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甲状腺乳頭癌とメラノーマの合併について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
メラノーマと甲状腺乳頭癌の合併リスク.jpg
2014年のJAMA Otolaryngol Head Neck Surg.誌に掲載された、
甲状腺乳頭癌と悪性黒色腫(メラノーマ)との関連についての論文です。

甲状腺の乳頭癌とメラノーマは、
いずれも近年増加が指摘されている癌です。

この2種類の癌は基本的には全くの別物ですが、
同じ遺伝子変異であるBRAFv600eという変異を、
いずれも比較的高頻度で有している、
とういう同じ特徴があります。
統計によっても差がありますが、
メラノーマの66%、
甲状腺乳頭癌の36から69%でこの変異が認められる、
という報告があります。

この遺伝子変異が、即癌の悪性度と関連する、
ということはないのですが、
進行した癌がこの変異を持っている場合には、
その癌の悪性度はより高いことが多い、
とされています。

更には甲状腺乳頭癌もメラノーマも、
遺伝性の癌ではありませんが、
患者さんのご家族では、
同種の癌の発症率は高い、
という特徴はあります。

それでは、甲状腺乳頭癌を発症する因子と、
メラノーマを発症する因子との間に、
何らかの関連はあるのでしょうか?

たとえば、同じBRAFの変異を来し易い体質、
というものがあるとすれば、
メラノーマにも甲状腺乳頭癌にも罹り易い、
ということがあってもおかしくはない、
という気がします。

今回の研究ではアメリカのユタ州の疫学データを用いて、
甲状腺乳頭癌を発症した患者さんがその後にメラノーマを発症するリスクと、
逆にメラノーマを発症した患者さんがその後に甲状腺乳頭癌を発症するリスク、
更にはその血縁者にもう一方の癌が発症するリスクと、
両者を合併した事例の特徴を解析しています。

その結果…

メラノーマを発症した患者さんは、
その後に甲状腺乳頭癌を発症するリスクが、
2.3倍有意に高まり、
甲状腺乳頭癌を発症した患者さんは、
その後にメラノーマを発症するリスクが、
1.8倍有意に高まる、
というデータが得られました。

しかし、その血縁者の解析では、
別種の癌のリスクの増加は認められませんでした。
配偶者においてもリスクの増加は認められませんでした。

両者の合併の事例で、
遺伝子変異の解析が可能であったのは8例で、
このうち4例はいずれかの組織でBRAFの変異が陽性で、
3例は両者の組織ともBRAF変異が陽性でした。

合併の事例がそれほど多くはないので、
正直この結果は微妙です。

血縁者の解析でも明確な関連がないことから、
それほど同一の素因から、
両者の癌が発生しているということはなさそうですが、
両者を合併した事例においては、
BRAFの変異の起こり易さが、
病態の背景に存在する、
と言う可能性はありそうです。

いずれにしても、
甲状腺乳頭癌とメラノーマのいずれかの癌を発症した患者さんでは、
もう一方の癌のその後の発症リスクは上昇する可能性があるので、
その点に配慮した経過観察が必要になることは事実だと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 14

