アガリスクエンターテイメント「紅白旗合戦」 [演劇]
こんにちは。
六号通り診療所の石原です。
今日は祝日で診療所は休診です。
久しぶりに神奈川の実家に行く予定です。
祝日なので趣味の話題です。
まず演劇の1本目です。
若手のシチュエーションコメディ劇団、
アガリスクエンターテイメントの新作公演が、
今新宿のサンモーススタジオで上演中です。
これは久しぶりに良い芝居でした。
戯曲の出来栄えが素晴らしく、
特に後半一旦壊れた関係をどう修復させようか、
という辺りの段取りの見事さには、
観ていてちょっと鳥肌が立ちました。
作・演出の富坂友さんは、
間違いなく三谷幸喜に匹敵する書き手で、
しかも人間観察の視点に、
嫌味なところやひねくれたところがありません。
人間として実にピュアです。
こうした感覚を持つ作家は、
他には宮部みゆきさんくらいしか思い至りません。
おじさんとしては、
こうした考えの若者がいるのだから、
この世の中もそう捨てたものではない、
と感じました。
演出も悪くないのです。
惜しむらくはキャストに若干2名、
どう考えても駄目な役者さんがいて、
全体のレベルを大きく下げているのが欠点です。
失礼になるのでお名前は書きませんが、
皆さんも分かってらっしゃると思います。
お一人は演技の経験があまりない方のように思うので、
キャスティングのミスだと思います。
でも、せめて台詞はノーミスにして下さい。
もうお一人は自分勝手な芝居をして、
それで全体のリズムを崩し、
そんな調子なのに台詞も忘れる、
という個人的には頂けない態度の方で、
僕がこんなことを言うのはおこがましいのですが、
あなたの心掛け1つで、
この芝居は1.5倍くらい良くなるので、
どうかもう一度(と言わず二度三度)台本を読み直して、
台本に忠実に台詞を喋ることに、
専念して欲しいと切に願います。
お話は高校で、
卒業式の直前に、
それまでは認めていた国家と国旗の扱いを、
校長先生が急に翻して学生の案を拒否するので、
学生の代表と先生の代表が、
話し合いをして解決しよう、
と言う話です。
作者の冨坂さんも書かれているように、
政治絡みの話は本質ではなく、
異なる意見を持つ集団が、
どのようにして平和的に合意を形成するか、
という話です。
その意味では、もっと話は大きく、
人間同士のあらゆるいざこざや紛争にも、
通底するような人間の心理の綾を描き、
その陥穽からの脱出方法を、
極めて真摯に検証した結果です。
と言っても、決して頭でっかちな作品ではなく、
楽しいシチュエーションコメディとして観ることが出来ます。
笑いの配分も適切で伏線の張り方もうまく、
何より山場を綺麗に作る技術が巧みです。
2時間を退屈をさせずに疾走し、
観客の心にラストに残るものは、
意外に大きく熱い物なのです。
キャストを替えて上演すれば、
古典になる作品だと思います。
若干2人の役者さんの台詞さえまともに流れれば、
個人的には必見です。
以下ネタバレを含む感想です。
共学の学生自治の伝統のある高校で、
新しく赴任した校長により、
一旦は決定された卒業式の次第が、
受け入れられないと拒絶された、
という通達を、
女子の生徒会長に生徒会顧問の先生が、
持って来るところから物語は始まります。
卒業生入場の前に、
国旗の掲揚と国歌の斉唱を、
希望者のみで行なう、というのが学生案だったのですが、
校長の意向は、それを卒業生入場後にしないと駄目だ、
というものだったのです。
生徒会長はその申し出を拒否し、
校則にある生徒と先生との話し合いの場である、
「連絡協議会」で集団での話し合いがもたれます。
先生の中にも政治運動をされているような人もいて、
別に校長先生に皆賛同、というようなことでもありません。
また、学生側の多くの意見は、
つつがなく卒業式を成功させられればそれで良い、
というものなのですが、
生徒会長だけは、
学生の自治という「理念」に、
より拘っているように思えます。
そこから意見のぶつかり合いがあり、
水面下での支持者を増やそうとする、
駆け引きがあったりもします。
採決引き伸ばしのための時間稼ぎがあったり、
スキャンダルや進級をネタに、
ゆすりまがいの交渉も行われます。
ここまでの遣り取りもなかなか面白いのですが、
本当にこの作品の真価があるのは、
一回交渉が決裂した後の後半で、
ひょんなことから、
先生側、生徒側の中での、
無意味な拘りや意地についての問い直しがあり、
そこから土壇場での再交渉と同意形成に向けて、
心躍るクライマックスが待っています。
密室での議論の、対立から合意形成を描くというドラマは、
言うまでもなく「12人の怒れる男」の換骨奪胎ですが、
その変奏曲でもある、
三谷幸喜さんの傑作「12人の優しい日本人」に、
この作品はより近い構造を持っています。
こういう作品を緻密に組み立てられる才能というのは、
そうざらにあるものではなく、
三谷さん自身も、
最近ではこうした緻密なシチュエーションコメディは書いていません。
登場人物は13人ですが、
1人1人の役柄が綺麗に描き分けられていて、
