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日本のアングラ(その13の続き) [フィクション]

新人公演に参加したのは7人。

僕と作・演出の桐原君、
卒業間近の人文学部の藤堂先輩と、
同じ人文学部の中根先輩。
藤堂先輩は部長を務めた中心メンバーで男性。
中根先輩は藤堂先輩の同期の女性で、
付き合っているという噂もあった

それから2年生になる田所君と三好さん。
そして、急遽出演の決まった加奈子だった。

この7人のキャストに、
オペレイターとして照明の下総さんと、
田所君達と同期だったが、
今回は役者としては参加しない日比野君が音効として加わった。

主役の事件に巻き込まれる三流大学生コンビを、
田所君と三好さんが演じ、
僕が悪の秘密結社の間抜けな首領、
その部下の怪人に桐原君。
謎の美女に中根先輩、
謎の中国人に藤堂先輩。
そして、攫われる少女は当初、
新人の三好さんがダブルキャストで演じる筈だったのだが、
加奈子の突然の参加により、
彼女が演じることになった。

謎の中国人は実は正義のヒーローで、
謎の美女は峰不二子的なポジションだ。

僕は世界征服を企む、
ショッカーみたいな秘密組織の首領で、
その割にはせこい作戦ばかりを命じて、
いつも失敗をしている。

そこに1人の少女が、
世界を滅ぼす謎の兵器の設計図を、
自分の身体に隠している、
という情報が僕の元に入る。

それをもたらしたのは謎の美女だが、
実は彼女は僕と敵対する、
謎のヒーロー組織に属する、謎の中国人にも、
同じ情報を流していた。

それで、僕は桐原君演じる僕の手下の怪人に、
少女の誘拐を命令するのだが、
その少女が攫われる現場に居合わせた、
三流大学生の三好さんは、
ひょんなことから一緒に攫われてしまうことになり、
恋人の田所君が途方に暮れていると、
そこに謎の中国人の藤堂先輩が現れて、
一緒に僕と戦うことを誓う、という流れになるのだ。

後半は僕の秘密組織のアジトでの活劇となる。

ただこの仮面ライダー(しかも2号ライダーくらいの初期の感じ)
のような世界観は、
実は企画されながら発売間近で中止となった、
ゲームソフトの世界であったことが後半で明らかになる。

一種のやらせだ。

世界を滅ぼす兵器というのは、
要するにこの世界が現実ではなく、
ゲームという虚構であることを示す爆弾で、
それが爆発する時、
虚構は消え失せ、
存在しなかったゲームを、
「想い」の力で実体化しようとしていた、
孤独な人間だけが目覚める。

僕が演じる組織の首領と、
敵対する謎の中国人は、
どちらもそのことを薄々は感じていて、
自分の存在に不安を持っており、
最後の対決の際に、
最善のエンディング、
このゲームを夢見ている、
ゲームの外にいる誰かに対して、
最善のエンディングを用意するように努力をする。

そして、
試行錯誤の末に、
最後は僕が情けなく倒されて爆発音と共に暗転し、
明かりが付くと子供部屋で1人の少女が目覚める。

枠組みとしては、
古典的な小劇場芝居のプロットだったが、
当時はまだそれほど小劇場の素材として、
取り上げられることのなかった、
ロールプレイングゲームの設定と、
特撮のヲタクネタを同時に取り入れた点が、
アングラ芝居ばかりをしていた僕には、
斬新に感じた。

劇団☆新感線は当時既に、
こうした傾向の芝居を上演していたが、
はっきりメジャーになるのは数年後のことで、
僕はまだその生の舞台に接したことはなかった。

従って、当時はこれは桐原君のオリジナルの世界だと感じたし、
読み合わせの時の不思議な雰囲気は、
今でもありありと思い出すことが出来る。

僕にとってのこの芝居は、
大袈裟に言えば僕の人生にとって、
幾つかの大きな影響を与えた。

僕が演技者として、
最初で最後の思いで必死に演技に取り組み、
そこで一定の評価を得ることが出来た、
という点。

それから、加奈子と最初で最後の、
本格的な舞台上での共演をした、という点。

そして、その1回限りの上演の舞台において、
この連載めいたものの最初に書いたように、
「日本のアングラ」を目撃したことだった。
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