KARA・MAP「キネマと恋人」 [演劇]
こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
昨日はバタバタしていて、
ちょっとその余韻の残る朝ですが、
今日は一日のんびり過ごすつもりです。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
世田谷パブリックシアターとKERA・MAPの合同企画として、
ウディ・アレンの名作映画、
「カイロの紫のバラ」を翻案した作品が、
今日までシアタートラムで上演されています。
KARA・MAPは昨年に久しぶりに再開されたユニットで、
ナイロンのメンバーはあまり出演せず、
ケラさんのオリジナルの戯曲と、
海外戯曲の演出作の、
中間くらいの位置づけで、
昨年の「グッドバイ」が非常に高い評価を得ました。
今回はウディ・アレンの名作映画を下敷きにして、
非常に完成度の高い作品に仕上げています。
解説文には「ウディ・アレン」の名前はあるのですが、
翻案とは言いながらも、
それ以外には【台本・演出】はケラさんと書かれているだけで、
全くクレジットはないので、
本当に著作権者に許可を取っているのかしら、
とちょっと疑問に思う感じがあります。
今回の作品はケラさん自身「翻案」と言っているように、
オープニングとラストを含めて、
ほぼ原作映画通りの筋立てなので、
それで名前がないのはどうなのかしら、
と不思議に思うところです。
ただ、内容は非常に素晴らしくて、
特に巻頭の映像と演技が一体化したような効果など、
ちょっと世界を見回しても、
小劇場でこれだけ完成度の高い作品は、
あまり例がないのではないだろうか、
という思いさえ持ちました。
ケラさんのプロジェクションマッピングを見慣れている僕でも、
これは相当ビックリしました。
例によってちょっと上演時間は長過ぎるのです。
2幕構成ですが、
前半と後半がそれぞれ1時間半あって、
間に15分の休憩が入ります。
素晴らしい場面も多いのですが、
「これは要らないよね」と思うようなところも結構あって、
休憩なしで2時間半弱くらいにまとめたら、
もっと空前絶後の大傑作になったのではないかしら、
などと思ってしまうのですが、
これはいつものことでケラさんも確信犯なので、
観客としては納得するしかないような気もします。
以下、少しネタバレを含む感想です。
原作の映画は1930年代のアメリカが舞台で、
ミア・ファロー演じるウェートレスの女性が、
映画の主役に恋をして、
その主役が映画から飛び出して来るのですが、
その主役を映画の中に連れ戻そうと、
主役を演じている俳優が乗り出して来て、
主人公を巡り映像とそれを演じている俳優との、
三角関係になるという物語です。
映画から人が飛び出すという、
手垢に塗れた古めかしいアイデアが、
アレンの喜劇的才気によって見事に娯楽になり、
孤独な女性が、
現実の男性と夢の中の男性のどちらを選ぶのか、
という結構深いテーマに着地します。
主人公は現実の男性を選び、
失意のまま映画のキャラクターは映画の中に戻るのですが、
結局現実の男性は主人公を捨ててしまい、
孤独な境遇に戻った彼女は、
最後に再び映画館で映画を見て、
そこに笑顔を取り戻して終わります。
ほろ苦くて、
思い出すだけでウルウルしてしまうような名場面です。
さて、それをそのまま日本の1930年代にもっていった今回の作品は、
緒川たまきさん演じる主人公の境遇は、
原作とほぼそのままにして、
マルクス兄弟などのコメディが大好きで、
連続ものの娯楽時代劇の、
主役ではなく賑やかしの脇役に、
恋をしてしまうという設定に変えています。
ケラさんのコメディ愛が、
上手く活かされた改変です。
ストーリーはほぼ原作そのままに展開され、
その通りに終わります。
ただ、主人公に妹がいるという設定になっていて、
ともさかりえさんが演じる妹と、
緒川たまきさんが演じる姉が、
人生の対話をすることによって、
物語に一層の膨らみを持たせています。
これは悪い改変ではないのですが、
もう1つの脇筋が生まれることによって、
