SSブログ

リバーロキサバンとダビガトランの直接比較試験 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
ダビガトランとリバロキサバンの直接比較.jpg
今月のJAMA Internal Medicine誌に掲載された、
2種類の新規抗凝固剤の効果と安全性を、
直接比較した論文です。

内容はかなりショッキングなものですが、
直接比較の大規模な試験は、
これが初めてであることと、
患者さんを登録してくじ引きで薬を選択する、
というような厳密な介入試験ではなく、
後から患者さんを抽出して比較したものなので、
その結果の評価にはより慎重な判断が必要だと思います。

ワルファリンに変わりうる抗凝固剤が、
最近次々と発売され、
その評価もほぼ定まった感じがあります。

ただ、それでは新規抗凝固剤のうち、
どの薬がより効果があり、より安全性が高いのか、
というような点については、
まだ定まった見解はありません。

直接トロンビン阻害剤であるダビガトラン(プラザキサ)が先陣を切り、
その後リバーロキサバン(イグザレルト)、
アピキサバン(エリキュース)、
エドキサバン(リクシアナ)と、
凝固因子のⅩa因子阻害剤と呼ばれる薬が、
次々と発売され実際に臨床で使用されています。

この新規抗凝固剤の、
患者さんの側からのメリットは、
ワルファリンのように定期的に血液の検査を行ない、
その効果を確認する必要がなく、
また納豆などの食事制限がないという点にあります。

その効果は各薬剤の承認時の臨床試験では、
良くコントロールされたワルファリンと同等の、
血栓症や塞栓症の予防効果を持ち、
有害事象である重篤な出血の発症については、
ワルファリンより概ね軽微である、
と報告されています。

ただ、それでは新規抗凝固剤のうち、
どの薬がより効果があり、より安全性が高いのか、
というような点については、
まだ定まった見解はありません。

最初に発売されたダビガトランにおいて、
重篤な出血の事例が問題となり、
そのためアメリカでは2から3倍ダビガトランより、
リバーロキサバンの処方が多いようです。

その一方で2016年2月のBritish Medical Journal誌の解説記事では、
ROCKET-AFと題された、
リバーロキサバン(イグザレルト)の臨床試験において、
ワルファリンのコントロールが、
正確に行われていなかったのではないか、
という問題点が指摘されています。

個々の薬剤の臨床試験のデータのメタ解析の論文では、
薬剤間に少なくとも明瞭な効果や安全性の差はない、
という結果になっています。

しかし、それが実地臨床においても成り立つかどうかは、
実際の臨床に近いデータが必要です。

そこで今回の研究では、
アメリカの健康保険のデータを活用して、
65歳異常の非弁膜症性心房細動患者で、
ダビガドランもしくはリバーロキサバンを新規で開始した、
トータル118891名(ダビガトランの処方52240例、リバーロキサバンの処方66651例)
のデータを解析して、
両者の血栓症予防効果と有害事象の差を検証しています。

その結果…

平均で4ヶ月の観察期間において、
血栓塞栓症の発症リスクには両群で有意な差はなく、
脳内出血のリスクはリバーロキサバンの使用において、
ダビガトランの使用と比較して、
1.65倍(1.20から2.26)有意に増加し、
重篤な脳内出血以外の出血系合併症も、
1.48倍(1.32から1.67)有意に増加していました。
消化管出血に限っても、
矢張りリバーキサバン使用群において、
1.40倍(1.23から1.59)有意に増加していました。

死亡リスクには両群で有意な差はありませんでしたが、
年齢が75歳以上に限定した場合と、
血栓塞栓症のリスクが高いと想定される、
CHADS2スコアが2を超える患者さんに限定すると、
リバーロキサバン使用群での死亡リスクの増加が認められました。

このように、
今回の直接比較においては、
明確にリバーロキサバンの出血系合併症のリスクは、
ダビガトランを上回っていました。

この原因について上記文献では、
リバーロキサバンが1日1回の薬剤であり、
その有効性を24時間維持するために、
結果的には抗凝固作用が、
必要以上に強くなっている時間帯があるのではないか、
という仮説を提示しています。

今回のデータではリバーロキサバンは1日20ミリグラムで使用されていて、
これは日本での使用量の1日15ミリグラムより、
もともと高用量に設定されています。

従って、この結果がそのまま日本の臨床で、
適応可能なものではないのですが、
日本においても新規抗凝固剤の、
一般臨床のデータの比較が、
是非必要なのではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍予約受付中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本





nice!(5)  コメント(5)  トラックバック(0) 

nice! 5

コメント 5

mabuken

いつも拝見させいただいております。
1つ気になりましたので質問させてください。

当該文献AbstractのExposuresに「Dabigatran, 150 mg, twice daily」とあります。
これは「1日量150mgを2回に分けて」ということなのか、それとも「1回150mgを1日2回」ということなのか、どちらなのでしょうか。

もし前者であれば日本との乖離が大きくなりますが。。
by mabuken (2016-10-15 22:14) 

fujiki

mabukenさんへ
これは150mgを1日2回の意味なので、
日本の常用量と同じです。
新規抗凝固剤は、基本的にイグザレルト以外は、
海外用量と日本の常用量は同一です。
イグザレルトのみ、独自の臨床試験を行い、
日本は1日15mgが常用量で、
海外は1日20mgが常用量です。
これはある意味慧眼だと思います。
by fujiki (2016-10-15 22:20) 

ゆき

10月の健康教室、ありがとうございました。また、クリニック開院1周年おめでとうございます。
健康教室はとても分かりやすく脳卒中について解説していただき、「脳卒中は脳出血と脳梗塞に分かれる」とか「梗塞性脳出血もある」、などという基礎的な部分から、最新の薬の話題まで、大変よくわかりました。
今日のこの記事も、受講してから読み返してみると、(私の
理解力なりに、)理解することができました。また参加したいです。ありがとうございました。
by ゆき (2016-10-16 07:44) 

fujiki

ゆきさんへ
こちらこそありがとうございました。
お時間があるようでしたら、
来月もよろしくお願いします。
by fujiki (2016-10-16 10:24) 

mabuken

ご回答ありがとうございました。
イグザレルト以外は同じなのですね。

観察機関が4ヶ月というところも含めて、
まだまだ迂闊に適応してはいけませんね。
使い分けの指針が早く生まれると良いのですが。
by mabuken (2016-10-16 23:22) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0