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妊娠中の癌治療の胎児への影響について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療です。
朝から準備などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
妊娠中のがん治療と胎児への影響.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
妊娠中に癌と診断され、
抗癌剤などの治療を妊娠中に行なった場合の、
胎児へのリスクを検証した論文です。

例数はそれほど多くはないのですが、
なかなか検証は難しい事案に、
正面から取り組んだ結果が評価され、
掲載に至ったのではないかと思います。

妊娠された女性が、
妊娠中に初めて癌と診断される、という事態は、
上記雑誌の解説記事によれば、
およそ1000件の妊娠に1件くらいの比率であるようです。

こうしたケースでは、
妊娠の継続の可否が、
まず大きな問題となります。

母体の癌自体が、
胎児の健康に影響を与える可能性もありますし、
癌による母体の衰弱や炎症などの変化も、
当然胎児に影響を与える可能性があります。

妊娠中の癌治療は、
抗癌剤も放射線も手術も、
いずれも母体のみならず胎児にも、
少なからぬ影響を与える可能性があります。

それでは、
母体の癌そのものや、
癌に対する治療が、
どの程度の影響を胎児に与えるのか、
という点については、
そうした事例の数も少ない上に、
人間で厳密に検証するような実験も困難なので、
これまでにあまり精度の高いデータが存在していませんでした。

そのために、
癌治療のために妊娠の中断が選択されたり、
胎児を優先して、
母体の癌治療が控えられたりと、
あまり科学的とは言えない決定が、
しばしば成されているのが実状です。

医者の方も経験が乏しく、
これまでのデータの蓄積もあまりないのですから、
それで患者さんに、
自信を持って何かを伝えられる訳がありません。

今回の研究はベルギー、オランダ、チェコ共和国において、
母体が妊娠中に癌と診断された129のケースを、
癌以外の条件をマッチさせた、
同じ129件の妊娠とを比較して、
お子さんの予後を生後36ヶ月まで観察しています。

癌と診断された女性のうち、
74.4%に当たる96件では化学療法が施行され、
8.5%に当たる11件では放射線治療が、
10.1%に当たる13件では手術が選択され、
10.9%に当たる14件は未治療でした。
(治療は複数の重複あり)

その結果…

お子さんの出生体重、36ヶ月までの神経発達、
心奇形の有無にも、
癌での妊娠とそうでない妊娠との間に、
有意な差は認められませんんでした。
唯一関連したのは早産と神経発達との関連ですが、
これは癌の有無とは関係がありませんでした。

今回の研究は、
事例数もそう多くはなく、
その内容も癌の種別や使用された抗癌剤の種類など、
種々雑多な状態なので、
個別の癌や抗癌剤についての安全性を、
評価出来るようなものではありません。

ただ、これまで何となく想定されていたほど、
お母さんが癌に罹患した場合の、
母体のお子さんに与える影響や、
抗癌剤などの使用が胎児に与える影響は、
強いものではなく、
勿論より詳細な検証は更に必要ですが、
癌を治療しながら妊娠も継続する選択肢は、
これまでより積極的に選択されても良いように思います。

上記雑誌の解説記事によれば、
胎児の感受性の高い妊娠初期には、
癌の治療はなるべく避けるべきであるけれど、
妊娠中期以降には、
なるべく積極的に行なう方が、
母体と胎児双方のためになる可能性が高い、
という見解が記載されています。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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