インスリンを飲むことで1型糖尿病は予防出来るのか? [医療のトピック]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
乳幼児期に大量のインスリンを飲ませることによって、
お子さんの身体にどのような変化が起こるのかを検証した文献です。
糖尿病には1型と2型という種類があります。
このうち1型糖尿病は、
HLAという遺伝子の型で、
なり易い体質が存在していて、
そうした体質を持つ方に、
ウイルス感染などの誘因により、
膵臓のインスリン分泌細胞に対する、
自己免疫が形成されて発症する、
というように考えられています。
自己免疫というのは、
自分の細胞を自分で攻撃して、
それを殺してしまう、ということです。
1型糖尿病の場合には、
インスリンを分泌する細胞に対して、
自分のリンパ球などがそれを攻撃することで、
炎症が起こり、急激にインスリン分泌細胞が減って、
身体がブドウ糖を利用出来なくなり、
急激に血糖が上昇して糖尿病を発症します。
その発症は1歳前後でピーク(海外データ)になる、
というほどその経過が早く、
現状は膵臓の移植以外では、
一生インスリンの治療を行なう必要があります。
さて、1型糖尿病は特定のHLA遺伝子を持っている人で、
まずインスリンの分泌細胞やインスリン自体に対する、
自己抗体が誘導され、
それをターゲットとする、
自己反応性T細胞が増殖します。
ただ、同じように自己抗体が出来、
自己反応性T細胞が誘導されても、
糖尿病が発症するお子さんもいますし、
発症しないお子さんもいます。
この差は免疫を制御する制御性T細胞にある、
と考えられていて、
自己反応性T細胞が増殖しても、
それを抑える働きをする制御性T細胞が強力であれば、
糖尿病は臨床的には発症しないと考えられます。
それでは、
制御性T細胞を活性化させる方法はないでしょうか?
1つの考えとしては、
インスリンを大量に身体に反応させることにより、
インスリン刺激に対しての免疫反応を高め、
それによりインスリン抗原に関わる、
制御性T細胞を活性化することが可能なのではないか、
という推論があります。
これはたとえば食物アレルギーや花粉症の時に、
少量の抗原に徐々に身体を慣れさせて、
症状を緩和しよう、という発想に似ています。
動物実験においては、
実際にインスリンを大量に飲むことにより、
1型糖尿病のモデル動物のネズミにおいて、
その発症が予防された、という報告が存在しています。
そして、
1990年代から、
1型糖尿病の発症リスクが高いと想定されるお子さんに対して、
低用量のインスリン注射や、
1日7.5ミリグラムのインスリンを飲み薬として飲むことにより、
1型糖尿病の発症が予防されるかどうかの、
介入試験が行われました。
その結果は2000年代の前半に一旦報告され、
両者とも失敗という結果に終わりました。
インスリンの注射をしても、
飲み薬として飲んでも、
その後の5年以内の1型糖尿病の発症率には、
有意な差は認められなかったのです。
しかし…
その後の追跡調査の解析によると、
経口でインスリンを摂取し続けた場合、
自己抗体が高レベルに存在していても、
1型糖尿病の発症が有意に予防されていることが確認されました。
つまり、
5年程度の解析では明瞭でないレベルではあるけれど、
経口のインスリンの使用により、
一定レベル1型糖尿病の発症が、
予防される可能性が示唆されたのです。
自己抗体が産生された後の効果ですから、
これは制御性T細胞の活性化を介したものと想定されます。
それでは、
実際にインスリンの使用により、
制御性T細胞は本当に増殖するのでしょうか?
