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シベリア少女鉄道「その流れバスター」 [演劇]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から診察室の片付けなどして、
それから今PCに向かっています。

今日は土曜日なので趣味の話題です。

今日はこちら。
この流れバスター.jpg
どんでん返しと仕掛け重視の舞台で、
小劇場随一の特異な存在で有り続けている、
シベリア少女鉄道の新作公演が、
先日まで吉祥寺シアターで上演されました。

これはネタバレが駄目なので、
もう公演が終了したタイミングでご紹介します。

今回は2つのヴァージョンでの上演で、
同じ助っ人という役柄を、
シベリア少女鉄道最古参の藤原幹雄さんと、
私立恵比寿中学の安本彩花さんが、
ダブルキャストで演じる、という、
どうなるのか全く想像の付かないような企画です。

ただ、僕は2ヴァージョンとも観ましたが、
蓋を開けてみると、
かなり穏当で冒険はない仕上がりになっていました。

前回公演の「ほのぼの村のなかよしマーチ」もそうだったのですが、
最近の作品は演劇臭が強めのものになっていて、
今回の作品も最後の畳み込みはともかくとして、
それまでの展開は小劇場演劇の、
1980年代くらいのスタイルに近いものです。
設定をちょっといじって、
ラストの展開を少し変えれば、
第三舞台の芝居のように見えなくもありません。

個人的にはその方向性はどうなのよ、
というような思いがあります。

小劇場の文法からは全く乖離しているからこそ、
シベリア少女鉄道は面白かったのであって、
最近の作品は「ちょっと変わった小劇場演劇」
というくらいになっているので、
それでは駄目なのではないか、
と思えてならないからです。

ただ、作品としては楽しめました。

どんでん返しと言う感じとは違うのですが、
後半の畳み掛けはさすがですし、
役者さんは以前と比べれば、
随分と平均レベルは上がりました。
作品自体の完成度も高かったと思います。

以前のどんでん返し命の作品では、
前半のドラマ部分の演技は物凄く酷くて、
かなりの忍耐を観るには要しました。
トータルな完成度も、
一部の作品を除いては、
お世辞にも高いものではありませんでした。

その意味では進歩とも言えるのですが、
その一方でかつての破天荒さが失われていることは確かです。

下らない前衛をやり続ける、ということは、
矢張りそう容易いことではないようです。

以下ネタバレを含む感想です。

今回の作品は2部構成になっていて、
いずれも謎の人物によって集められた複数の男女が、
自分の演技力で他のキャストと勝負する、
というゲームを繰り広げます。

前半は殺し合いの「死のゲーム」という体裁で、
各自が個別に武器を持ち、
その武器を使って相手を殺すと、
相手の武器も手に入れることが可能になります。
そのゲームの展開自体が演劇となっていて、
ラストに勝利して生き残った1人が、
その芝居の主役となって、
エンドロールでは主役として表示されます。

ここまでは比較的シリアスです。

後半は同じ生き残りのゲームですが、
2つのグループに分かれていて、
1つのグループのメンバーが、
ほのぼのした「野鳩」みたいな芝居を上演していると、
そこに途中で別のグループの役者が乱入し、
全く別の設定に元のメンバーを巻き込んで、
芝居の流れとは無関係に、
死亡してしまう設定にしてしまおうとします。

巻き込まれて舞台上で死亡すると、
その役者さんの敗北で、
退場しないといけなくなります。

最後まで生き残って舞台上にいる役者が、
最終的な勝者、ということのようです。

そこからは要するに即興劇風の演技合戦で、
「その流れバスター」というのは、
その設定で物語を進めれば、
必ずその人物は死ぬ、ということで、
多くの方がお馴染みの、
「タイタニック」「風立ちぬ」「エヴァンゲリオン」など、
多くの設定が登場し、
演技対決が馬鹿馬鹿しくも間抜けに楽しく展開されます。

