唐十郎「ジャガーの眼2008」(日本の30代版) [演劇]
こんにちは。
石原藤樹です。
今日は1日ヒーヒーしながら事務作業をしていて、
昼も夜も良く分からないような不穏な感じです。
それでもチケットを取っていたものですから、
午後はこちらに行って来ました。
唐先生の旧作「ジャガーの眼」を、
木野花が演出し、
劇団の垣根を越えた、
気鋭の30代の役者さんのユニットでの上演が、
今下北沢の駅前劇場で本番を迎えています。
唐先生の「ジャガーの眼」は、
状況劇場時代に初演され、
唐組でも何度も再演がされた演目です。
再演の度に台本にも手が入れられていて、
今回のものは2008年に上演され「唐組熱狂集成」に収録された、
2008年の改訂版が採用されています。
狂言回し的な田口という役割を、
初演から長く唐先生自身が演じていたのですが、
このヴァージョンでは唐先生は「闇坂」という、
新たに書かれた役柄を演じています。
これはまあ、何と言うのでしょうか、
「あっ、初演のビデオを見てるな」
と分かるような、
唐演出をリスペクトしたような芝居もちょっとあり、
トータルにはもうちょっと小奇麗な、
やや素人っぽい演出がされています。
80年代の頃に渡辺えり子(当時)さんが、
劇団300でされていた芝居のような感じです。
彼女の当時のお芝居は、
唐先生の影響が顕著で、
それがちょっとポエジーで奥ゆかしい感じになっていたのです。
役者さんは非常に充実しているので、
お芝居自体は素人仕立てですが、
見応えはあります。
普通絶対キャスティングはされない、
平岩紙さんの唐芝居のヒロインが観られるだけでも、
とても贅沢な気分になりますし、
ヒロインでありながら、
その他大勢も何役もこなす怪演で楽しめます。
少路勇介さんのDr弁というのも凄いでしょ。
最後はちょっと息切れを感じましたが、
2幕の唐芝居をのままの怪演は、
とても楽しく観劇しました。
原作は3幕劇ですが、
今回の上演では幕間は取らず、
カットはしないで2時間の尺に収めています。
初演の音効は丁度公開されていた、
映画の「キリングフィールド」がガンガン掛かるのですが、
今回はそれは使用せず、
繰り返しの音効や、
個々のキャストのテーマ曲を、
ワーグナーのライトモチーフみたいに流す、
唐先生の音効はあまり使いません。
劇中歌は初演のものをそのまま使用し、
編曲は変えて、
ギターなどの生楽器も交えて歌っています。
小道具はオリジナルより可愛く出来ていて、
アングラ好きからすると、
ちょっと残念さはあるのですが、
それなりに上手く機能しています。
良い点から言うと、
戯曲のセリフを非常に大事にしていて、
唐先生自身の演出では、
独特の勢いの中で埋没されてしまう細部に、
意外に面白い部分があることが分かります。
役者は皆分をわきまえた快演です。
きちんとボイスコントロールのされた歌唱が、
なかなか新鮮です。
ただ、それなら面白かったかと言うと、
そこは微妙なところです。
この芝居を普通のお芝居のように演じると、
特に後半は動きが少なく、
キャストが揃って不毛で自分勝手な議論を続けているだけ、
というように見えます。
舞台に実際にはあまり動きがなく、
セリフも多くは観念的で交わりに乏しいものであるのを、
奇矯な登場人物の登場や、
人目を惹き付ける個性的な台詞廻しとアクション、
執拗で過剰な音効と照明、
時に人物以上に存在感を持つ舞台装置などで、
あれよあれよと見せ切ってしまうのが、
唐先生の芝居のマジックです。
それは魅力のある反面、
もっと正当的な演出をすれば、
違った魅力があるのではないか、
という考えを抱かせるのですが、
実際にはそうした唐芝居の読み替えが、
上手く機能した事例を、
僕は殆ど知りません。
今回の舞台も、
前半はかなり上手くその辺をクリアしていましたが、
後半はかなり退屈で、
キャストが棒立ちで話をしているだけ、
というような印象になっていて、