今回の研究はその点を検証したもので、
欧米の4カ国において、
HLAのタイプはそのリスクが高いか家族歴があり、
まだ糖尿病は発症しておらず、
膵臓に対する自己抗体も陰性の、
2から7歳のお子さん25名を、
インスリン治療群の15名と、
偽薬の10名に、
本人家族や主治医にも分からないようにくじ引きで分け、
3から18ヶ月の経口インスリン治療の、
免疫に与える影響を検証しています。
例数は少ないのですが、
厳密な研究法が取られています。
経口のインスリンの使用量は、
2.5ミリグラムから開始され、
多いものは67.5ミリグラムまで増量されています。
少量から徐々に増量する、
アレルギーの減感作療法のような方法が取られている事例と、
最初から比較的大量が使用されている事例が混在しています。
インスリン1ミリグラムは概ね24単位くらいに相当しますから、
非常に大量のインスリンが使用されていることが分かります。
基本的には血液中には殆ど入らないので、
低血糖にはならないと想定されますが、
ここまで大量だとないとも言い切れません。
かなり、動物実験に近いような実験なのです。
その結果…
インスリンに対するIgG抗体、
唾液のIgA抗体、
そしてインスリンに反応する制御性T細胞の増殖の、
いずれかが陽性であった比率は、
偽薬では20%であったのに対して、
最大用量の67.5ミリグラム増量群では、
83.3%(6例中5例)と有意に増加していました。
それより少ない用量では有意差はありませんでした。
(この場合の制御性T細胞は、
インスリン抗原に反応して増加する、
CD4陽性のT細胞という意味合いです)
そして、大量のインスリン使用群においても、
低血糖やインスリンに対するIgE抗体、
膵臓に対する自己抗体、糖尿病の発症は、
いずれも認められませんでした。
つまり、
かなり大量のインスリンを飲み続けた時に限って、
インスリンに対する制御性T細胞は増殖し、
低血糖や自己抗体の誘発はなく、
安全に使用出来る可能性がある、
という結果です。
この結果はまだそのまま臨床に直結するものではありませんが、
より精度の高い臨床試験によって、
高用量のインスリンの経口療法の予防効果が確認されれば、
1型糖尿病のリスクの高い患者さんとご家族にとっては、
福音となる可能性を秘めているように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
石原がお送りしました。
下記書籍引き続き発売中です。
よろしくお願いします。
六号通り診療所の石原です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。
それでは今日の話題です。
今日はこちら。
今年のJAMA誌に掲載された、
乳幼児期に大量のインスリンを飲ませることによって、
お子さんの身体にどのような変化が起こるのかを検証した文献です。
糖尿病には1型と2型という種類があります。
このうち1型糖尿病は、
HLAという遺伝子の型で、
なり易い体質が存在していて、
そうした体質を持つ方に、
ウイルス感染などの誘因により、
膵臓のインスリン分泌細胞に対する、
自己免疫が形成されて発症する、
というように考えられています。
自己免疫というのは、
自分の細胞を自分で攻撃して、
それを殺してしまう、ということです。
1型糖尿病の場合には、
インスリンを分泌する細胞に対して、
自分のリンパ球などがそれを攻撃することで、
炎症が起こり、急激にインスリン分泌細胞が減って、
身体がブドウ糖を利用出来なくなり、
急激に血糖が上昇して糖尿病を発症します。
その発症は1歳前後でピーク(海外データ)になる、
というほどその経過が早く、
現状は膵臓の移植以外では、
一生インスリンの治療を行なう必要があります。
さて、1型糖尿病は特定のHLA遺伝子を持っている人で、
まずインスリンの分泌細胞やインスリン自体に対する、
自己抗体が誘導され、
それをターゲットとする、
自己反応性T細胞が増殖します。
ただ、同じように自己抗体が出来、
自己反応性T細胞が誘導されても、
糖尿病が発症するお子さんもいますし、
発症しないお子さんもいます。
この差は免疫を制御する制御性T細胞にある、
と考えられていて、
自己反応性T細胞が増殖しても、
それを抑える働きをする制御性T細胞が強力であれば、
糖尿病は臨床的には発症しないと考えられます。
それでは、
制御性T細胞を活性化させる方法はないでしょうか?