虚実ないまぜの演技の戦いというのは、
80年代から90年代くらいの小劇場のお馴染みのテーマの1つで、
パントマイムで役者が戦う、
「惑星ピスタチオ」みたいなものもありましたし
(佐々木蔵之助さんの恥ずかしい芝居も、
今思うと貴重でした)、
第三舞台の芝居は、
役者同士の演技合戦や演劇論、
他のジャンルの演劇の批判やパロディが、
その大きな娯楽的要素でもありました。

ただ、そうした小劇場の場合には、
ギャグの演技合戦が繰り広げられた果てに、
実はそれは核戦争後の未来の、
シェルターの中の暇つぶしであったとか、
精神疾患の新種の治療であった、とか、
死に掛けた少女の脳内妄想であった、
といったような「演劇的オチ」が付くのですが、
シベリア少女鉄道はそうした小劇場的枠組みとは無縁なので、
単純に演技合戦が終了すれば、
そのまま作品も終わるのです。

従って、
今回の芝居はその演技合戦としては、
非常に面白く完成度も高いのですが、
小劇場を昔から観ている者としては、
そうしたオチもなく、
それでいて演劇そのものの枠組みを、
解体するようなところもないので、
シベリア少女鉄道のファンとしては、
ちょっと物足りなくは感じるのです。

ここ数作の傾向を見ていると、
土屋さんが演劇に興味を持ち、
演劇に傾斜しつつ作品を作っているような気がするので、
演技なんてもっと適当でもいいから、
究極の滅茶苦茶をやって欲しい、
という気がしてなりません。

ただ、それは外野が言うようなことではないのかも知れません。

作品は意外に緻密に構成されています。

たとえば、
前半である女性の「武器」は、
ただのピアスが1個で、
何でピアスが武器になるのだろう、
という謎が残るのですが、
最後になって1人生き残ったその女性が、
黒髪のウィッグをむしり取って金髪になり、
ああそうか、ピアスの方が彼女の私物であって、
本当の武器はその黒髪のウィッグだったのだ、
ということが分かります。

なかなか上手く考えられています。

役者は最近の数作でヒロインの位置にある、
小関えりかさんが、
今回は非常に堂々としたヒロイン芝居で、
如何にも土屋さん好みのヒロインになっていました。

これも最近小関さんと対比された役柄を、
ヒールとして続けて演じている川田智美さんが、
今回もラスボスを堂々と演じてなかなかでした。

こういう風に役者が芝居で拮抗する、
と言う感じは、
これまでのシベリア少女鉄道にはあまりありませんでした。

脇の役者もなかなかで、
これだけ演技のレベルの高いシベリア少女鉄道というのは、
かなり珍しいと思います。

ただ、相変わらず全員に変な間合いで芝居をさせているので、
上手い役者さんほど物凄く下手に見えるという、
一種の「土屋マジック」は健在です。

今回の一番の話題は、
本物のアイドルである安本彩花さんと、
藤原幹雄さんがダブル・キャストという趣向で、
この役は最初にゲームマスターとして解説をするのと、
ラス前に主人公達の助っ人として、
演技合戦に一時参戦する、
という2か所のみの出番です。

本物のアイドルが演技の助っ人、
というのは面白い企画だと思うのですが、
実際には「笑うセールスマン」と「風立ちぬ」のネタは、
両者とも同じで、
芝居もほぼ同じなので、
これではちょっと詰まらないな、と感じました。

衣装も同じタキシードもどきなのも詰まりません。

せっかくなので、
もっと全く別物のオーラで、
皆が格の違いにひれ伏すような、
アイドルヴァージョンが観たかったと思いました。

土屋さんは前にアイドルを使った時も、
もっと面白くなりそうなのに、
何か及び腰の感じの演出になっていて、
好きなジャンルだけに、
却って遠慮が生じてしまうのかも知れません。

もっとカッとんだものが観たかったので、
これはちょっと残念でした。

総じて企画も良く、
かなり乗っているシベリア少女鉄道ですが、
個人的には演劇もどきにまとまることなく、
もっとギラギラした前衛を、
目指して欲しいと思います。

現存の劇団の中で、
寺山修司の実験精神に最も近いのは、
間違いなくシベリア少女鉄道であるからです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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