しー

初めまして、しーと申します。先日胃カメラの検査を行い調べていたら先生の数年前の記事に辿り着きそちらに書き込むかこちらに書き込むか迷いこちらに質問させて頂きます。
今、31歳なのですが20歳頃から多忙によるストレスで胃をわるくして、その時は小さい診療所で胃カメラなしの問診で胃潰瘍と言われ一年くらいして別の病院で胃カメラをし慢性胃炎のような結果でした。それから1〜2年して胃カメラをした時もたいした事はないが慢性胃炎との事でした。赤い線が入ってるとかなんとか言われた気がします。ピロリ菌の検査はしていません。それから約9年近くあき先日健康のためにと胃カメラをしたところ、薄く赤い点があったり同じく赤い線がありましたが特に薬もなく胃の中もきれいでした。ピロリ菌の検査も希望しましたが見るからにいないのでしませんでしたと言われました。会計時に写真をプリントアウトしてもらい所見をみると萎縮性胃炎と書いてありすぐ携帯で調べたら腸上皮〜になり胃がんになると書いてあったので驚いてもう一度先生に萎縮性胃炎と書いてますが何ですかと質問しに戻りましたら、萎縮性胃炎といっても慢性胃炎と言っていいくらい萎縮性っていうのを外してもいいくらいだよ、慢性胃炎も幅広く使われているし20歳すぎると胃は衰えてくるしたいした事ない、まぁ、絶対癌にならないとは言い切れないし定期的に検査を受けるといいですね、との事でした。
定期的に検査をして行こうとおもいますが①萎縮性胃炎は腸上皮〜になりやすいのでしょうか?②ピロリ菌は画像を見てわかるのでしょうか?③ピロリ菌がいなくても萎縮性胃炎になるのでしょうか?④小さい子供もいるのでとても不安なのですがありふれた病気なのでしょうか?⑤胃カメラは年一回で大丈夫なのでしょうか?
家系的に癌の方は祖母の姉妹でHTLVらしき方がいましたが私は陰性、父の弟さんは健康診断などほとんど行かず喫煙、飲酒等で肺がんになった感じです。祖父母、父母は癌にはなっていません。
長々と失礼しました、何卒宜しくお願い致します。
by しー (2015-03-19 14:41) 

しー

ちなみに、私は考え込むタイプなのでそれで胃炎持ちかなと思います。
先日胃カメラをして下さった先生は内視鏡検査の症例も多く非常に有名な先生です、信頼しているのであっさり答えて帰された事を考えると大したことないんだろうなとは思うのですが、病気に関しては素人なので帰宅後にふつふつと不安が押し寄せてきました。
by しー (2015-03-19 14:52) 

fujiki

しーさんへ
その情報のみでは何とも言えないので、
基本的にはその「非常に有名な先生」に、
もう一度聞いて頂くのが正解と思います。

その上で…

①萎縮性胃炎が進行すると腸上皮化生になるのは事実です。ただ、全てなる訳ではありません。
②目で見てもピロリ菌は見えません。ただ、ピロリ菌の感染に特徴的な胃の粘膜所見というものはあり、先生はそのことを言われたのではないかと思います。
③萎縮自体は加齢と共にも起こる現象なので、ピロリ菌以外でも起こると思います。ただ、殆どの病的な萎縮性胃炎は、ピロリ菌が関与している、という意見はあります。
④全く萎縮がない粘膜というものも、また珍しいので、その先生が言われたのは、敢えて言えばやや萎縮がある、と言う程度のことではないかと想像されます。萎縮自体はありふれた現象だと思います。
⑤その先生のお話しのニュアンスでは、1年に一度で問題はないように、これも想像されます。何か気になる所見があれば、もっと間隔を縮めることはあります。

ピロリ菌の検査もされなかった、
ということは、
病的な萎縮ではない、と言う判断があったからだと、
推察はされます。
個人的には一度ピロリ菌の検査自体はされた方が、
より良いようには思います。

何かの御参考に、
少しでもなれば幸いです。
by fujiki (2015-03-20 08:00) 

しー

ご回答ありがとうございました。

気になりましたので再度受診してきました。やはり特に異常はないとの事でした。

いわゆる萎縮性胃炎というよりも年齢に応じた老化のようでした。
萎縮性胃炎と伝えたから不安にさせたようで全然問題ないよ正常ですとおっしゃっていました。

ただピロリ菌についてはピロリ菌による所見は見当たらないからいないと思うが100%かと聞かれたらそれはわからないとの事で来週呼気検査をする事になりました!

小さい子供がおり咀嚼したものをあげることはないですがどうしても箸を共有したりすることがあるので心配しておりました。

最初の受診で何ともないといわれたにも関わらず再度受診して、しつこいなぁ〜とか、面倒な患者だな〜と思われるのがいやでしたが勇気を出して行って良かったです。

普段だと混雑しているのを気にしてゆっくり聞けないのでどうしても疑問が残る事があります。

遠慮なく聞くことも大事ですね、
石原先生のような先生がいらっしゃるといいのですが宮崎のような田舎ではなかなかです。

本当にありがとうございました。
by しー (2015-03-20 14:03) 