ラストはテントのような屋台崩しは望むべくもなく、
みんなで舞台に出て来て歌を歌って終わり、
という脱力的なものになっていました。
これじゃガッカリです。
僕はこの芝居を6パターンくらいで観ていると思いますが、
矢張り状況劇場の初演が、
色々と欠点は合っても、
最もこの作品を光り輝くものにしていたと思いました。
唐先生の戯曲は、
唐先生の演出を含む1つの様式を、
離れたところでは成立し難いもののようです。
それでは今日はこのくらいで。
もうおやすみなさい。
石原がお送りしました。
石原藤樹です。
今日は1日ヒーヒーしながら事務作業をしていて、
昼も夜も良く分からないような不穏な感じです。
それでもチケットを取っていたものですから、
午後はこちらに行って来ました。
唐先生の旧作「ジャガーの眼」を、
木野花が演出し、
劇団の垣根を越えた、
気鋭の30代の役者さんのユニットでの上演が、
今下北沢の駅前劇場で本番を迎えています。
唐先生の「ジャガーの眼」は、
状況劇場時代に初演され、
唐組でも何度も再演がされた演目です。
再演の度に台本にも手が入れられていて、
今回のものは2008年に上演され「唐組熱狂集成」に収録された、
2008年の改訂版が採用されています。
狂言回し的な田口という役割を、
初演から長く唐先生自身が演じていたのですが、
このヴァージョンでは唐先生は「闇坂」という、
新たに書かれた役柄を演じています。
これはまあ、何と言うのでしょうか、
「あっ、初演のビデオを見てるな」
と分かるような、
唐演出をリスペクトしたような芝居もちょっとあり、
トータルにはもうちょっと小奇麗な、
やや素人っぽい演出がされています。
80年代の頃に渡辺えり子(当時)さんが、
劇団300でされていた芝居のような感じです。
彼女の当時のお芝居は、
唐先生の影響が顕著で、
それがちょっとポエジーで奥ゆかしい感じになっていたのです。
役者さんは非常に充実しているので、
お芝居自体は素人仕立てですが、
見応えはあります。
普通絶対キャスティングはされない、
平岩紙さんの唐芝居のヒロインが観られるだけでも、
とても贅沢な気分になりますし、
ヒロインでありながら、
その他大勢も何役もこなす怪演で楽しめます。
少路勇介さんのDr弁というのも凄いでしょ。
最後はちょっと息切れを感じましたが、
2幕の唐芝居をのままの怪演は、
とても楽しく観劇しました。
原作は3幕劇ですが、
今回の上演では幕間は取らず、
カットはしないで2時間の尺に収めています。
初演の音効は丁度公開されていた、
映画の「キリングフィールド」がガンガン掛かるのですが、
今回はそれは使用せず、
繰り返しの音効や、
個々のキャストのテーマ曲を、
ワーグナーのライトモチーフみたいに流す、
唐先生の音効はあまり使いません。
劇中歌は初演のものをそのまま使用し、
編曲は変えて、
ギターなどの生楽器も交えて歌っています。
小道具はオリジナルより可愛く出来ていて、
アングラ好きからすると、
ちょっと残念さはあるのですが、
それなりに上手く機能しています。
良い点から言うと、
戯曲のセリフを非常に大事にしていて、
唐先生自身の演出では、
独特の勢いの中で埋没されてしまう細部に、
意外に面白い部分があることが分かります。
役者は皆分をわきまえた快演です。
きちんとボイスコントロールのされた歌唱が、
なかなか新鮮です。
ただ、それなら面白かったかと言うと、
そこは微妙なところです。
この芝居を普通のお芝居のように演じると、
特に後半は動きが少なく、
キャストが揃って不毛で自分勝手な議論を続けているだけ、
というように見えます。
舞台に実際にはあまり動きがなく、
セリフも多くは観念的で交わりに乏しいものであるのを、
奇矯な登場人物の登場や、
人目を惹き付ける個性的な台詞廻しとアクション、
執拗で過剰な音効と照明、
時に人物以上に存在感を持つ舞台装置などで、