上演時間が長大になるという欠点もあったように思います。
今回の作品の魅力はまず、
ケラさんの奥さんで主役を演じた緒川たまきさんの、
コミカルで切ない見事な演技で、
彼女の芝居だけで充分に元はとったという気分になります。
方言の活用がまたうまく決まっていました。
セリフのリズムがとても心地良いのです。
相手役で映画俳優と映画の登場人物の2役を演じた、
妻夫木聡さんも、
なかなかの熱演で良かったです。
次に素晴らしかったのが演出で、
まずメインとなる戦前の娯楽時代劇を、
それらしくしっかりと映像化しているのが贅沢で、
しかも場面によっては映像を使わずに、
白いゴム紐を四角く広げてスクリーンに見立て、
そこで実際の役者が同じ演技をする場面なども組み合わせて、
多角的に描いているのが素敵です。
プロジェクションマッピングは以前からケラさんの舞台の十八番ですが、
今回は舞台のあちこちに置かれた壁に、
それぞれ違った映像が投影され、
その壁が移動しても映像は壁から離れないなど、
新鮮な工夫も盛りだくさんで、
非常に高度で完成度の高い技巧が駆使されていました。
最初に大きなスクリーンが舞台を覆っているのですが、
そこに映画が映し出された後で、
イリュージョンのように客席の後方にスクリーンが引き込まれたり、
最新技術を用いての妻夫木さんの2役早変わりなど、
映像以外にも、
随所に意外性のある仕掛けが盛り込まれています。
何と言うか、とても贅沢です。
小野寺修二さんの、
かつての天井桟敷の品質の悪いコピーのような振付は、
好みではないのですが、
それと長過ぎること以外は、
あまり文句のつけようのない傑作で、
もう東京公演は終わりになりますが、
是非にとお勧めしたい逸品で、
ケラさんの1つの傾向の到達点であるように思います。
面白かったです!
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
北品川藤クリニックの石原です。
今日は日曜日でクリニックは休診です。
昨日はバタバタしていて、
ちょっとその余韻の残る朝ですが、
今日は一日のんびり過ごすつもりです。
休みの日は趣味の話題です。
今日はこちら。
世田谷パブリックシアターとKERA・MAPの合同企画として、
ウディ・アレンの名作映画、
「カイロの紫のバラ」を翻案した作品が、
今日までシアタートラムで上演されています。
KARA・MAPは昨年に久しぶりに再開されたユニットで、
ナイロンのメンバーはあまり出演せず、
ケラさんのオリジナルの戯曲と、
海外戯曲の演出作の、
中間くらいの位置づけで、
昨年の「グッドバイ」が非常に高い評価を得ました。
今回はウディ・アレンの名作映画を下敷きにして、
非常に完成度の高い作品に仕上げています。
解説文には「ウディ・アレン」の名前はあるのですが、
翻案とは言いながらも、
それ以外には【台本・演出】はケラさんと書かれているだけで、
全くクレジットはないので、
本当に著作権者に許可を取っているのかしら、
とちょっと疑問に思う感じがあります。
今回の作品はケラさん自身「翻案」と言っているように、
オープニングとラストを含めて、
ほぼ原作映画通りの筋立てなので、
それで名前がないのはどうなのかしら、
と不思議に思うところです。
ただ、内容は非常に素晴らしくて、
特に巻頭の映像と演技が一体化したような効果など、
ちょっと世界を見回しても、
小劇場でこれだけ完成度の高い作品は、
あまり例がないのではないだろうか、
という思いさえ持ちました。
ケラさんのプロジェクションマッピングを見慣れている僕でも、
これは相当ビックリしました。
例によってちょっと上演時間は長過ぎるのです。
2幕構成ですが、
前半と後半がそれぞれ1時間半あって、
間に15分の休憩が入ります。
素晴らしい場面も多いのですが、
「これは要らないよね」と思うようなところも結構あって、
休憩なしで2時間半弱くらいにまとめたら、
もっと空前絶後の大傑作になったのではないかしら、
などと思ってしまうのですが、
これはいつものことでケラさんも確信犯なので、
観客としては納得するしかないような気もします。