しー

正常ですといっても少しは慢性胃炎の気があるがみんなこのくらいはあるという事でそれを含めた正常というようでした。
by しー (2015-03-20 14:06) 

しー

何度もすみません、別件で質問なんですが、主人のお父さんが膵臓癌で50代半ばで亡くなっています。健康診断もろくに受けず、喫煙と結構な飲酒習慣があったようです、膵臓癌の遺伝はどのようなものでしょうか?
様々な記事を見ると、遺伝性は若干あるものの大腸ポリポーシスや家族性多発異型母斑やメラノーマがなんとか、ただしこのような物は遺伝性は少ないと書いてありました。

①主人の姉は先日健康診断の大腸検査で小さいポリープがあり切除→良性だったとのことです。

②主人は若干ほくろが多いようですが盛り上がっている普通のほくろはありますが、よくいわれる形がいびつ、色がまだら、というような物はなさそうです。年月に連れ変化がある物も無さそうです。

③私の子供に生まれた頃から母斑があり、生まれた頃は1センチ弱で大きくなるにつれ皮膚が伸び目立つようにはなっていますが、皮膚科でみてもらったら問題なしでした。

このような①〜③もお父さんの膵臓癌があるからできやすいとか遺伝子関係はあるのでしょうか?

主人は今36歳です、これから膵臓癌予防の為などにどのような事にきをつければ良いでしょうか。
喫煙は数年前に辞めました、飲酒は晩酌をしますが休肝日もあります。

いつも疑問に感じており質問するところがわからなかったので書かせて頂きました。
by しー (2015-03-20 16:33) 

タイゾウ

悪性腫瘍と遺伝子の関係について教えてください。

今回の記事の腫瘍は、遺伝するものではないと書かれていますが、それは、何か継続的な刺激が加わるとかで局所的な遺伝子異常が起こって、その部分から癌が発生すると解釈してよいのでしょうか?(この場合、遺伝子異常は後天的)

アンジェリーナ・ジョリーさんが「予防的」に乳房切除をおこなったのは家系的に乳癌になりやすい遺伝子を持っていたからだと聞いていますが、この場合は、遺伝しているので、局所的なものではなく体細胞のどれを取って検査してもその癌を引き起こす異常な遺伝子配列を持っていると解釈してよいのでしょうか?(この遺伝子異常は先天的)

癌と遺伝子異常の話はよく聞くのですが、後天性なのか先天性なのか、それは癌の種類によって違うということなのか、考えているうちによく分からなくなってしまいました。
もし、局所的な遺伝子異常によって引き起こされる癌なら、癌になった部分の細胞から遺伝子検査しないと異常な配列は分からないということですよね・・?他の部位の体細胞には異常なし?・・・そうなら、癌になるまで遺伝子異常は分からないということになりませんか?

教えていただけると有難いです。
どうぞよろしくお願いいたします。



by タイゾウ (2015-03-23 00:02) 

心配ママ

私は今から約2年前に甲状腺乳頭癌を切除しました。幸い、1.5㎝程の大きさで転移もなく初期の状態でみつかりました。今では半年に一度定期検査をしています。今でも自分が癌を患ってしまったことがショックなのですが、今回の先生のお話を読んでさらに落ち込んでしまいました。
甲状腺乳頭癌を患ってから色んな病気が怖くなりましたが、将来メラノーマになってしまう可能性があるのですね。この先がとてもこわいです。
by 心配ママ (2015-03-23 00:23) 

fujiki

しーさんへ
生活に関しては、
特に今以上の制限などは、
必要はないように思います。
基本的に膵臓癌は複数の遺伝子変異が積み重なって発症するもので、
単独の遺伝的な素因が、
特別大きく影響をするものではないと思います。
念のため、40歳くらいを過ぎたら、
人間ドックのような検査で、
膵臓の病気の有無も、
チェックされた方が安心かも知れません。
こうしたコメント欄で、
あまり込み入ったお話は出来ませんので、
簡便なお答えになることをお許し下さい。
by fujiki (2015-03-23 08:28) 

