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スタチンと筋肉痛との関連(臨床試験メタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは用の話題です。
今日はこちら。
スタチンの筋肉系有害事象の頻度.jpg
Lancet誌に2022年8月26日ウェブ掲載された、
コレステロール降下剤の良く知られた有害事象についての論文です。

スタチンはコレステロール合成酵素の阻害剤で、
強力に血中コレステロールを低下させる作用を持ち、
それ以外に抗炎症作用などを併せ持つことにより、
動脈硬化性疾患の再発予防などに、
高い有効性が確認されている薬剤です。

ただ、そのメカニズムから、
筋肉細胞が不安定となって炎症を起こし、
稀に横紋筋融解症という、
重症の筋肉系の有害事象の原因となることが知られています。

このためスタチンの使用時には、
筋肉の痛みや脱力などの症状がないかを患者さんに聞き取りし、
症状が見られた時には血液検査をして、
横紋筋融解症に見られる筋肉系の酵素クレアチニンキナーゼなどが、
上昇しているかどうかを確認することが行われています。

確かにスタチンの使用時には、
筋肉痛などの訴えをする患者さんは多く、
クレアチニンキナーゼが軽度上昇していることも、
しばしばあるのですが、
高度に上昇するような事例は、
当初想定されていたより少なく、
血液検査では異常がなく、
症状のみが見られる、
というケースも多いのが実際です。

しかし、こうした血液検査に異常がなかったり、
クレアチニンキナーゼの上昇が軽度に留まる場合にも、
スタチンの使用は中止されることが多いのが実際だと思います。

この判断は正しいものなのでしょうか?

今回の研究はこれまでに行われた、
スタチンの有効性を長期に渡って確認した臨床試験のデータを、
まとめて解析するメタ解析の手法により、
この問題の検証を行っているものです。

偽薬とスタチンとを比較した、
これまでの19の臨床試験に含まれる、
トータル123940例のデータをまとめて解析したところ、
中間値で4.3年の観察期間において、
スタチン使用群の27.1%、偽薬群の26.6%で筋肉痛もしくは筋力低下が認められ、
スタチン使用により3%(95%CI:1.01から1.06)
筋肉症状は有意に増加していました。

スタチン使用開始1年以内には、
偽薬と比較して筋肉痛もしくは筋力低下は、
相対リスクで7%(95%CI:1.04から1.10)増加し、
これは年1000人当たり11件スタチン使用により増加した、
というように推計されます。
こうしたデータからの推計では、
スタチン使用時に筋肉痛などの症状を訴える患者さんのうち、
実際にスタチンが原因であったのは、
その15分の1程度だと考えられます。
そしてスタチン使用1年後以降では、
スタチン使用による筋肉痛や筋力低下の、
有意な増加は認められませんでした。

今回のデータは臨床試験の解析なので、
通常の診療のデータではない点に注意が必要ですが、
スタチン使用後早期に筋肉痛などを訴える患者さんは多いものの、
実際にそれがスタチンによる筋肉病変である可能性は、
それほど高いものではないことは、
これまでの他の臨床データでも一致している知見で、
ほぼ間違いのないことのように思われます。

臨床医としては、
患者さんの個々の症状に対して、
慎重に向き合う必要がありますし、
稀ではあるものの横紋筋融解症が生じることは事実であるので、
その可能性も常に念頭には起きつつ、
スタチンと無関係と思われる場合には、
患者さんを説得する努力も怠らないようにしたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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