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無菌性膿尿の原因について [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から意見書など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今月のthe New England Journal of Medicine誌に、
無菌性膿尿という、
一般的で見落とし易い兆候についての総説記事が掲載されました。
今日は勉強の意味で、
その内容を元に整理してお話します。

膀胱炎というのは、
女性に多く非常にポピュラーな感染症です。

膀胱内に細菌が侵入して増殖することによって、
おしっこは濁ったり血尿になり、
頻尿や残尿感、排尿痛などの不快な症状が出現します。

濁ったおしっこには、
白血球が検出されます。
つまり「膿み」です。

おしっこを顕微鏡で見て、
視野に3個以上の白血球がある状態を、
「膿尿(pyuria)」と呼びます。

さて、膿尿は通常は細菌性膀胱炎のサインです。

それで、この膿尿が見られた場合には、
尿の細菌培養の検査を行ないます。

培養で細菌のコロニーが検出されれば、
その細菌の量にもよりますが、
細菌性膀胱炎であることが確定します。

ここで膿尿はあるのに、
細菌培養で菌が検出されないことがあり、
それを「無菌性膿尿(Sterile Pyuria)」と呼ぶのです。

これは実際には意外に多く、
上記解説記事中の記載では、
一般住民での検査において、
女性の13.9%、男性の2.6%に認められた、
とされています。

無菌性膿尿では頻尿や排尿時の痛みなどの、
膀胱炎様の症状が出現することもあり、
また無症状のこともあります。

それでは、明らかに細菌性膀胱炎と思われるような症状があり、
膿尿が存在しているのに、
培養で菌が検出されないのは、
一体どのような理由によるのでしょうか?

シンプルな原因の1つは、
直近の抗生物質の使用です。

膀胱炎を繰り返しているような患者さんは、
自分で抗生物質を飲まれることも多く、
また他の理由で処方された抗生物質が、
影響することもあります。

抗生物質の使用により、
培養で菌は増殖し難くなるので、
見かけ上「無菌性膿尿」という状態になるのです。

この場合は通常に細菌性膀胱炎として治療し、
経過を見て、膿尿が改善すれば問題はありません。

しかし、それ以外の原因でも、
無菌性膿尿は起こります。

最も見落としてはならない無菌性膿尿の原因は、
性器尿路の結核です。

性器尿路の結核は、
肺結核以外の結核菌感染としては、
最も多いものです。

その初発症状は血尿と膿尿で、
進行すれば腎臓やその周辺組織、骨盤内臓器などに、
病変が広がる可能性があります。

結核菌は特殊な培養を必要とするので、
通常のおしっこの細菌培養では検出されません。
また、おしっこの結核菌の培養での、
陽性率はそれほど高いものではないので、
性器尿路結核を疑った場合には、
おしっこの結核菌の遺伝子検査をする必要があります。

結核以外に多くの性行為感染症も、
無菌性膿尿の原因となる可能性があります。

淋病やクラミジアは、
性器の感染症の代表で、
淋病の原因である淋菌は細菌ですが、
非常に生存し難い菌なので、
細菌培養では検出されないこがしばしばあります。
従って、こうした病気を疑った場合にも、
矢張り遺伝子検査で確認する必要があります。

更には単純ヘルペス感染症や帯状疱疹でも、
その病変が性器に近いと、
無菌性膿尿が起こることがあり、
湿疹がはっきりしない場合には、
無菌性膿尿のみが所見となることもあります。

また、真菌などによる尿路感染症も、
無菌性膿尿の原因の1つです。

以上は細菌培養では診断が出来なかったり、
診断が困難な感染症ですが、
感染症以外の原因でも、
尿路結石や尿路系の癌などでは、
細菌によらない炎症が起こるので、
無菌性膿尿が生じることがあります。

無菌性膿尿が所見の1つとして有名なのは、
お子さんの発熱の原因となる川崎病で、
細菌感染を伴う膿尿も合併するようですが、
他の川崎病の兆候と併せて、
無菌性膿尿があれば、
その可能性が高まります。

このように、
特に症状のあまりない無菌性膿尿は、
一般臨床ではスルーされがちですが、
治療の必要な感染症や全身疾患のサインであることも多く、
適切な鑑別診断を心がけたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。。

石原がお送りしました。
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コメント 2

Murakami Takeshi

先生の記事、興味深く拝読いたしました。
私は47歳の男性ですが、5月に睾丸部の痛みと不快感、10月に頻尿の症状が出て泌尿器科に行ったのですが、いずれも白血球がわずかに見られ、その後の培養では菌が確認できませんでした。
シプロフキサチンをこの3週間ほど飲んでますが、頻尿は少し良くなっている気がする程度で、1日8日以上行くこともまだあります。ここで心配するのはやはり癌なのですが、無菌性膿尿が重要な癌のサインと認識すべきなのでしょうか?
もしアドバイスいただければ幸いです。

Murakami
by Murakami Takeshi (2016-11-22 03:48) 

fujiki

Murakamiさんへ
これはそうしたケースもあるという意味合いで、
癌を強く疑う、ということではないと思います。
まずは抗生剤を飲んだ上で、
症状と所見の改善がどうか、
ということになりますので、
まずはその経過を見て頂くのが良いと思います。
症状は少し改善が遅れる場合もあります。
ただ、次回受診の際には泌尿器科の先生に、
感染以外の可能性についても、
念のためお聞きはしておいた方が良いと思います。
by fujiki (2016-11-22 08:41) 

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