますので、
少しお答えはお待ち下さい。
by fujiki (2009-09-06 21:44) 

fujiki

プロペシアさんへ
ご返事が遅れまして申し訳ありません。
製薬会社の方にお聞きしたのですが、
詳細は社内でも伏せられているそうです。
どうも、安全面の問題と、効果が不充分であった問題と、
その双方があったというのが真相のようです。
データは公開されていません。
by fujiki (2009-10-20 08:38) 

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