最初の10分くらいで全員のキャラがほぼ立ち上がり、
観客はその後全く混乱せずに群像劇に感情移入することが出来ます。
これもざらな才能ではありません。
敢えて言えば生徒の描写と比較すると、
大人である先生の描写は平坦で弱いのですが、
これは作者の年齢を考えれば、
仕方のないことだと思います。
まだまだこれから良くなる筈です。
構成的には前半のドロドロした多数派工作の辺りは、
決して目新しくはなく、
描ける人も多いと思うのですが、
後半の展開からラストに掛けての流れは、
普通は息切れしてしまって、
容易にまとめられるものではなく、
それをここまでまとめた劇作の巧みさには、
久しぶりに鳥肌の立つような感銘を受けました。
作者自身による演出も、
なかなか巧みなもので、
演出の才も充分にあります。
まず、最初の生徒会長と顧問の先生の応酬から、
一気に作品の世界に引っ張り込む、
小気味よさが良いですし、
ただの机を斜めに並べただけの装置を、
ライトの切り替えだけで生徒と先生の部屋にするのも、
極めてリズミカルでスムーズですし、
その机がそのまま会議室になるのも面白いのです。
そして、決裂後は机の配置を変えて、
ラストに繋がる辺りも絶妙です。
キャストは若干2名を除いては水準以上の芝居で、
特に野澤太郎さんと熊谷有芳さんの、
台詞回しの技術と軽快なテンションが、
舞台の流れを作りました。
劇団メンバーの4人は、
非常にきめ細かい役作りをしていて、
却って芝居が小さくなっているのが、
少し残念に感じました。
ただ、彼らの堅実さが、
舞台のリアリティの下支えになっていたと思います。
上演は29日まで続きますので、
小劇場の良い芝居を観たいと思われる方は、
是非ご覧下さい。
絶対のお薦めです。
(台詞がボロボロでしたら申し訳ありません。
それはもうないものとしてお薦めしています)
最後に1つだけ…
劇団名は良くないと思います。
カタカナ名称も変だし、
覚え難くて詰まりません。
それでは演劇の2本目に続きます。
六号通り診療所の石原です。
今日は祝日で診療所は休診です。
久しぶりに神奈川の実家に行く予定です。
祝日なので趣味の話題です。
まず演劇の1本目です。
若手のシチュエーションコメディ劇団、
アガリスクエンターテイメントの新作公演が、
今新宿のサンモーススタジオで上演中です。
これは久しぶりに良い芝居でした。
戯曲の出来栄えが素晴らしく、
特に後半一旦壊れた関係をどう修復させようか、
という辺りの段取りの見事さには、
観ていてちょっと鳥肌が立ちました。
作・演出の富坂友さんは、
間違いなく三谷幸喜に匹敵する書き手で、
しかも人間観察の視点に、
嫌味なところやひねくれたところがありません。
人間として実にピュアです。
こうした感覚を持つ作家は、
他には宮部みゆきさんくらいしか思い至りません。
おじさんとしては、
こうした考えの若者がいるのだから、
この世の中もそう捨てたものではない、
と感じました。
演出も悪くないのです。
惜しむらくはキャストに若干2名、
どう考えても駄目な役者さんがいて、
全体のレベルを大きく下げているのが欠点です。
失礼になるのでお名前は書きませんが、
皆さんも分かってらっしゃると思います。
お一人は演技の経験があまりない方のように思うので、
キャスティングのミスだと思います。
でも、せめて台詞はノーミスにして下さい。
もうお一人は自分勝手な芝居をして、
それで全体のリズムを崩し、
そんな調子なのに台詞も忘れる、
という個人的には頂けない態度の方で、
僕がこんなことを言うのはおこがましいのですが、
あなたの心掛け1つで、
この芝居は1.5倍くらい良くなるので、
どうかもう一度(と言わず二度三度)台本を読み直して、
台本に忠実に台詞を喋ることに、
専念して欲しいと切に願います。
お話は高校で、
卒業式の直前に、
それまでは認めていた国家と国旗の扱いを、
校長先生が急に翻して学生の案を拒否するので、
学生の代表と先生の代表が、
話し合いをして解決しよう、
と言う話です。
作者の冨坂さんも書かれているように、
政治絡みの話は本質ではなく、
異なる意見を持つ集団が、
どのようにして平和的に合意を形成するか、
という話です。
その意味では、もっと話は大きく、
人間同士のあらゆるいざこざや紛争にも、
通底するような人間の心理の綾を描き、
その陥穽からの脱出方法を、
極めて真摯に検証した結果です。
と言っても、決して頭でっかちな作品ではなく、
楽しいシチュエーションコメディとして観ることが出来ます。
笑いの配分も適切で伏線の張り方もうまく、
何より山場を綺麗に作る技術が巧みです。
2時間を退屈をさせずに疾走し、
観客の心にラストに残るものは、
意外に大きく熱い物なのです。
キャストを替えて上演すれば、
古典になる作品だと思います。
若干2人の役者さんの台詞さえまともに流れれば、
個人的には必見です。
以下ネタバレを含む感想です。
共学の学生自治の伝統のある高校で、
新しく赴任した校長により、
一旦は決定された卒業式の次第が、
受け入れられないと拒絶された、