以下、少しネタバレを含む感想です。
原作の映画は1930年代のアメリカが舞台で、
ミア・ファロー演じるウェートレスの女性が、
映画の主役に恋をして、
その主役が映画から飛び出して来るのですが、
その主役を映画の中に連れ戻そうと、
主役を演じている俳優が乗り出して来て、
主人公を巡り映像とそれを演じている俳優との、
三角関係になるという物語です。
映画から人が飛び出すという、
手垢に塗れた古めかしいアイデアが、
アレンの喜劇的才気によって見事に娯楽になり、
孤独な女性が、
現実の男性と夢の中の男性のどちらを選ぶのか、
という結構深いテーマに着地します。
主人公は現実の男性を選び、
失意のまま映画のキャラクターは映画の中に戻るのですが、
結局現実の男性は主人公を捨ててしまい、
孤独な境遇に戻った彼女は、
最後に再び映画館で映画を見て、
そこに笑顔を取り戻して終わります。
ほろ苦くて、
思い出すだけでウルウルしてしまうような名場面です。
さて、それをそのまま日本の1930年代にもっていった今回の作品は、
緒川たまきさん演じる主人公の境遇は、
原作とほぼそのままにして、
マルクス兄弟などのコメディが大好きで、
連続ものの娯楽時代劇の、
主役ではなく賑やかしの脇役に、
恋をしてしまうという設定に変えています。
ケラさんのコメディ愛が、
上手く活かされた改変です。
ストーリーはほぼ原作そのままに展開され、
その通りに終わります。
ただ、主人公に妹がいるという設定になっていて、
ともさかりえさんが演じる妹と、
緒川たまきさんが演じる姉が、
人生の対話をすることによって、
物語に一層の膨らみを持たせています。
これは悪い改変ではないのですが、
もう1つの脇筋が生まれることによって、
上演時間が長大になるという欠点もあったように思います。
今回の作品の魅力はまず、
ケラさんの奥さんで主役を演じた緒川たまきさんの、
コミカルで切ない見事な演技で、
彼女の芝居だけで充分に元はとったという気分になります。
方言の活用がまたうまく決まっていました。
セリフのリズムがとても心地良いのです。
相手役で映画俳優と映画の登場人物の2役を演じた、
妻夫木聡さんも、
なかなかの熱演で良かったです。
次に素晴らしかったのが演出で、
まずメインとなる戦前の娯楽時代劇を、
それらしくしっかりと映像化しているのが贅沢で、
しかも場面によっては映像を使わずに、
白いゴム紐を四角く広げてスクリーンに見立て、
そこで実際の役者が同じ演技をする場面なども組み合わせて、
多角的に描いているのが素敵です。
プロジェクションマッピングは以前からケラさんの舞台の十八番ですが、
今回は舞台のあちこちに置かれた壁に、
それぞれ違った映像が投影され、
その壁が移動しても映像は壁から離れないなど、
新鮮な工夫も盛りだくさんで、
非常に高度で完成度の高い技巧が駆使されていました。
最初に大きなスクリーンが舞台を覆っているのですが、
そこに映画が映し出された後で、
イリュージョンのように客席の後方にスクリーンが引き込まれたり、
最新技術を用いての妻夫木さんの2役早変わりなど、
映像以外にも、
随所に意外性のある仕掛けが盛り込まれています。
何と言うか、とても贅沢です。
小野寺修二さんの、
かつての天井桟敷の品質の悪いコピーのような振付は、
好みではないのですが、
それと長過ぎること以外は、
あまり文句のつけようのない傑作で、
もう東京公演は終わりになりますが、
是非にとお勧めしたい逸品で、
ケラさんの1つの傾向の到達点であるように思います。
面白かったです!
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。
誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ
- 作者: 石原藤樹
- 出版社/メーカー: 総合医学社
- 発売日: 2016/10/28
- メディア: 単行本
2016-12-04 11:37
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