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慢性疾患の遺伝の関与について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診ですが、
老人ホームの診療などには出掛ける予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
慢性疾患の遺伝の関与.jpg
先月のPLOS ONE誌に掲載された、
一般的な病気における遺伝の関与についての論文です。

病気というのは、
糖尿病にしても喘息にしても癌にしてもそうですが、
生まれつきの要因、
つまり体質と、
生まれてから外界から受ける影響、
すなわち環境の、
2種類の影響と、
その相互作用により発生する、
というように考えられます。

このうちで生まれつきの要因である体質は、
遺伝子の個人差として決定されます。

特定の遺伝子の変異により、
高率に発症に結び付くような、
遺伝性疾患と呼ばれるものを除くと、
糖尿病や大多数の癌や喘息、認知症など、
多くの慢性疾患と呼ばれるような病気は、
複数の点遺伝子変異と呼ばれる、
遺伝子のタイプの違いが影響していて、
単純に遺伝子の検査をすれば、
それで病気のリスクが分かる、
というような簡単なものではありません。

僕は複数の会社の遺伝子検査の監修のようなことを、
させて頂いているのですが、
検査をされた方から決まって聞かれることの1つは、
遺伝子の持つリスクは、
病気全体のリスクのどのくらいの比率を占めているのか、
ということです。

ただ、これはそう簡単な質問ではありません。

遺伝子の研究が進められてから、
病気と遺伝子のタイプとの関連について、
ゲノムワイド関連解析
(genome-wide association studies : GWAS)
という研究が多数行われました。
これはほぼ全ての遺伝子において、
SNPと呼ばれる遺伝子のタイプと、
病気の頻度との関連を分析するものです。

こうした研究では遺伝と環境の関与についても、
分析はされているのですが、
それは主に個人のアンケートを解析したものなので、
その正確さには疑問が残ります。

今回の検討においては、
これまでに発表された、
主に北欧諸国の一卵性の双子の疫学データを活用して、
28の慢性疾患における、
遺伝要因の人口寄与割合、
すなわち、それがなければどのくらい発生率が減るかを、
検証しています。

その結果…

その発症に対する遺伝の割合は、
白血病が3.4%と最も低く、
気管支喘息が48.6%と最も高くなっていました。
その平均は18.5%でした。
その発症に遺伝の占める割合は、
癌が平均8.26%と分類区分としては最も低く、
神経系の疾患(認知症、パーキンソン病、片頭痛など)は、
平均26.1%と高めで、
呼吸器系の疾患(喘息、COPD)が、
平均33.6%と最も高くなっていました。

それでは死亡リスクについてはどうでしょうか?

こちらをご覧下さい。
慢性疾患と遺伝の関与の図.jpg
これは前述の双子のデータを元にして、
2000年における西ヨーロッパの153万人の死亡のうち、
どのくらいの部分に遺伝及び共通の環境的影響が、
関与しているのかを推定したものです。

トータルでは16.4%に当たる25万人が、
遺伝等の修正不可能な因子の関与で死亡していました。

多いのは虚血性心疾患で、
全体の21.6%が、
遺伝などの要因で死亡しており、
癌は全体に遺伝の関与は少ないのですが、
その中では前立腺癌は、
19.0%が遺伝等による死亡と考えられました。

こうした推計は従来報告されている、
ゲノムワイド関連解析によるものより、
概ね遺伝による影響は低く算出されていて、
研究方法により遺伝と環境の関与の比率については、
変動するのが現状のようです。

ヒトの遺伝子が全て解析されて以来、
遺伝子さえ調べれば、
全ての病気の原因が解明され、
その予防や治療法も確立されるというような、
「遺伝子至上主義」が医学の世界も席巻した訳ですが、
実際には遺伝の影響する病因というのは、
トータルに見るとその2割に満たない程度であり、
そこへの研究や治療にあまりに重点を置くことは、
木を見て森を見ない結果になるような気もします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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bpd1teikichi_satoh

Dr.Ishihara爺達の双極性障害も一卵性双生児の研究から一方が発症した場合片方が発症する割合は約70%とされており後の30%は
環境要因によって後天的に発症すると考えられています。又、血液等で全遺伝子を調べても脳で実際にその遺伝子が発現するかはいわゆるエピジェネティクスよってに後天的に変わると考えられ、Dr.の言われる様に遺伝子によって全ての病気の原因が分かるとはいえ
ないと思います。
by bpd1teikichi_satoh (2016-05-06 14:38) 

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