「かがみの孤城」(辻村深月原作 原恵一監督) [映画]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
辻村深月さんの2018年のベストセラーで本屋大賞受賞作が、
原恵一監督の手でアニメ映画になりました。
原作は中学生のいじめと不登校の問題を、
古城での宝探しというゴシックミステリーの世界と結びつけ、
精緻な構成のSFミステリーとして成立させた傑作で、
感動を呼ぶ青春小説としても、ジュブナイルとしても、
ミステリーとしても読むことが出来る稀有な作品です。
リーダビリティは抜群で、
この人は宮部みゆきさんの後継者という感じですね。
正直設定にはやぼったい感じや、
それじゃベタ過ぎるだろう、というような感じがあるのですが、
リーダビリティでそうした不満を、
あまり感じることなく読めてしまうのがさすがです。
宮部さんはミステリーの構成には難があるのですが、
辻村さんはその点では宮部さんの上を行っていて、
この作品でもクライマックスの怒涛の伏線回収の部分は、
長編ミステリーの解決編の快感があります。
映画版は大労作という感じです。
原作は単行本に挿絵が付いているでしょ。
それも内容と同じく、
ちょっと平凡でやぼったい感じなんですね。
昔のジュブナイルの単行本の感じを出しているのだと思うのですが、
ちょっとこれじゃなあ、という感じはするんですね。
でも、多分そのイメージを変えることは、
作者的にNGなんですね。
でも、古城のイメージも月並みだし、
赤いドレスの少女が狼のお面を付けていて、
「おおかみさま」というのも、
そのセンス、どうなのかしら?
鏡が光って、異世界に行くというのも、
もう少し捻った方が良かったのじゃないかしら?
そんな感じで設定やビジュアルはかなり疑問が多いのですね。
「この通りのイメージでアニメ映画と作れ!」
と言われたら、ちょっと頭を抱えてしまうと思うんですね。
でもそこがさすが原恵一監督、
というところだと思うのですが、
原作を尊重しつつ、丁寧にリライトして、
精緻なパズルを組み立てるように、
2時間弱のアニメ映画を成立させています。
特に後半の畳み掛けの見事さは、
原監督ならでは、という感じがします。
その意味で本当に労作であると思いますし、
原作に忠実な映画化としては、
満点に近い出来栄えだと思います。
ただ…
それは結局原作のアラも忠実に再現している、
ということでもあるのですね。
不登校の少女の日常を丁寧に描いていて、
急に部屋の姿見が虹色に輝くでしょ。
そこに吸い込まれると、
「絵に描いた」ような古城があって、
狼の仮面を付けた赤いドレスの少女が立っている、
という塩梅ですよね。
それ、どうだろう。
もうちょっと自然に異世界に引き込むような、
段取りがないと、
普通はまずいのじゃないかしら?
でも辻村さんはそれが平気なんですね。
これ、ある種の情念のようなものが、
異世界を構築したというイメージですよね。
ただ、それにしては、
その情念が弱いという感じがしますよね。
こういう話は、
「ここまで凄味のある情念があれば、
そりゃ城の1つくらい現れるよね」
という感じが本来は欲しいのですが、
その点はかなり弱いんですね。
でも、それは原作がそういうものなので、
仕方のないことなのです。
巨大な狼が出て来るけれど、
工夫のないビジュアルで詰まらないんですね。
幻想世界を崩壊させる破壊神のようなものなので、
もっと意外性のある壮絶なビジュアルが、
必要であるように普通は思いますよね。
原監督はその直前の回想シーンで、
もっと深刻な「怪物」を描いていて、
おそらくはそれが破壊神として機能しているのだと思うのですが、
本来もっと自由度を持って、
踏み込んで描写しても良いようなところ、
そう出来なかったのは、
原作尊重の縛りが、
この作品の場合は大きかったのかな、
というような気がしました。
原作のいじめの描き方はリアルで切実なもので、
僕が最も感心したのは、
物分かりの良い若い教師が、
いじめっ子の側も反省しているので、
仲直りをしてもらえないか、と言いに来るところですね。
通常の物語だと、
いじめっ子の側を徹底した悪として描くか、
双方の和解をえがくか、
どちらかに着地するのですが、
この作品ではそうしたことをしていないんですね。
いじめられて心に傷を受けたと感じた時点で、
その人にとっての相手は、
もう人間としては捉えられていないのです。
だから、双方を物理的に引き離さないといけないのですね。
相手を人間と思えていないのに接触することが、
互いにとって一番危険なことなのです。
その辺りをリアルに捉えた作品は、
これまでにあまりなかったと思います。
映画の最後におまけがつくのですが、
これはとても良かったですね。
最後の最後の不意打ちのようなメッセージには、
昔の自分を思い出して、
胸を突かれるような思いがありました。
これは是非原作を読んでから、
原作の気に入った方に観て欲しい映画です。
その一方で原作のアラは、
映画版の方がより強調されて感じられるので、
原作を読まずに映画を観られた方は、
物足りなさや違和感を感じるかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は土曜日で午前中は石田医師が、
午後2時以降は石原が外来を担当する予定です。
