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抗ヒスタミン剤のC型肝炎予防効果について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
抗ヒスタミン剤の抗ウイルス剤としての効果.jpg
今月のScience Translational Medicine誌に掲載された、
安価な抗ヒスタミン剤に、
現行の抗ウイルス剤に遜色のないC型肝炎治療効果が、
確認された、という論文です。
ただし、人間ではなくネズミの実験です。

アメリカと広島大学の研究者の共同研究です。

C型肝炎の治療は近年格段の進歩を遂げた、
現代医療の誇るべき成果です。

治療成績は格段に改善しましたし、
以前には治療は困難であったウイルス量の多い病変にも、
殆どの事例で対応が可能となり、
限定的ではありますが、
飲み薬のみでの治療の道も開かれました。

ただ、大きな問題は高額の医療費です。

C型肝炎の治療薬である抗ウイルス剤の新薬には、
びっくりするような値段が付いていて、
医療費を個人が負担するにせよ、
公的に補助を行なうにせよ、
健康保険を活用するにせよ、
いずれにしても医療費は大きな問題です。

そこで新薬ではなく、
昔から使われている薬の中に、
C型肝炎に対する抗ウイルス作用を持つ薬があれば、
医療費の削減に繋がるのではないか、
という発想が生まれました。

これまでにも、
コレステロールの吸収を阻害する薬であるエゼチミブ(商品名ゼチーア)など、
臨床的に使用出来る用量では、
それほど大きな期待は持てないものの、
抗ウイルス効果が確認された薬剤が存在しています。

今回の論文においては、
これまでの報告などを元に、
C型肝炎の予防や治療効果が期待される、
これまでに別個の目的で発売された医薬品の成分を検証し、
その中でクロルシクリジン塩酸塩(chlorcyclizine HCL)という、
古いタイプの鼻水やかゆみ止めに、
C型肝炎ウイルスが人間の肝臓の細胞に侵入することを、
強力に阻害する働きのあることを、
細胞レベルの実験及び、
人間の肝臓の細胞を発現させたネズミを使って、
多角的に確認しています。

クロルシクリジンはピペラジン系という区分に入る、
第一世代の抗ヒスタミン剤です。
同じ系統にはヒドロキシジン塩酸塩(商品名アタラックスなど)があり、
またそれに近い性質を持つフェノチアジンにも、
同様の抗ウイルス効果が確認されたと、
上記文献には記載されています。
ただ、クロルシクリジンと比較すると、
フェノチアジンの抗ウイルス効果は弱かったので、
今回の文献では専らクロルシクリジンのみが使用されています。

ちなみにこのクロルシクリジンは日本では未発売で、
その誘導体であるホモクロルシクリジン(商品名ホモクロミンなど)は、
発売がされていますが、
これは構造が大分異なるので、
同様の効果は期待出来ません。
フェノチアジン系も含め、
こうしたタイプの古い抗ヒスタミン剤は、
アセチルコリンやセロトニンなど、
複数の脳内ホルモンの抑制作用を併せ持ち、
鎮静作用が非常に強いので、
現在では主に精神科で処方が行われています。

実験の結果はどうだったのでしょうか?

クロルシクリジンは、
肝臓の細胞へのC型肝炎ウイルスの侵入を、
強力に阻止する作用を持ち、
それはヒスタミンでは妨害されないことから、
抗ヒスタミン作用とは別個のメカニズムによることが確認されました。

この薬はウイルスの増殖や遺伝子の複製を抑える働きはないので、
感染の初期にしか効果はないと当初は想定されましたが、
慢性感染においても、
インターフェロンαと同程度の治療効果を示しました。

これは慢性感染においても、
新たな肝臓細胞へのウイルスの侵入を阻止することが、
感染のコントロールに有用であることを示唆する所見と考えられました。

まだ、ネズミの実験の段階であり、
今後この薬が臨床に活用されるかどうかは未知数ですが。
たとえばウイルスの増殖を抑える薬と併用することで、
相乗効果は期待されるので、
薬の安全性はこれまでの蓄積があり、
安価な薬でもあるので、
今後の知見の積み重ねに期待したいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

ひでほ

小生のまわりの難治性C型肝炎の友人らは、ハーボニー待ちが多いです。
確かにすごい値段になりそうです。

by ひでほ (2015-04-24 18:26) 

fujiki

ひでほさんへ
私の患者さんにも待っている方がいます。

by fujiki (2015-04-25 06:07) 

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