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木村多江ひとり芝居「エンドロール」(トム・プロジェクト) [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は日曜日で診療所は休診です。
色々と用事が山積みの上、
体調も悪くて早く起きてしまいました。

休みの日は趣味の話題です。
今日は演劇の2本立てです。

最初はこちら。
エンドロール.jpg
ひとり芝居の上演を続けている、
トム・プロジェクトが、
今回は木村多江さんを主役に、
ひょうたさんの戯曲とTRASH MASTERSの中津留さんの演出で、
「エンドロール」という舞台を、
赤坂REDシアターで上演しました。

ひとり芝居というのは難しいジャンルで、
あまり成功した事例が多くはありません。

僕が観ていて思い付く範囲では、
加藤健一が有名にした「審判」や、
井上ひさしが渡辺美佐子に書き下ろした「化粧」、
くらいしか、
古典的な作品として成功と思えるものはありません。
両者とも一種の「語りの芸」が主軸にあり、
それ以外の無駄な要素は、
最小限度に切り詰められています。
野田秀樹の「障子の国のティンカーベル」は、
ピーターパンの死後にウェンディーが、
ピーターパンの仮装で1人2役をする、
という野田さんらしい天才的な戯曲ですが、
マペットなどが登場しないと上演が困難なので、
純粋な1人芝居とは言い難い気がします。
松尾スズキさんの「生きちゃってどうすんだ」は、
観た方は全員絶賛する傑作ですが、
頻回に映像を挟み、
そこではゲストが沢山出演するという点で、
これも純粋なひとり芝居とは言い難いものでした。

落語や講談はひとり芝居ですから、
そうした語り芸であれば問題はないのです。
ただ、それでは、何故芝居でなければならないのか、
と言う点が問題になります。
その一方で語り芸の素養のない演技者が、
ひとり芝居に挑戦する、と言う場合には、
その方法はかなり限定されてしまいます。

今回の木村さんの舞台は、
本人以外の登場人物が「透明人間」として登場する、
という、時々見られる趣向になっています。

木村さんに語りの芸は期待出来ないので、
仕方のない選択肢なのかな、と思いましたが、
もう少し工夫があっても良いようには感じました。

作品は極めて無難な感じのもので、
それなりに木村さんの良さは出ていましたし、
演出もソツなくまとめていましたが、
やや食い足りない感じの残る芝居ではありました。

以下ネタバレを含む感想です。

主人公はアラフォーの女性で、
映画が好きで、映画の配給会社に就職が決まった時に、
以前から付き合っていた恋人から求婚されます。
結婚を迷っているところに、
職場では社長にひいきされているのではないか、
というやっかみが寄せられます。
確かに社長は主人公を特別視しているようです。
彼女の父親は脱サラして映画館を経営していたのですが、
休館の止む無きに至り、
その買収を会社の社長がしていました。
要するに会社の社長と父親とは、
かつての映画好きの同士で、
母親とも浅からぬ因縁があったことが分かります。

ラストでミニシアターに呼び出された主人公は、
その顛末を知り、
恋人とも結婚を決めると、
一緒に2人だけで「風と共に去りぬ」を観て終わります。

このベタな物語を、
まずはレストランでの求婚の場面から、
木村多江さんが1人で演じ、
誰も座っていない椅子に向かって話し掛けます。

意外に小劇場的な小技も披露しますし、
途中で「ムーンリバー」を歌います。
後半では1人の男性に対して、
自分の心情を切々と訴える長い場面もあり、
その辺りはドラマでの彼女の演技の、
そのものを見ることが出来ます。
衣装も何度も替えますし、
そんな訳で「木村多江ワンマンショー」としては、
まずまずの仕上がりになっています。

ただ、話はあまりにひねりがない、
という気がします。
こういうのは三谷幸喜さんが書けば、
もっとニヤリとするような小ネタも入れ、
見えないけれど印象に残る登場人物を描いたりもするところですが、
そうした遊びやひねりはまるでなく、
正攻法の「あしながおじさん」物語ですし、
題材となっている映画も、
「ティファニーで朝食を」や「風と共に去りぬ」など、
かなりベタな選択で、
せっかくの映画ネタなのに、
食い足りない感じが残ります。

中津留さんの演出は、
曲線で表現した舞台が面白く、
タイトルロールとエンドロールを映画で流すのも洒落ています。
ただ、映像の質は低いのでガッカリしますし、
それ以外はあまりに安全運転という感じがしました。
もう少し遊びがあっても良かったと思います。
ただ、木村さんの芝居の活かし方は、
さすがに心得ている感じがあって、
社長に談判する場面で、
全く動きなく台詞を語らせた辺りは、
センスを感じました。

木村さんは演技好きなところと、
カーテンコールの喋りに醸し出される、
まったりとした雰囲気が好印象で、
映像でも見せるような切々とした語りが良かったと思います。
小劇場的な小芝居も色々と披露していて、
それはそれで微笑ましい感じはしましたが、
藝として成立している感じではありませんでした。

それでは2本目の記事に続きます。
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コメント 2

みぞれ

はじめまして、たびたびブログ拝見しておりました。見た芝居が結構かぶっているので気になっています、九州在住の医師です。
エンドロールは地方で観劇しましたが…ひとり芝居、難しいですよね。

どこかの劇場ですれ違うこともあるかもしれないと勝手にドキドキしております。これからもエントリー楽しみにしております。
by みぞれ (2015-06-29 21:33) 

fujiki

みぞれさんへ
コメントありがとうございます。
芝居は好きなのですが、
面白いことは少ないですね。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2015-06-30 06:04) 

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