土曜日は趣味の話題です。
今日はこちら。
辻村深月さんの2018年のベストセラーで本屋大賞受賞作が、
原恵一監督の手でアニメ映画になりました。
原作は中学生のいじめと不登校の問題を、
古城での宝探しというゴシックミステリーの世界と結びつけ、
精緻な構成のSFミステリーとして成立させた傑作で、
感動を呼ぶ青春小説としても、ジュブナイルとしても、
ミステリーとしても読むことが出来る稀有な作品です。
リーダビリティは抜群で、
この人は宮部みゆきさんの後継者という感じですね。
正直設定にはやぼったい感じや、
それじゃベタ過ぎるだろう、というような感じがあるのですが、
リーダビリティでそうした不満を、
あまり感じることなく読めてしまうのがさすがです。
宮部さんはミステリーの構成には難があるのですが、
辻村さんはその点では宮部さんの上を行っていて、
この作品でもクライマックスの怒涛の伏線回収の部分は、
長編ミステリーの解決編の快感があります。
映画版は大労作という感じです。
原作は単行本に挿絵が付いているでしょ。
それも内容と同じく、
ちょっと平凡でやぼったい感じなんですね。
昔のジュブナイルの単行本の感じを出しているのだと思うのですが、
ちょっとこれじゃなあ、という感じはするんですね。
でも、多分そのイメージを変えることは、
作者的にNGなんですね。
でも、古城のイメージも月並みだし、
赤いドレスの少女が狼のお面を付けていて、
「おおかみさま」というのも、
そのセンス、どうなのかしら?
鏡が光って、異世界に行くというのも、
もう少し捻った方が良かったのじゃないかしら?
そんな感じで設定やビジュアルはかなり疑問が多いのですね。
「この通りのイメージでアニメ映画と作れ!」
と言われたら、ちょっと頭を抱えてしまうと思うんですね。
でもそこがさすが原恵一監督、
というところだと思うのですが、
原作を尊重しつつ、丁寧にリライトして、
精緻なパズルを組み立てるように、
2時間弱のアニメ映画を成立させています。
特に後半の畳み掛けの見事さは、
原監督ならでは、という感じがします。
その意味で本当に労作であると思いますし、
原作に忠実な映画化としては、
満点に近い出来栄えだと思います。
ただ…
それは結局原作のアラも忠実に再現している、
ということでもあるのですね。
不登校の少女の日常を丁寧に描いていて、
急に部屋の姿見が虹色に輝くでしょ。
そこに吸い込まれると、
「絵に描いた」ような古城があって、
狼の仮面を付けた赤いドレスの少女が立っている、
という塩梅ですよね。
それ、どうだろう。
もうちょっと自然に異世界に引き込むような、
段取りがないと、
普通はまずいのじゃないかしら?
でも辻村さんはそれが平気なんですね。
これ、ある種の情念のようなものが、
異世界を構築したというイメージですよね。
ただ、それにしては、
その情念が弱いという感じがしますよね。
こういう話は、
「ここまで凄味のある情念があれば、
そりゃ城の1つくらい現れるよね」
という感じが本来は欲しいのですが、
その点はかなり弱いんですね。
でも、それは原作がそういうものなので、
仕方のないことなのです。
巨大な狼が出て来るけれど、
工夫のないビジュアルで詰まらないんですね。
幻想世界を崩壊させる破壊神のようなものなので、
もっと意外性のある壮絶なビジュアルが、
必要であるように普通は思いますよね。
原監督はその直前の回想シーンで、
もっと深刻な「怪物」を描いていて、
おそらくはそれが破壊神として機能しているのだと思うのですが、
本来もっと自由度を持って、
踏み込んで描写しても良いようなところ、
そう出来なかったのは、
原作尊重の縛りが、
この作品の場合は大きかったのかな、
というような気がしました。
原作のいじめの描き方はリアルで切実なもので、
僕が最も感心したのは、
物分かりの良い若い教師が、
いじめっ子の側も反省しているので、
仲直りをしてもらえないか、と言いに来るところですね。
通常の物語だと、
いじめっ子の側を徹底した悪として描くか、
双方の和解をえがくか、
どちらかに着地するのですが、
この作品ではそうしたことをしていないんですね。
いじめられて心に傷を受けたと感じた時点で、
その人にとっての相手は、
もう人間としては捉えられていないのです。
だから、双方を物理的に引き離さないといけないのですね。
相手を人間と思えていないのに接触することが、
互いにとって一番危険なことなのです。
その辺りをリアルに捉えた作品は、
これまでにあまりなかったと思います。
映画の最後におまけがつくのですが、
これはとても良かったですね。
最後の最後の不意打ちのようなメッセージには、
昔の自分を思い出して、
胸を突かれるような思いがありました。
これは是非原作を読んでから、
原作の気に入った方に観て欲しい映画です。
その一方で原作のアラは、
映画版の方がより強調されて感じられるので、
原作を読まずに映画を観られた方は、
物足りなさや違和感を感じるかも知れません。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
2023-01-21 11:29
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