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地中海ダイエットの認知機能への効果 [医療のトピック]

こんにちは。
石原藤樹です。

今日は石原が健診説明会出席のため、
午後の診療は5時半で終了とさせて頂きます。
受診予定の方はご注意下さい。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
地中海ダイエットの認知症への効果.jpg
JAMA Intern Med.誌に今年の5月ウェブ掲載された、
「地中海ダイエット」と呼ばれる食事療法の、
認知機能低下の予防効果を検証した論文です。

これは2013年4月のNew England…誌に、
心血管疾患の一次予防効果を検証した論文として掲載されたものと、
同じデータを認知機能に絞って解析したものです。

地中海ダイエットと言うのは、
地中海沿岸の地方で、
心臓病の死亡率が低いことに注目して発案され、
1960年代から提唱されている食事療法です。

その内容は、
オリーブオイルや魚介類、果物やナッツ、野菜を多く摂り、
その一方で赤身の肉や肉の脂身、
卵や乳製品、バターや生クリームなどは制限する、
という食事法です。
アルコールはワインが推奨されています。

この地中海ダイエットが、
心筋梗塞や脳卒中の予防効果を有するのではないか、
という考えは以前からあり、
これまでに観察研究のデータや、
心筋梗塞を起こした患者さんの再発予防のデータは存在していましたが、
まだそうした発作は起こしてはいないけれど、
起こすリスクの高いような方においての、
予防効果について精度の高い研究は、
最近まであまり存在していませんでした。

その点で画期的であったのが、
前述の2013年のNew England…に掲載された論文です。
これはスペインにおいて、
7447名の心筋梗塞や脳卒中のリスクが高い方を、
ほぼ2500名ずつの3つの群に分け、
1つの群はコントロールとして、
低脂肪の指導のみを行ない、
もう1つの群は通常の地中海ダイエットに、
エクストラヴァージンオリーブオイルを強化し、
3つ目の群ではオリーブオイルではなくナッツを増やして、
その後の経過を観察したものです。

試験はもっと長期間の予定でしたが、
明確な差が付いたために、
平均観察期間が5年弱の段階で中途終了となっています。

その結果はどのようなものだったのでしょうか?

心筋梗塞や脳卒中の発症とそれによる死亡は、
トータルで288名に発症し、
内訳はコントロール群で109件に対して、
オリーブオイル強化の地中海ダイエットでは96件、
ナッツ強化の地中海ダイエットでは83件となり、
いずれもコントロールと比較して、
ほぼ30%の相対リスクの低下を有意に認めました。

興味深いことには、
このリスクの低下は、
心筋梗塞よりもより脳卒中において多く見られ、
脳卒中のリスクの低下は、
40%に達していました。

脳卒中の発症予防に、
これだけ明確な差のついた食事療法のデータというものは、
これまでに存在しなかったと思います。

さて、今回ご紹介する論文では、
今度は認知機能低下の予防効果を見る目的で、
この研究の対象者のうち、
詳細な認知機能検査を行ない、
その結果が正常であった447名(平均年齢66.9歳)を選択し、
主試験と同じように、
コントロールとオリーブオイル強化の地中海ダイエット群、
そしてナッツ強化の地中海ダイエット群の3つにくじ引きで振り分け、
平均で4.1年の経過観察を行なっています。

観察期間の前後で、
再度認知機能検査を行ない、
その群間の比較を行なっているのです。

使用されている認知機能検査は、
認知症の診断に広く使用されているMMSE(ミニメンタルテスト)以外に、
RAVLT(レイ聴覚性言語学習検査)や、
カラートレイルテストなどが含まれています。

RAVLTというのは、
15個の言葉を覚えてもらい、
記憶の機能を見ると共に、
学習の効果を見る、というタイプの試験です。

カラートレイルテストというのは、
数字をまず順番に線で結ぶタスクを、
なるべく早く行なう、というのがパート1で、
数字に2種類の色分けがあり、
それを交互に選んで結んでゆく、
というタスクをこれもなるべく早く行なう、
というのがパート2です。
パート1はルールを守って作業を行なう能力を計測し、
パート2は色を交代せずに結ぶ、
という行為を抑制しながら作業を行なう、
というより高次の実行機能が要求されるのです。

その結果…

RAVLTとカラートレイルテストのパート2の成績は、
コントロールと比較して、
オリーブオイル強化の地中海ダイエット群では、
有意にその低下が抑制されていました。
つまり、認知機能の低下が予防されていた、
ということになります。

幾つかの試験データを統合し、
記憶機能と前頭葉機能、そして認知機能全般に、
データを分類してスコア化し比較したところ、
記憶機能ではコントロール群と比較して、
ナッツ強化の地中海ダイエットで有意に改善していて、
前頭葉機能では、
オリーブオイル強化の地中海ダイエット群で、
矢張り有意に改善、
認知機能全般では、
オリーブオイル強化の地中海ダイエットでのみ、
有意な改善効果が認められました。

この観察期間中に、
認知症を発症した対象者は1人もいませんでしたが、
軽度認知機能低下(MCI)は、
コントロール群の12.6%、
オリーブオイル強化の地中海ダイエット群の13.4%、
ナッツ強化の地中海ダイエット群の7.1%で認められていて、
群間の差はありませんでした。

認知症診断のための検査であるMMSEの数値は、
全ての群で、
平均すると若干の低下を示しています。

つまり、
個別のデータでは、
個別の機能において、
食事による改善が認められるのですが、
トータルに見ると、
どの群でも認知機能は低下傾向にはあり、
群間にその予後においては、
明瞭は差は見られていない、
ということになります。

この結果は地中海ダイエットに、
一定の認知機能低下の予防効果があることを示唆するもので、
その意味では画期的なものだと思います。

ただ、観察期間は4年強程度と短く、
顕性の認知症の発症はゼロなので、
果たしてより長期の観察期間を設定すれば、
認知症が予防出来たかどうかは、
明確ではありません。

今後より長期の観察において、
実際に病気としての認知症が、
予防可能であるのかの検証が、
是非必要なように思います。

現状では向かうところ敵なしの感のある、
最強の食事療法である地中海ダイエットですが、
認知機能低下を予防する、
と言い切るにはまだ道のりは平坦ではないようです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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