という通達を、
女子の生徒会長に生徒会顧問の先生が、
持って来るところから物語は始まります。
卒業生入場の前に、
国旗の掲揚と国歌の斉唱を、
希望者のみで行なう、というのが学生案だったのですが、
校長の意向は、それを卒業生入場後にしないと駄目だ、
というものだったのです。
生徒会長はその申し出を拒否し、
校則にある生徒と先生との話し合いの場である、
「連絡協議会」で集団での話し合いがもたれます。
先生の中にも政治運動をされているような人もいて、
別に校長先生に皆賛同、というようなことでもありません。
また、学生側の多くの意見は、
つつがなく卒業式を成功させられればそれで良い、
というものなのですが、
生徒会長だけは、
学生の自治という「理念」に、
より拘っているように思えます。
そこから意見のぶつかり合いがあり、
水面下での支持者を増やそうとする、
駆け引きがあったりもします。
採決引き伸ばしのための時間稼ぎがあったり、
スキャンダルや進級をネタに、
ゆすりまがいの交渉も行われます。
ここまでの遣り取りもなかなか面白いのですが、
本当にこの作品の真価があるのは、
一回交渉が決裂した後の後半で、
ひょんなことから、
先生側、生徒側の中での、
無意味な拘りや意地についての問い直しがあり、
そこから土壇場での再交渉と同意形成に向けて、
心躍るクライマックスが待っています。
密室での議論の、対立から合意形成を描くというドラマは、
言うまでもなく「12人の怒れる男」の換骨奪胎ですが、
その変奏曲でもある、
三谷幸喜さんの傑作「12人の優しい日本人」に、
この作品はより近い構造を持っています。
こういう作品を緻密に組み立てられる才能というのは、
そうざらにあるものではなく、
三谷さん自身も、
最近ではこうした緻密なシチュエーションコメディは書いていません。
登場人物は13人ですが、
1人1人の役柄が綺麗に描き分けられていて、
最初の10分くらいで全員のキャラがほぼ立ち上がり、
観客はその後全く混乱せずに群像劇に感情移入することが出来ます。
これもざらな才能ではありません。
敢えて言えば生徒の描写と比較すると、
大人である先生の描写は平坦で弱いのですが、
これは作者の年齢を考えれば、
仕方のないことだと思います。
まだまだこれから良くなる筈です。
構成的には前半のドロドロした多数派工作の辺りは、
決して目新しくはなく、
描ける人も多いと思うのですが、
後半の展開からラストに掛けての流れは、
普通は息切れしてしまって、
容易にまとめられるものではなく、
それをここまでまとめた劇作の巧みさには、
久しぶりに鳥肌の立つような感銘を受けました。
作者自身による演出も、
なかなか巧みなもので、
演出の才も充分にあります。
まず、最初の生徒会長と顧問の先生の応酬から、
一気に作品の世界に引っ張り込む、
小気味よさが良いですし、
ただの机を斜めに並べただけの装置を、
ライトの切り替えだけで生徒と先生の部屋にするのも、
極めてリズミカルでスムーズですし、
その机がそのまま会議室になるのも面白いのです。
そして、決裂後は机の配置を変えて、
ラストに繋がる辺りも絶妙です。
キャストは若干2名を除いては水準以上の芝居で、
特に野澤太郎さんと熊谷有芳さんの、
台詞回しの技術と軽快なテンションが、
舞台の流れを作りました。
劇団メンバーの4人は、
非常にきめ細かい役作りをしていて、
却って芝居が小さくなっているのが、
少し残念に感じました。
ただ、彼らの堅実さが、
舞台のリアリティの下支えになっていたと思います。
上演は29日まで続きますので、
小劇場の良い芝居を観たいと思われる方は、
是非ご覧下さい。
絶対のお薦めです。
(台詞がボロボロでしたら申し訳ありません。
それはもうないものとしてお薦めしています)
最後に1つだけ…
劇団名は良くないと思います。
カタカナ名称も変だし、
覚え難くて詰まりません。
それでは演劇の2本目に続きます。
2015-03-21 07:56
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コメント(2)
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こんばんは。fujikiさまのおすすめだったので、今日、観てきました。おすすめ通り、すごく良かったです!最近、少しずつ小劇場を観ているのですが、いい劇団を「見つけた!」という感じで、観るきっかけを与えていただいて、感謝しています。台詞に関しては、そんなに気になることはありませんでした。冨坂さんには、確かにまっすぐな感性を感じますね。若い作家の才能を感じて、今後に期待できるのは、嬉しいです。
by クッキー・ママ (2015-03-27 20:08)
クッキー・ママさんへ
なかなか素晴らしいですよね。
気に入って頂けると、とても私も嬉しいです。
台詞はかなりボロボロでしたが、
後半には大分持ち直したのではないでしょうか。
by fujiki (2015-03-27 23:13)