日本総合悲劇協会「不倫探偵~最後の過ち~」 [演劇]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日2本目の記事も演劇の話題です。
それがこちら。
松尾スズキさんと天久聖一さんが2度目のタッグを組んで、
2人で作・演出に当たり、
片桐はいりや平岩紙、皆川猿時など、
最強と言って良いキャストを揃えた新作公演が、
今下北沢の本多劇場で上演中です。
最近の松尾さんは、
かなり分かり易さを志向していて、
今回の作品もその路線を踏んでいます。
しかし、天久さんのサポートがなければ、
ここまで起承転結のきっちりした、
完成度の高い舞台にはならなかったと思うので、
そのコラボは松尾さんの芝居の弱点を、
上手く補っていたと思います。
ただ、2人のコラボが前作の松尾さんのひとり芝居では、
本当に抜群の成果を挙げていたのですが、
今回の作品は全体に予定調和的で、
最強キャストの怪演も、
想定内の感じのものだったので、
「普通のお芝居」の枠に留まるもので、
物足りなさを感じたことも事実です。
作品世界もアメコミ映画の「シン・シティ」みたいな雰囲気で、
架空の町でのハードボイルド劇という、
閉じた世界の中で完結していて、
何処と言って、
突き抜けたところがなく、
あまりヴィヴィットな感じもありませんでした。
以下ネタバレを含む感想です。
舞台は架空の町で暗黒街があり、
そこで主人公の松尾さんが演じる「不倫探偵」を中心に、
不倫探偵の過去の因縁も絡めた、
怪事件が勃発します。
松尾さん演じる不倫探偵、罪十郎は、
10人を殺して電気椅子で死刑になった、
罪一郎という犯罪者の息子で、
元は警察官です。
伊勢志摩演じる彼の妻は、
罪一郎の犠牲者の娘で、
復讐のために十郎と結婚し、
人狼病(要するに狼男になる病気)の、
皆川猿時演じる浮浪者に抱かれ、
女の子を身ごもると、
十郎の元から姿を消し、
やがて死体で見付かります。
ショックを受けた十郎は、
警察を止め、
不倫されている人妻の依頼のみを受け、
その人妻と自分が不倫する、
という不倫専門の「不倫探偵」になるのです。
物語はこの不倫探偵の元に、
平岩紙扮する人妻が相談に訪れるところから始まります。
近藤公園演じる彼女の夫は不倫をしていると、
十郎に彼女は訴え、
その場で十郎と不倫をして一夜を過ごします。
と、翌日かつてのパートナーだった、
片桐はいり演じる全身真っ赤の刑事が、
十郎の元を訪れ、
隣室で男が殺されている、と告げます。
殺されていたのは平岩紙の夫で、
その部屋のトイレからは、
二階堂ふみ演じる風俗嬢が現れます。
実はその風俗嬢は十郎の妻の娘で、
殺人事件には復讐に燃える十郎の亡き妻の兄と、
風俗嬢の父でもある、
人狼病の浮浪者が絡んでいることが明らかになり、
錯綜した謎が次第に過去の悲劇と結び付いて行きます。
これまでの松尾さんの戯曲からすると、
内容が拡散するのを抑えた、
少人数の因縁と愛憎とで小さく完結された世界です。
十郎の妻の設定などは、
時空を超えた復讐劇で、
如何にも松尾さん好みのキャラなのですが、
最終的には生死の狭間で十郎ともう一度出会って、
和解してしまう、というラストになっていて、
まとまりは良いのですが、
何かあっさりし過ぎているという気がします。
元ネタの「シン・シティ」でも、
町を牛耳る大物などが出て来るのですが、
この作品ではそうしたこともなく、
全てが数人の因果だけで、
極私的に完結するような構造になっているので、
それならただの家庭劇の方が良かったのではないか、
というようにも思えるのです。
キャストはこれだけのメンバーが揃っているので、
勿論見応えはあるのですが、
個々のメンバーのかつての怪演の数々から考えると、
迫力も面白みも、
今回はそれほどではなかったように思います。
意外性にも乏しい感じがありました。
一番キャストで問題を感じたのは、
ゲストの二階堂ふみさんで、
彼女は岩松了の「不道徳教室」でも、
独特の存在感と緊張感でしたから、
今回も期待したのですが、
よくあるアイドルのゲスト出演的な扱いで、
可愛い恰好をして、
歌と踊りもあって、
下手な台詞もご愛嬌という役柄だったので、
個人的にはかなり失望しました。
彼女自身も乗っているようには思えませんでしたが、
どうしてこのような役柄になったのでしょうか?
