SSブログ

コペプチンと糖尿病との関連について [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
コペプチンと糖尿病.jpg
今年のJ Clin Endocrinol Metab誌に掲載された、
バゾプレッシン(抗利尿ホルモン)と糖尿病との関連を、
検証した論文です。

身体の水分量を調節するホルモンであるバゾプレッシン(AVP)は、
脳下垂体の後葉と呼ばれる場所から分泌されます。

このバゾプレッシンは、
尿を濃縮させて尿量を減少させる働きがあり、
このため抗利尿ホルモンと呼ばれています。

通常脱水になり、
血圧が低下し、
血液の浸透圧が上昇することにより分泌されます。

身体に水分が足りないことを感知して、
尿量を減少させ、
それ以上脱水が進行しないように調節するのです。

近年このバゾプレッシンが、
糖尿病と関連があるのではないか、
という報告が多く寄せられています。

2型糖尿病においては、
バゾプレッシンの分泌が増加しています。

糖尿病では尿量が増えて、
身体は脱水に傾くことが想定されますから、
それでバゾプレッシンが増加しても、
おかしくはありません。

しかし、一方で肥満やインスリン抵抗性とも、
バゾプレッシンの増加は関連している、
というような報告も複数あり、
バゾプレッシンは糖尿病の独立したリスクなのではないか、
という推測を唱える研究者もいます。

ただ、これまでの多くのデータにおいては、
バゾプレッシンの測定値にはかなりのばらつきがあり、
結果としてあまりデータはクリアなものではありませんでした。

この曖昧さの原因の1つとして、
バゾプレッシンの測定が、
不安定で誤差が生じ易いということがあります。

近年バゾプレッシンの前駆物質から生成されるペプチドである、
コペプチン(Copeptin)を、
バゾプレッシンの代わりに測定することが試みられ、
バゾプレッシンの測定より安定していることから、
そちらが主流になりつつあります。

今回の研究では、
イギリスにおける心疾患の疫学データを活用して、
高齢の男性における、
糖尿病の発症とコペプチン濃度との関連を検証しています。

対象となっているのは、
登録の時点では糖尿病を発症していない、
60から79歳の男性3226名で、
13年間の経過観察を行ない、
その間に253名が糖尿病を発症しています。

コペプチン濃度は腎機能低下やインスリン抵抗性、
腹囲や高血圧、中性脂肪や肝機能の数値と相関していて、
その一方血糖値とは相関はしていませんでした。
コペプチン濃度が高値のグループ
(濃度を5分割してその一番高い群)は、
糖尿病のその後の発症と有意に相関していて、
そのリスクは他の多くの糖尿病の危険因子を除外しても、
独立して有意な相関を示していました。
コペプチン濃度と最も関連が深かったのは、
インスリン抵抗性でした。

要するにコペプチン濃度が高いこと、
すなわちバゾプレッシンの分泌の亢進は、
インスリン抵抗性の上昇共に認められる現象で、
糖尿病の予測因子の1つである可能性が高い、
ということになります。

このバゾプレッシンの分泌亢進が、
インスリン抵抗性の原因であるのか結果であるのかは、
現時点では明らかでありませんが、
体液の調節と代謝とがこのように関連しているという現象は、
非常に興味深く、
今後のメカニズムを含めた検証を待ちたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(11)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 11

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0