fujiki

タイゾウさんへ
遺伝子変異が積み重なって起こる癌というのは、
その細胞のみでの話で、
全身的なものではありません。
ですから、その組織を調べなければ分かりません。
そうした変異は後天的なものですが、
その変異を起こし易い体質や、
一旦起こった変異が修復され難い体質は、
生まれつきのものなので、
癌が起こり易い人もいる、という意味合いです。
by fujiki (2015-03-23 08:32) 

fujiki

心配ママさんへ
今回のデータではメラノーマのリスクは上がっていますが、
それほど大きなものではなく、
若干という程度です。
欧米のデータで海外ではメラノーマは多いですから、
それがそのまま日本人に当て嵌まるものではありません。
ですので、過度のご心配は必要ないのですが、
念のため皮膚の状態のチェックと、
紫外線を浴び過ぎないなどの注意は、
しておいた方がより安心かも知れません。
by fujiki (2015-03-23 08:35) 

タイゾウ

お忙しい中ご回答くださり有難うございました!
モヤモヤしていた疑問が払拭されました。
大変助かりました。

先生のご著書も拝読させていただきました。
巷にあふれる整合性もなく根拠も希薄な情報の中で、先生の理路整然とした考え方に触れると、目が覚めます。
これからも情報発信を続けてくださることを願っています。
本当に有難うございました!!
by タイゾウ (2015-03-23 19:52) 

しー

いつもご回答ありがとうございます。
『基本的に膵臓癌は複数の遺伝子変異が積み重なって発症するもの』というのは、①喫煙、飲酒などの不摂生な生活習慣から発症するよりも親が癌なら子も癌というような遺伝による発症する方が可能性が高いということでしょうか?
また、②人間ドックの際に膵臓の検査をするというのは何科でどのような検査をすればよいのでしょうか?


昨日、呼気検査をしてきました。陰性だったのですが、色々調べると、

検査前に抗生物質を服用している方は検査前の4週間前に服用を中止する、

除菌をされた方は再検査は1〜2ヶ月あけて検査をする。

と、ありました、③3/10あたりまで風邪でカフニールカプセルを使用していたので薬の名前まで出しませんでしたが最近まで抗生物質を使用していましたが関係ありますか?と尋ねたら、先生も看護師さんも抗生物質は関係ないとおっしゃっていました。本当なのでしょうか?

また、④私の母、主人もこちらで除菌しており除菌後すぐ又は1〜2週間後に呼気検査で陰性判定でした、こんなに早く再検査でよいのでしょうか?
早すぎる呼気検査は偽陰性になるとか偽陽性になるなど書いてありますが実際どちらかになる可能性はありますか?

⑤ユービットを使用して検査しましたが授乳も全く関係ない心配なら明日から授乳して下さいと言われましたがこれも疑問です。

再々度の質問で申し訳ございません。お時間ございましたらご指導よろしくお願いします。
by しー (2015-03-24 04:23) 

fujiki

しーさんへ
呼気テストは除菌後の場合は、
除菌薬を飲んでから、
1か月は最低でも経過してから行ないます。
これは一旦は陰性化しても、
1か月くらいで再び陽性になることがあるからです。
呼気テスト直前の抗生物質やプロトンポンプ阻害剤の使用は、
そうした薬にもピロリ菌を減らす作用があるので、
矢張り見かけ上陰性となる可能性があるので、
なるべく避けます。
診療所では1週間前くらいからは抗生物質は抜いてもらいますが、
それ以上は不問としています。
これは対応はまちまちではないかと思います。
授乳は慎重を期すなら、
3日程度は抜いて頂いた方が良いと思います。
ただ、授乳のリスクがそれほど高い、
ということはないと思います。
あくまで念のため、という意味合いです。
基本的には、授乳中などは、
便のピロリ抗原での判定の方が、
そうした心配は要らないので良いように思います。

医療機関によっても、
色々と対応の違いはあると思いますので、
一概に誤りとは言い切れません。
個人的な見解としてお読みください。

ご疑問の点があれば、
また施行された医療機関にご相談頂くのが良いと思います。

すいません。
こちらはあくまでブログのコメント欄ですので、
なるべくご質問にはお答えするようにしていますが、
全ての質問にお答えすることは出来ないことを、
ご了承ください。
by fujiki (2015-03-24 08:30) 

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