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妊娠中のヨード代謝とサイログロブリンの測定値との関係 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
妊娠中のサイログロブリンの測定.jpg
今年のThyroid誌に掲載された、
妊娠中のヨードの欠乏を推測する目的で、
血液のサイログロブリンを測定して検証した論文です。

無機ヨードは海草などに多く含まれるミネラルで、
甲状腺ホルモンの材料となることで知られています。

妊娠中は胎児の甲状腺が作られるため、
妊娠中のヨードの欠乏は、
赤ちゃんの甲状腺機能低下症の原因となることが想定されます。

日本ではヨードの摂取量は非常に多く、
土壌にもヨードが多く含まれているため、
余程の偏食などがなければ、
ヨード欠乏は少ないと考えられています。

ただ、ヨーロッパの特に内陸部などにはヨード欠乏地域があり、
ヨード欠乏への対応は公衆衛生上の大きな問題となっています。

それでは、
妊娠中のヨード欠乏をどのように判定すれば良いのでしょうか?

ヨード欠乏が疑われる場合には、
尿のヨード濃度を測定することが可能です。

これを1日量で換算した時、
150μg より少なければ、
ヨード欠乏の存在が疑われます。

ただ、これは採取前1日から2日くらいのヨードの摂取量を、
ほぼ推定するという数値なので、
それが即身体のヨードの欠乏と、
同じ意味を持つという訳ではありません。

ヨード欠乏が続けば、
甲状腺機能は低下しますから、
妊娠中の甲状腺機能を測定することは、
広く行われているもう1つの方法です。

ただ、ヨードが欠乏しても、
すぐに甲状腺機能が低下する訳ではありませんから、
もっと鋭敏な検査がないのか、
ということが問題となるのです。

今回のイギリスの臨床研究では、
甲状腺の細胞由来の蛋白質である、
サイログロブリンの血液濃度を、
妊娠中のヨード代謝の指標として、
利用する試みを検証しています。

サイログロブリンは甲状腺以外からは産生されず、
甲状腺がTSHなどで刺激されたり、
甲状腺が腫大した状態で増加します。
このため、一種の腫瘍マーカーとしても利用されますし、
ヨード欠乏があると、
甲状腺が刺激されてまずサイログロブリンが増加し、
それから少ししてTSHが増加します。

つまり、甲状腺への刺激に対して、
サイログロブリンはより鋭敏なマーカーなのです。

たとえば、バセドウ病が再発する時なども、
甲状腺機能が明確に亢進する以前に、
サイログロブリンは増加することが知られています。

ただ、サイログロブリンの測定には欠点もあって、
橋本病でサイログロブリンに対する自己抗体が産生されると、
実際よりサイログロブリンは低く測定されてしまうので、
この検査は有効ではありません。

今回の研究ではイギリスにおいて、
妊娠12週の段階で230名の女性を登録し、
12週と20週と35週において、
甲状腺機能とサイログロブリン濃度、尿中ヨードを測定し、
その関連を比較検証しています。

登録された230名のうち9.9%に当たる22名は、
サイログロブリンに対する抗体が陽性のため検証からは除外されています。

妊娠中のサイログロブリン濃度の中央値は、
妊娠12週で21μg/L、20週で19μg/L、35週で23μg/Lと、
妊娠週数で大きな変化はなく、
尿中ヨードが低値の女性は、
そうでない女性と比較してサイログロブリン濃度が有意に増加していました、
ただ、TSHについては有意な増加は認められませんでした。

これはつまり、
妊娠中のヨードの欠乏状態を、
TSHより鋭敏に、
サイログロブリン濃度が示している、
という可能性を示唆しています。

ただ、サイログロブリンの上昇はそれほど大きなものではないので、
どのくらいの水準でヨード欠乏を疑うべきかというのは、
なかなか難しい問題だと思います。
従って、
どちらかと言えば補助的な診断にとどまるものだとは思いますが、
甲状腺への刺激に対して、
サイログロブリンが最も鋭敏な指標であることは、
有用な知識ではあると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

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