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ピオグリタゾン(アクトス)の発癌リスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
石原藤樹です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
アクトスの癌リスク.jpg
今年のJAMA誌に掲載された、
ピオグリタゾンという糖尿病治療薬の、
発癌リスクについての論文です。

ピオグリタゾン(商品名アクトスなど)は、
インスリンの効きを良くする薬として、
むしろ国外でその評価が高く、
欧米のガイドラインにおいても、
メトホルミンに次ぐ第二選択くらいの位置にあります。

ただ、この薬の大きな問題は、
発売当初から、
膀胱癌のリスクを上昇させるのでは、
という危惧があったということです。

これはまず発売前の動物実験において、
オスのラットの膀胱癌の発症が増加した、
という知見から始まっています。
ただ、メスのラットではそうした結果はなく、
同じネズミの仲間であるマウスでも再現されませんでした。

2003年にアメリカのFDAは、
ピオグリタゾンによる膀胱癌の発症について、
発売後10年間の観察研究を指示しました。

その5年間の時点での中間解析の結果では、
トータルにはピオグリタゾンの使用と、
膀胱癌の発症との間には、
有意な関係は認められませんでした。
ただ、2年を超えて使用している患者さんに限ると、
1.4倍という若干ですが有意な、
膀胱癌リスクの増加が認められました。
この結果を受けてFDAは、
ピオグリタゾンのラベルに、
その点の記載を求めています。

今回のデータはその観察研究をより延長し、
平均で7.2年の解析を行なった結果です。
膀胱癌のみではなく、
全部で10種類の癌のリスクが解析されています。

その結果…

193099名の膀胱癌の患者さんが対象となり、
そのうちの18%に当たる34181名が、
ピオグリタゾンを使用していました。
平均の使用期間は2.8年です。
幾つかの別個の解析を行なった結果として、
ピオグリタゾンの使用者では、
若干膀胱癌の発症率が高い傾向がありましたが、
その差は有意なものではありませんでした。

その一方で、
ピオグリタゾンの使用者では、
前立腺癌のリスクが1.13倍、
膵臓癌のリスクが1.41倍、
それぞれ有意に高いという結果が得られました。

今回の結果をどのように考えれば良いのでしょうか?

膀胱癌のリスクに関して言うと、
その若干のリスクの増加は、
否定は出来ないのですが、
因果関係を証明出来るような性質のものではなさそうです。

前立腺癌と膵臓癌のリスク増加については、
気になるところですが、
今回初めての知見であり、
いずれの癌も多くの危険因子の影響を受けるので、
まだ明確に関連があると、
断定出来るようなものではないと思います。

ただ、ピオグリタゾンのこれまでの経緯を見ると、
その継続的な使用により、
若干の発癌誘発があることには、
一定の蓋然性があるので、
処方の時点で医療者と患者の双方において、
一定の認識を共有した上で、
その処方を行なうことが必要であるように思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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