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飲酒量の変化と癌リスクとの関係(韓国の疫学データ) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
アルコールと癌リスク.jpg
JAMA Network Open誌に、
2022年8月24日ウェブ掲載された、
飲酒量の変化が癌の発症リスクに与える影響についての論文です。

多量の飲酒習慣が癌のリスクであることは、
多くの疫学データにより実証された事実です。
特に咽頭、喉頭癌、食道癌、虫垂癌を除く大腸癌、
肝細胞癌、女性の乳癌は、
明確に飲酒量との関連のがある癌として知られています。

アメリカの疫学データによれば、
修正可能な癌のリスクとして、
喫煙、肥満に次いでその影響が大きいのが、
飲酒習慣であるとされています。

それでは、飲酒の習慣のある人がそれを止めたり、
飲酒量を減らすことで、
その後の癌のリスクは低下するのでしょうか?
逆に飲酒量が増えることにより、
癌の発症リスクも増加するのでしょうか?

こうした疑問に対する精度の高いデータは、
実際にはあまり存在していません。

今回の疫学データは韓国においてその点を検証したもので、
平均年齢53.6歳の一般住民4513746名を、
6.4年観察した大規模なものです。

観察期間中の癌の罹患率は、
年間1000人当たり7.7件でした。
アルコール量を1日15グラム未満の少量と、
1日15から29.9グラムまでの中等量、
1日30グラム以上のヘビードリンカーに分類して、
飲酒量の変化と癌リスクを比較してみると、
いずれの飲酒量の群でも、
その量が経過中に増加すると、
癌のリスクはそれによって増加する傾向を示していました。

アルコール関連癌についてみると、
飲酒習慣のない人が少量の飲酒習慣に変化した場合には3%(95%CI:1.00から1.06)、
中等量の飲酒習慣に変化した場合には10%(95%CI:1.02から1.18)、
ヘビードリンカーになった場合には34%(95%CI:1.23から1.45)、
その後の癌リスクは増加していました。

少量の飲酒者が禁酒をすると、
そのまま飲酒していた場合と比較して、
全癌の発症リスクは4%(95%CI:0.92から0.99)、
有意に低下しました。
一方で中等量の飲酒者が禁酒すると、
全癌の発症リスクは7%(95%CI:1.03から1.12)、
ヘビードリンカーが禁酒すると、
全癌の発症リスクは7%(95%CI:1.02から1.12)、
いずれも一時的には有意に増加しました。
しかし、その後の経過をみると、
そのリスクは有意なものではなくなっていました。

ヘビードリンカーのままであった場合と比較して、
ヘビードリンカーが中等量まで節酒すると、
アルコール関連癌のリスクが9%(95%CI:0.86から0.97)、
全癌の発症リスクも4%(95%CI:0.92から0.99)有意に低下し、
ヘビードリンカーが少量まで節酒すると、
アルコール関連癌のリスクが8%(95%CI:0.86から0.99)、
全癌の発症リスクも8%(95%CI:0.89から0.96)、
こちらも有意に低下していました。

このように、
アルコールはアルコール関連癌のみならず、
全癌の発症リスクとも一定の関連があり、
節酒や禁酒はそのリスクを低下させるために、
一定の有効性があることは、
ほぼ明らかだと言って良いと思います。

ただ、禁酒で一時的に癌リスクが増加するなど、
アルコールの健康への影響は複雑で、
単純に良い悪いと言い切れない部分もあります。

いずれにしても他に肝障害など健康影響がない場合にも、
飲酒量はなるべく少なくすることが、
癌の予防のためにも有効であるというのが、
現状の一般的な科学的知見であると言って良く、
日本では1日20グラム(日本酒で1合程度)までの飲酒は、
健康上大きな問題がないとされていますが、
世界的トレンドとしては、
適正な飲酒量はより低く設定されている、という点も、
理解はしておく必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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