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骨粗鬆症の治療薬は乳癌の予後を改善するのか? [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療です。
よろしくお願いします。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
乳がんとビスフォスフォネート.jpg
今月のLancet誌に掲載された、
骨粗鬆症の治療薬を、
乳癌の患者さんに使用した場合の効果を検証した論文です。

骨転移は乳癌の合併症として頻度の多いものです。
そうした場合に、
骨の痛みを改善する目的で、
骨粗鬆症の治療薬(そもそもは骨転移などが適応)である、
ビスフォスフォネートが使用されています。
(商品名はボナロン、フォサマック、アクトネルなど)

このビスフォスフォネートは、
骨吸収を強力に抑制し、
骨の表面をコーティングして、
骨が壊れることを防ぐような働きがあるので、
癌細胞が骨に接着してそこで増殖することを、
妨害する可能性があり、
このため、骨転移の予防にも効果があるのではないか、
という考え方があります。

実際にいくつかの臨床データにおいて、
ビスフォスフォネートの併用が、
乳癌の骨転移を抑制したり、
その生命予後や病状を改善したとする結果が報告されています。

しかし、その一方でビスフォスフォネートを使用しても、
患者さんの予後には影響を与えなかった、
とする報告も複数存在しています。

今回の研究では、
これまでの臨床研究のデータをまとめて解析し、
乳癌の患者さんにおけるビスフォスフォネートの使用が、
骨転移を含む遠隔転移の抑制や、
生命予後を含む患者さんの予後に与える影響を検証しています。

ビスフォスフォネートを2から5年間使用した、
トータル18766名の女性乳癌患者のデータを、
まとめて解析しています。
平均観察期間は5.6年です。

その結果…

ビスフォスフォネート製剤の使用により、
骨転移は有意に17%抑制されました。
乳癌による死亡リスクや再発のリスク、
遠隔転移のリスクについても、
やや低い傾向は認められましたが、
明確なものではありませんでした。
閉経前の女性に限って解析すると、
いずれのリスクも低下は認められませんでしたが、
閉経後の女性に限って解析すると、
再発のリスクが14%、
遠隔転移のリスクが18%、
乳癌による死亡リスクが18%、
そして骨転移のリスクは28%と、
いずれも有意に低下が認められました。

このビスフォスフォネートの効果は、
生理のあるなしと年齢に最も影響を受け、
ビスフォスフォネートの種類や、
治療の方法、腫瘍の進行度、
癌細胞の女性ホルモン反応性の有無、
化学療法の施行の有無などには影響されませんでした。

これは主作用なので当然のことですが、
骨折のリスクは有意に15%低下し、
総死亡のリスクには影響を与えませんでした。

今回の結果から分かることは、
閉経後の女性で乳癌に罹患した場合には、
ビスフォスフォネートを通常の癌治療に併用することにより、
非常に高い効果が期待出来るということです。

その影響は骨転移の予防のみならず、
乳癌による死亡や再発の抑制にも及んでいます。
しかし、残念ながら総死亡のリスクは低下させていません。

そして、閉経前の女性については、
その効果は骨折予防を含めてあるとしても軽微に留まり、
その使用を積極的に推奨する、
というレベルには至らないように思います。

そのメカニズムを含めて、
今後の検証が必要な点は多くありますが、
今回どのような患者さんに、
ビスフォスフォネートの効果が高いかが明らかになったメリットは大きく、
一般診療においても重要な情報となり得る知見だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

高瀬

先生、開業おめでとうございます。
いつもHP拝見しております。
その度に思うことがあるのですが、毎日記事にされている論文
などはいつ読まれてるんですか?
忙しい日々の中で勉強時間はどう確保されているのでしょうか?

by 高瀬 (2015-10-08 11:49) 

fujiki

高瀬さんへ
コメントありがとうございます。
合間に読む感じですが、
最近はあまり以前のように、
じっくりは書けていません。
by fujiki (2015-10-13 08:09) 

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