SSブログ

妊娠中の鉄欠乏治療ガイドライン(2015年アメリカ版) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は金曜日でクリニックは休診です。
ただ、老人ホームとグループホームの診療があるので、
昼にはそちらに出掛ける予定です。
夜はサンシャイン劇場で、
宅間孝行の「くちづけ」を観ます。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
妊娠中の鉄補充ガイドライン.jpg
今年のAnnals of Internal Medicine誌に掲載された、
妊娠中の女性の鉄欠乏の診断と治療についての、
アメリカのガイドラインの解説です。

日本のガイドラインとも対比する形で、
整理して考えてみたいと思います。

鉄分は赤血球のヘモグロビンという、
身体に酸素を運ぶタンパク質の構成成分なので、
鉄分が不足すると、
赤血球が充分に造れなくなり、
赤血球の大きさは小さくなって、
その数も減ります。

これが鉄欠乏性貧血です。

貧血は軽度であれば、
特に症状はありませんが、
高度になれば身体は酸素不足になりますので、
息切れや動悸などの症状が起こります。

妊娠時には血液は希釈される(薄くなる)ので、
それだけでも数値は貧血に傾きますが、
それに加えて胎児にも鉄分が必要ですから、
通常よりも鉄の必要量は増え、
鉄欠乏貧血は起りやすくなります。

しかし、上記ガイドラインによれば、
アメリカにおいても、
妊娠中の貧血の頻度については、
新しく信頼のおけるデータはないようです。

古いアメリカのデータによると、
妊娠初期の貧血の頻度は1.8%で、
それが妊娠後期になると、
27.4%に増加します。

全身の鉄貯蔵量のデータからの推計では、
妊娠中の女性の18.6%が鉄欠乏の状態にあり、
その頻度は妊娠初期には6.9%ですが、
妊娠後期には29.5%に増加します。

問題はこの貧血が、
母体と胎児に悪影響を及ぼすかどうか、
ということです。

古い観察研究のデータによると、
胎児への悪影響は、
妊娠初期の貧血では認められるが、
妊娠後期の貧血では関連は認められない、
とされています。
ただ、データは限られていて、
実際に鉄欠乏に対して鉄の補充を行なうことにより、
母体や胎児の妊娠中や妊娠後の経過に、
良い影響が認められたことを示す、
精度の高いデータは存在していない、
と上記ガイドラインには記載されています。

つまり、
お母さんに貧血が認められて、
それが鉄剤の使用によって改善したとしても、
そのことの効果については、
しっかりとは証明されていないのです。

貧血の基準値は、
上記ガイドラインでは具体的に示されてはおらず、
通常の貧血の基準値を用いて、
問題はないと書かれています。

日本鉄バイオサイエンス学会の、
「鉄剤の適正使用による貧血治療指針(第2版)」によると、
日本においては、
妊娠初期(9週未満)でヘモグロビンが11.0g/dl未満を貧血とし、
妊娠9週以上では、
血液の希釈を念頭において、
MCV(赤血球の大きさの指標)が85未満と小さいことが要件となり、
85以上では9.0g/dl未満を精査対象としています。

概ね9週未満でヘモグロビンが11.0未満であれば、
鉄剤の使用を開始するという方針で、
これは前述の妊娠初期の貧血はリスクが高い、
という古いデータを前提としていることが分かります。

アメリカでは、
通常妊娠されている女性には、
1日30ミリグラム程度の鉄剤のサプリメントが使用されることが多く、
明確に鉄欠乏性貧血が診断されれば、
1日60から120ミリグラムの鉄剤の処方が行われます。
それで効果が不十分でれば、
鉄剤の注射も検討されます。

しかし、この方針は科学的根拠には乏しく、
今回のガイドラインにおいては、
強く推奨はされていません。

要するに鉄分を妊娠中にどれだけ多く摂れば、
お子さんにとって充分であるかはまだ不明と考えた方が良く、
特に妊娠中期以降に初めて診断されるような貧血については、
それが高度でなければ治療を要しないことが多いようです。
その一方で、古い精度の低いデータしかないのが難点ですが、
妊娠初期のヘモグロビンが11を切る貧血は、
胎児への悪影響が否定出来ないので、
現状は鉄剤を使用する方が妥当だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
nice!(13)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 13

コメント 0

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0