あれよあれよと見せ切ってしまうのが、
唐先生の芝居のマジックです。
それは魅力のある反面、
もっと正当的な演出をすれば、
違った魅力があるのではないか、
という考えを抱かせるのですが、
実際にはそうした唐芝居の読み替えが、
上手く機能した事例を、
僕は殆ど知りません。
今回の舞台も、
前半はかなり上手くその辺をクリアしていましたが、
後半はかなり退屈で、
キャストが棒立ちで話をしているだけ、
というような印象になっていて、
ラストはテントのような屋台崩しは望むべくもなく、
みんなで舞台に出て来て歌を歌って終わり、
という脱力的なものになっていました。
これじゃガッカリです。
僕はこの芝居を6パターンくらいで観ていると思いますが、
矢張り状況劇場の初演が、
色々と欠点は合っても、
最もこの作品を光り輝くものにしていたと思いました。
唐先生の戯曲は、
唐先生の演出を含む1つの様式を、
離れたところでは成立し難いもののようです。
それでは今日はこのくらいで。
もうおやすみなさい。
石原がお送りしました。
2015-08-30 22:28
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コメント(5)
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初めまして。唐十郎ジャガーの眼を検索中blogを拝見!懐かしーッ!とはいえジャガーの眼はビデオでしか観ておらず(しかも画質悪く見ずらいモノで)生の熱気は伝わりません。リアル唐・紅テントは観た事無しで残念です。blogまだ3つ位しか拝見して無いのですがとても興味深いです!na面白いですね!
by 十月の旅人 hiroshima (2016-10-03 21:39)
十月の旅人さんへ
あれはテレビで全編が放映されたものとしては、
唯一の状況劇場の舞台だと思います。
紅テントの芝居として、
スケール感があった最後の作品かも知れません。
寺山修司の芝居もそうですが、
後継者的な劇団は存在していても、
本家の感じとは基本的に別物だと思います。
by fujiki (2016-10-03 23:26)
お返事もらえるとは感謝です。必要に駆られてタブレット1年前手にしたもので未だ上手く使いこなせていない時代遅れの私。20代、2年に1度の黒テント広島公演、嗚呼鼠小僧次郎吉、阿部定の犬、夜と夜の夜ーを観たのですが、紅テントを知らないので黒テント追っかけ!阿部定の犬が最高!!でしたね。十月の旅人がポツポツ打ちでコメント致しました。
by 十月の旅人 hiroshima (2016-10-04 20:57)
十月の旅人さんへ
黒テントの「阿部定の犬」は僕が演劇に開眼した1本で、
俳優座の劇場公演した観ていませんが、
斎藤晴彦さんの写真師の台詞などは、
今でも殆ど覚えています。
大学時代に学生劇団で上演して春男を演じたのも思い出です。
鼠小僧次郎吉をご覧になられたのは本当に羨ましいです。
by fujiki (2016-10-04 22:41)
斎藤晴彦さんも今は亡く、過ぎ去る人はより懐かしく・・・しんみりです、秋の日のヴィオロンの・・・。「春男ー役」なんと元演劇少年!ジャガーの眼、始まってしばらくすると、ボビー・ソロ頬にかかる涙♪をBGMに回る洗濯機から天下一の役者・唐十郎があの不敵な笑みを浮かべ登場したーと記憶。阿部定の犬ー終盤のクライマックス、テント左側がバッといっきにまくられると舞台は広島大学校庭、その暗闇に燃え盛るタイマツ、左手に2・26青年将校が佇み右手に拳銃を持つ阿部定(新井純です)聞き取りにくいセリフの応酬の後阿部定の銃が火を噴く!青年将校に向かって。こんなだった記憶。ストーリー理解は苦手でした、シーンが鮮烈、エネルギーがすごかったです。
by 十月の旅人 hiroshima (2016-10-05 13:43)