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新生児マス・スクリーニングのクレチン症判定基準の妥当性について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後はレセプト作業の予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
クレチン症と新生児マススクリーニング.jpg
今月のLancet Diabetes-Endocrinology誌に掲載された、
新生児マス・スクリーニングにおける、
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)の診断の妥当性についての論文です。

新生児マス・スクリーニングというのは、
赤ちゃんが生後4から6日という早期の時期に、
濾紙に血液を染み込ませるようにして取り、
複数の先天性の病気の早期診断に結びつけよう、
というものです。

ここでスクリーニング対象となっている病気の1つが、
先天性甲状腺機能低下症(クレチン症)です。

出生時より高度の甲状腺の機能低下が持続することにより、
成長発達に大きな遅れと障害が起こります。

通常この微量な血液で測定されるのは、
甲状腺刺激ホルモン(TSH)です。
甲状腺ホルモンの分泌が低下していると、
TSHは上昇するので、
その数値が予め決められた基準値を超えていれば、
精密検査をして甲状腺機能低下症を診断する、
という流れになっています。

そこで問題になるのは、
最初のスクリーニングで精密検査に回す基準値を、
どのくらいにするか、ということです。

国際的には概ねTSHが20mU/L以上を基準としています。
一方で軽度の機能低下は概ね5mU/L以上ですから、
この間には結構な幅があります。

イタリアで生後3から4日の基準値を、
20から10~12mU/L以上に変更したところ、
軽症を含めた甲状腺機能低下症が2倍発見された、
という報告をしています。

ただ、基準をより正常に近づければ、
偽陽性も増えるとともに、
再検査や精密検査の人数も増え、
コストも膨れ上がることになるので、
その辺りの判断は非常に難しいところです。

そもそも、クレチン症を早期発見することの意義は、
早期にホルモン剤の治療を開始することにより、
成長は発達の障害を予防することにあります。

ただ、治療の有効性は間違いのないものですが、
ホルモン剤を適切に使用しても、
発達障害が予防されなかったようなケースも報告されています。
また、スクリーニングの基準値を変更することにより、
どのくらいの学習障害や発達障害が見逃されるのか、
というような視点も重要です。

そこで今回の研究では、
南ウェールズとオーストラリアにおいて、
TSHが測定されている新生児のデータを解析し、
その後の発達や成長の障害との関連を検証しています。

その結果、
通常の基準値を用いたマス・スクリーニングで、
漏れてしまうより軽度のTSHの上昇においても、
正常のTSHと比較すると、
その後の10歳までの成長と発達には、
遅れが見られることが確認されました。

日本においては、
概ねマス・スクリーニングで再検査とされるTSHは、
10未満程度で設定されています。

欧米の一般的な基準値より正常に近く設定されている訳で、
これが適切であるかどうかはともかくとして、
如何にも日本的な慎重さに裏打ちされた基準である、
ということは言えるように思います。

ただ、この問題は、
仮により軽症の甲状腺機能低下症においても、
学習や発達の遅れが存在するとして、
ホルモン剤をそうした小児に使用することにより、
本当に治療効果が見られるかどうかが、
証明されているものではないので、
かなり難しい問題をはらんでいるように思います。

ちなみに、
このマス・スクリーニングのTSH測定のデータは、
福島原発事故の前後でも解析されていて、
TSHの分布には差がないという結論が発表されています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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