もう少し大芝居の出来る素材だと思うので、
もっと別の役柄であるべきではなかったのでしょうか?
何か大人の事情があるのかも知れませんが、
正直ガッカリでした。
色々と小ネタがあり、
全てを捕捉は出来ませんでしたが、
それなりに楽しめました。
松尾さんの美輪さんもどきの歌が、
もう一度聴けたのは嬉しかったです。
ラストにヒッチコックの「裏窓」になったり、
あまり意図がはっきりしないものもありました。
舞台は非常に贅沢な作りで、
3つの場面がグルグル入れ替わる、
本格的な廻り舞台を中央に配し、
鉄骨のような額縁がその外に聳えています。
最近は誰でも使う感じのプロジェクションマッピングも、
かなり本格的に高レベルのものが使われていました。
それですから、
もう少しスケールの大きな芝居にした方が、
良かったのではないかと思いますし、
その逆を行くなら、
もっとミニマルでドロドロした家庭劇に落とし込んだ方が、
それはそれで良かったのではないかと思いました。
舞台のクオリティとキャストの豪華さと比較して、
ストーリーと展開が、
こじんまりとし過ぎているように感じたのです。
ただ、松尾さんと天久さんのコンビが最強であることは間違いがなく、
今後のこのコンビでの芝居を期待したいと思いますし、
次回はもう少し破格なものをやってい欲しいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
六号通り診療所の石原です。
今日2本目の記事も演劇の話題です。
それがこちら。
松尾スズキさんと天久聖一さんが2度目のタッグを組んで、
2人で作・演出に当たり、
片桐はいりや平岩紙、皆川猿時など、
最強と言って良いキャストを揃えた新作公演が、
今下北沢の本多劇場で上演中です。
最近の松尾さんは、
かなり分かり易さを志向していて、
今回の作品もその路線を踏んでいます。
しかし、天久さんのサポートがなければ、
ここまで起承転結のきっちりした、
完成度の高い舞台にはならなかったと思うので、
そのコラボは松尾さんの芝居の弱点を、
上手く補っていたと思います。
ただ、2人のコラボが前作の松尾さんのひとり芝居では、
本当に抜群の成果を挙げていたのですが、
今回の作品は全体に予定調和的で、
最強キャストの怪演も、
想定内の感じのものだったので、
「普通のお芝居」の枠に留まるもので、
物足りなさを感じたことも事実です。
作品世界もアメコミ映画の「シン・シティ」みたいな雰囲気で、
架空の町でのハードボイルド劇という、
閉じた世界の中で完結していて、
何処と言って、
突き抜けたところがなく、
あまりヴィヴィットな感じもありませんでした。
以下ネタバレを含む感想です。
舞台は架空の町で暗黒街があり、
そこで主人公の松尾さんが演じる「不倫探偵」を中心に、
不倫探偵の過去の因縁も絡めた、
怪事件が勃発します。
松尾さん演じる不倫探偵、罪十郎は、
10人を殺して電気椅子で死刑になった、
罪一郎という犯罪者の息子で、
元は警察官です。
伊勢志摩演じる彼の妻は、
罪一郎の犠牲者の娘で、
復讐のために十郎と結婚し、
人狼病(要するに狼男になる病気)の、
皆川猿時演じる浮浪者に抱かれ、
女の子を身ごもると、
十郎の元から姿を消し、
やがて死体で見付かります。
ショックを受けた十郎は、
警察を止め、
不倫されている人妻の依頼のみを受け、
その人妻と自分が不倫する、
という不倫専門の「不倫探偵」になるのです。
物語はこの不倫探偵の元に、
平岩紙扮する人妻が相談に訪れるところから始まります。
近藤公園演じる彼女の夫は不倫をしていると、
十郎に彼女は訴え、