1つの考えとしては、
インスリンを大量に身体に反応させることにより、
インスリン刺激に対しての免疫反応を高め、
それによりインスリン抗原に関わる、
制御性T細胞を活性化することが可能なのではないか、
という推論があります。
これはたとえば食物アレルギーや花粉症の時に、
少量の抗原に徐々に身体を慣れさせて、
症状を緩和しよう、という発想に似ています。
動物実験においては、
実際にインスリンを大量に飲むことにより、
1型糖尿病のモデル動物のネズミにおいて、
その発症が予防された、という報告が存在しています。
そして、
1990年代から、
1型糖尿病の発症リスクが高いと想定されるお子さんに対して、
低用量のインスリン注射や、
1日7.5ミリグラムのインスリンを飲み薬として飲むことにより、
1型糖尿病の発症が予防されるかどうかの、
介入試験が行われました。
その結果は2000年代の前半に一旦報告され、
両者とも失敗という結果に終わりました。
インスリンの注射をしても、
飲み薬として飲んでも、
その後の5年以内の1型糖尿病の発症率には、
有意な差は認められなかったのです。
しかし…
その後の追跡調査の解析によると、
経口でインスリンを摂取し続けた場合、
自己抗体が高レベルに存在していても、
1型糖尿病の発症が有意に予防されていることが確認されました。
つまり、
5年程度の解析では明瞭でないレベルではあるけれど、
経口のインスリンの使用により、
一定レベル1型糖尿病の発症が、
予防される可能性が示唆されたのです。
自己抗体が産生された後の効果ですから、
これは制御性T細胞の活性化を介したものと想定されます。
それでは、
実際にインスリンの使用により、
制御性T細胞は本当に増殖するのでしょうか?
今回の研究はその点を検証したもので、
欧米の4カ国において、
HLAのタイプはそのリスクが高いか家族歴があり、
まだ糖尿病は発症しておらず、
膵臓に対する自己抗体も陰性の、
2から7歳のお子さん25名を、
インスリン治療群の15名と、
偽薬の10名に、
本人家族や主治医にも分からないようにくじ引きで分け、
3から18ヶ月の経口インスリン治療の、
免疫に与える影響を検証しています。
例数は少ないのですが、
厳密な研究法が取られています。
経口のインスリンの使用量は、
2.5ミリグラムから開始され、
多いものは67.5ミリグラムまで増量されています。
少量から徐々に増量する、
アレルギーの減感作療法のような方法が取られている事例と、
最初から比較的大量が使用されている事例が混在しています。
インスリン1ミリグラムは概ね24単位くらいに相当しますから、
非常に大量のインスリンが使用されていることが分かります。
基本的には血液中には殆ど入らないので、
低血糖にはならないと想定されますが、
ここまで大量だとないとも言い切れません。
かなり、動物実験に近いような実験なのです。
その結果…
インスリンに対するIgG抗体、
唾液のIgA抗体、
そしてインスリンに反応する制御性T細胞の増殖の、
いずれかが陽性であった比率は、
偽薬では20%であったのに対して、
最大用量の67.5ミリグラム増量群では、
83.3%(6例中5例)と有意に増加していました。
それより少ない用量では有意差はありませんでした。
(この場合の制御性T細胞は、
インスリン抗原に反応して増加する、
CD4陽性のT細胞という意味合いです)
そして、大量のインスリン使用群においても、
低血糖やインスリンに対するIgE抗体、
膵臓に対する自己抗体、糖尿病の発症は、
いずれも認められませんでした。
つまり、
かなり大量のインスリンを飲み続けた時に限って、
インスリンに対する制御性T細胞は増殖し、
低血糖や自己抗体の誘発はなく、
安全に使用出来る可能性がある、
という結果です。
この結果はまだそのまま臨床に直結するものではありませんが、
より精度の高い臨床試験によって、
高用量のインスリンの経口療法の予防効果が確認されれば、
1型糖尿病のリスクの高い患者さんとご家族にとっては、
福音となる可能性を秘めているように思います。
それでは今日はこのくらいで。
今日が皆さんにとっていい日でありますように。
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