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続・ステロイドで骨が減るのは何故か? [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は昨日に続いて、
ステロイドが骨に与える影響についての話です。

ステロイドをある程度の量以上使っていると、
骨が脆くなります。
より具体的には、
骨の中のカルシウムが減少する訳です。
これは別の言い方をすれば、
ステロイドが身体のカルシウム代謝に、
影響を与えている、
ということになります。

では、どんな影響を与えているのでしょうか。

僕が以前に調べたデータを、
今日はご紹介します。

ステロイドが骨に与える影響を、
僕は短期効果と長期効果に、
分けて考えることにしました。
ある程度長期間ステロイドを使わないと、
骨の量は減少しません。
しかし、カルシウム代謝に対する影響は、
短期間でも現われる筈です。
その短期間の効果が積み重なることによって、
骨は結果的に減少するのではないか、
と考えたのです。

短期効果のサンプルとして、
バセドウ病の眼突の治療をした、
患者さんを対象としたデータを取りました。
バセドウ病は甲状腺の病気ですが、
甲状腺の働きは正常になっても、
目が前方に飛び出し、
見え難くなるような症状の出ることがあります。
これに対して、
ステロイドの治療が効果のあることがあります。
当時試みられていた治療は、
プレドニゾロンの60mgを2週間使用し、
その後減量する、
というものです。

そこで、患者さんにご説明して了解を得た上で、
60mgを使用した2週間の前後で、
カルシウム代謝に関わる検査のデータが、
どのように変化するのかを、
検証してみました。

以下その結果をお示しします。
次をご覧下さい。

これは2週間のステロイド治療の前後で、
おしっこに出るカルシウムが、
どのように変化するのかを見たものです。

左が治療前で、右が治療後です。
1日のおしっこを溜めてもらい、
それだけの量のカルシウムがおしっこに排泄されるかを、
計算しました。
患者さんの数は8名でちょっと少ないのですが、
ご覧頂くと明らかなように、
ステロイドを使うと、
おしっこのカルシウムは増えるのです。

これは以前から知られている事実ですが、
その意味付けは簡単ではありません。
ステロイドには直接的に、
おしっこのカルシウムを増やす作用があります。
しかし、骨からカルシウムが溶け出す可能性も、
ないとは言い切れないのです。

では次をご覧下さい。

これは血液のイオン化カルシウムを、
同じようにステロイド治療の前後で、
計測したものです。
普通皆さんが血液の検査で測るカルシウムは、
カルシウムイオンと蛋白にくっついたカルシウムの合計です。
でも、本当に重要なのは、
イオンとなっているカルシウムだけなのです。
従って、カルシウム代謝で他のホルモンとの関係を見る場合、
イオンのカルシウムでないと、
意味のない場合が多いのです。

ご覧頂くと分かるように、
カルシウムイオンも、
ステロイドの治療により、
明らかに減少しています。

もし、おしっこのカルシウムが、
骨から溶け出したものだとすれば、
血液のカルシウムはむしろ上昇する筈です。
それが下がっているということは、
矢張り最初に起こったことは、
おしっこのカルシウムが増えたということなのです。

ステロイドが身体に及ぼす最初の変化は、
腎臓に作用して、
カルシウムの排泄を増やすことだ、
ということが、
このデータから推測されます。

ちょっと複雑ですが、
よろしいでしょうか。

では先に進みます。

おしっこにカルシウムが出て、
血液のカルシウムが減ると、
次に起こることは何でしょう。

そう、身体は血液のカルシウムを増やそうとして、
あるホルモンが分泌されるのです。
それが、首の甲状腺の裏側にある、
副甲状腺から出る、
副甲状腺ホルモンです。
略してPTHと呼びますね。
では次をご覧下さい。

矢張り治療の前後で、
副甲状腺ホルモンを測ってみました。
これはちょっと微妙で、
下がっている方もいるのですが、
概ね上昇していることが分かります。
つまり、血液のカルシウムに反応して、
副甲状腺ホルモンは、
正常に刺激されているのだな、
ということが分かるのです。

副甲状腺ホルモンが上がると、
今度は何が起こるでしょうか。

そう、今度はビタミンDが活性化され、
活性型のビタミンDが増える筈です。

では次をどうぞ。

これは同じように、
今度はビタミンDの変化を見てみました。
ね、予想通りに上がっているのです。

では、ビタミンDが上がると何が起こるでしょうか。

そう、カルシウムの吸収が上がる筈です。
では最後の画像です。

これはある特殊な方法で、
矢張り治療の前後のカルシウムの吸収を見たものです。
これは残念ながら、
有意差がありません。

通常の報告では、
メカニズムは不明ながら、
ステロイドはカルシウムの吸収を減少させる、
と言われているのです。
ただ、僕の調べた結果からは、
その点についてははっきりした傾向は、
認められませんでした。

さて、以上の結果を整理するとこうなります。

ステロイドが過剰になると、
短期間のうちに、
おしっこのカルシウムが増え、
カルシウムの吸収自体は増えないため、
血液のカルシウムイオンは減少します。
すると、その刺激で副甲状腺ホルモンが増え、
更にその刺激がビタミンDを増やし、
カルシウムの吸収を増やそうとするのですが、
どうも思うようには増やすことが出来ず、
結果として、身体のカルシウムのバランスは、
マイナスに傾きます。
この状態が長く続けば、
当然身体は骨を溶かして、
カルシウムを補おうとします。

つまり、カルシウム代謝を見るだけでも、
ある程度ステロイドによる骨の減少を、
説明することは可能なのです。
それからもう1つ、
ステロイドで治療をされている患者さんの、
骨が減るリスクを推測するには、
おしっこのカルシウムを測ることが、
一番合理的だ、
ということも分かります。

長くなりましたので、
この続きは明日にします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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