その場で十郎と不倫をして一夜を過ごします。
と、翌日かつてのパートナーだった、
片桐はいり演じる全身真っ赤の刑事が、
十郎の元を訪れ、
隣室で男が殺されている、と告げます。
殺されていたのは平岩紙の夫で、
その部屋のトイレからは、
二階堂ふみ演じる風俗嬢が現れます。
実はその風俗嬢は十郎の妻の娘で、
殺人事件には復讐に燃える十郎の亡き妻の兄と、
風俗嬢の父でもある、
人狼病の浮浪者が絡んでいることが明らかになり、
錯綜した謎が次第に過去の悲劇と結び付いて行きます。
これまでの松尾さんの戯曲からすると、
内容が拡散するのを抑えた、
少人数の因縁と愛憎とで小さく完結された世界です。
十郎の妻の設定などは、
時空を超えた復讐劇で、
如何にも松尾さん好みのキャラなのですが、
最終的には生死の狭間で十郎ともう一度出会って、
和解してしまう、というラストになっていて、
まとまりは良いのですが、
何かあっさりし過ぎているという気がします。
元ネタの「シン・シティ」でも、
町を牛耳る大物などが出て来るのですが、
この作品ではそうしたこともなく、
全てが数人の因果だけで、
極私的に完結するような構造になっているので、
それならただの家庭劇の方が良かったのではないか、
というようにも思えるのです。
キャストはこれだけのメンバーが揃っているので、
勿論見応えはあるのですが、
個々のメンバーのかつての怪演の数々から考えると、
迫力も面白みも、
今回はそれほどではなかったように思います。
意外性にも乏しい感じがありました。
一番キャストで問題を感じたのは、
ゲストの二階堂ふみさんで、
彼女は岩松了の「不道徳教室」でも、
独特の存在感と緊張感でしたから、
今回も期待したのですが、
よくあるアイドルのゲスト出演的な扱いで、
可愛い恰好をして、
歌と踊りもあって、
下手な台詞もご愛嬌という役柄だったので、
個人的にはかなり失望しました。
彼女自身も乗っているようには思えませんでしたが、
どうしてこのような役柄になったのでしょうか?
もう少し大芝居の出来る素材だと思うので、
もっと別の役柄であるべきではなかったのでしょうか?
何か大人の事情があるのかも知れませんが、
正直ガッカリでした。
色々と小ネタがあり、
全てを捕捉は出来ませんでしたが、
それなりに楽しめました。
松尾さんの美輪さんもどきの歌が、
もう一度聴けたのは嬉しかったです。
ラストにヒッチコックの「裏窓」になったり、
あまり意図がはっきりしないものもありました。
舞台は非常に贅沢な作りで、
3つの場面がグルグル入れ替わる、
本格的な廻り舞台を中央に配し、
鉄骨のような額縁がその外に聳えています。
最近は誰でも使う感じのプロジェクションマッピングも、
かなり本格的に高レベルのものが使われていました。
それですから、
もう少しスケールの大きな芝居にした方が、
良かったのではないかと思いますし、
その逆を行くなら、
もっとミニマルでドロドロした家庭劇に落とし込んだ方が、
それはそれで良かったのではないかと思いました。
舞台のクオリティとキャストの豪華さと比較して、
ストーリーと展開が、
こじんまりとし過ぎているように感じたのです。
ただ、松尾さんと天久さんのコンビが最強であることは間違いがなく、
今後のこのコンビでの芝居を期待したいと思いますし、
次回はもう少し破格なものをやってい欲しいと思います。
それでは今日はこのくらいで。
皆さんも良い休日をお過ごし下さい。
石原がお送りしました。
2015-06-21 06:29
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